見出し画像

どうする、旅館料理|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム043

◯旅館ホテル・観光にかかわる、老若男女様々なプランナーによるリレーコラムです。

旅館の食事は、いつだって旅のハイライトである。 これぞ旅館料理というものから、名物料理をメインにした献立や、洋食調理とのコラボ献立、ワクワクするビュッフェ料理まで、工夫を凝らした旅館料理の進化には目を見張る。このところ、その進化は多様性だけでなく、質の高さにも及んでいる。

そのために、他館との差別化をどうすればよいのか、経営者・企画営業・調理場が頭を突き合わせて開発に奮闘されている日々であろう。出来上がった献立に、意見を求められることもしばしばであるが、そのご苦労を思うと、とても簡単に感想を申し上げることなどできない気持ちにもなる。

そこで、ここは「独りごと」という場を借りて、旅館料理、いわゆる会席料理の献立とサービスについて述べてみようと思う。

料理の品数、どうする

日本料理の献立では、先付・前菜からはじまり、留椀・ご飯・香の物・水菓子まで入れると、優に12−13品がラインナップされる。元々は、一つずつのポーションが少なく、品数でそのバリエーションを楽しんでいただく趣向だったものが、ひと品ずつの完成度が高められてくるうちに、品数はそのままでポーションが多くなったきらいがある。

この3年間で、すっかり個人化が進む中で、これまでの旅行社から求められてきた(と営業担当が主張していた)品数の縛りが解かれ、品数を減らすことに抵抗感がなくなったと感じているであろう。実際、留椀以降の4品を入れても全8品というところも少なくない。従来の3分の2である。

一方で、古典的なスタイルの日本料理は、本格的だと評価を受けるだろうし、外国人客や若い世代には驚きを持って賞賛されるかとも思う。商品力として、それはそれで優位に立つものになりうる。

ここで考えるべきことは、自館の料理方針をどうするか、であろうが、品数の方針は、運営にも関わるテーマである。仕込み、調理、器出し、盛り付け、搬送、提供、説明、下げ物、洗い物、器収納…という全ての工程に影響があり、手数が限られている昨今の状況を考えると、品数にどうこだわるかは重要なテーマであろう。

そういう意味では、調理場に「品数を減らして」と委ねるのではなく、経営問題として共に改革を進めることが望まれているはずだ。


料理検討会、どうする

共に改革を進めることが「見える化」される機会が、料理検討会であろう。この3年間の不安定な環境の中で、定期的に行ってきた料理検討会が途切れてしまっていた、あるいは縮小していた、という話を耳にする。提供を担当する係への説明会も同様だ。

今こそ、このような機会を再開し強化するチャンスである。

料理検討会では、前述の「品数」や「器づかい」を、運営面から検討することも求められるだろう。もちろん、検討会以前に、料理方針を十分に話し合っておく機会も欠かせない。

従来の美味しいかどうか、見栄えはどうか、原価率はどうか、ということに加えて、無理無駄のない運営環境と、特に大切なのは「提供演出」を検討されるとよい。高付加価値を志向するならば、その料理の価値を最大化するための「提供演出」、すなわち提供時の見せ方と言葉の添え方を、ある程度想定しておくことが重要だ。

係への説明を、文書1枚で、あるいはオンライン共有で、終わらせるのでは、効率はよいが、本当に想いや一体感を育むことが難しい。高付加価値を生み出す環境づくりに欠かせない「想い」の共有は、調理長自らが伝えることで大きな影響力を生む。一体感の醸成のためにも、説明会では一方的に伝えず、係の質問にも耳を傾け、正しい知識をあたえる機会にしたい。

自館の料理を理解することで、誇りと意欲が生まれ、伝えることばを持つことで、料理を出すことだけが仕事ではなく、料理の価値を高めることをやりがいとして感じられるようになるはずだ。

お品書き、どうする

料理は本来、じっくり味わって、幸せを感じていただくものかもしれない。お品書きや説明の言葉がなくても美味しいものは美味しいものであることが最高なのかとも思う。

とは言うものの、である。ことばによって価値を感じてもらい、満足感を高める方法は王道である。

クチコミに、「季節感が感じられなかった」「もっと地元の食材を使うとよい」などと書かれると、調理場からは「ちゃんと使っていますよ、係が説明しないから伝わらない。」と言う声があがる。

ところが、係から説明することが大切だとわかっていても、説明の加減は難しい。一生懸命覚えて伝えても、「説明がマニュアル的だった」「説明が長い」などと言われる。説明を聞きたいと思うお客様もあれば、早く食べたいと思うお客様もいる。

そこで、お品書きが活きる。お品書きの料理名に季節や産地を記載することは伝統的ではない、と聞いたことがあるが、新しい時代の伝え方として、お品書きを見直す余地は大いにある。

季節感を表現する例
ストレートに伝わることばを添えてみると・・・
・前菜 五種盛 ⇨ 前菜 五種盛 〜初夏の〇〇(地域名)の野山を写して
・炊合せ 冬瓜 茄子 鶏そぼろ餡 ⇨ 炊合せ 夏野菜冬瓜茄子 鶏そぼろ餡

地産地消を表現する例
すでにどちらでも使われているものに、ブランド肉の名称がある。
・鍋物 和牛陶板焼き ⇨ 鍋物 〇〇牛A5ランク 陶板焼き

使える時には使いたいが、仕入れが安定しないのが地魚であろう。毎日お品書きを書き換えているところもあるだろうが、多くのところは献立を変えるまでは書き換えずに使うことが多いのも、地元や季節の食材を使うときに悩ましい点だ。そこで、具体的な食材名を使わずに表現することを考えてみる。
・お造り 鮪他五点盛 ⇨ お造り 鮪他〇〇(地域名)近海産地魚など5点盛

さらに、使っている味噌・醤油などの調味料や豆腐など、地元の企業から仕入れていることは少なくない。これも地産地消の一部である。
・〇〇町〇〇商店特製醤油/豆腐・・・創業明治〇〇年〇〇豆腐店から毎朝届きます

このように、自館のお品書きにもう少し書き足すことがないかどうか、考えてみてはどうだろうか。また、朝食にお品書きを添えてから、朝食の評価が好転した例もある。


団体料理、どうする

3年間のブランクは、団体料理を見直すチャンスでもある。

かつては、団体プランは半年以上前から提示する必要があり、旅行者からの申し入れなどの制約を受けて、自由に料理開発をする環境ではなかった。食材や手間のことを考えれば、先行して決まっている団体料理の後を追うように、個人のお料理を決めていくことになるのも無理もないことだった。品数のことも、本を正せば、団体料理が念頭にあったことは先に述べたとおりである。

ここへ来て、個人向けの献立を、団体料理として出せるようにと検討が始まっている。団体発想から個人発想への転換である。

団体料理を検討する場合に考えなくてはならないこともいくつかあるが、それでも、「以前は想像できなかった、美味しく美しい料理が出せるようになった」という感想が聞こえる。

検討することの一つは、器の大きさである。個人向けに作られた料理は、割合に大きめ器に盛り付けられ、品数が少なくなっても一品一品の充実感がある。ところが、これをこのまま団体料理に当てはめるとなると、長手盆などに載せられる数に限界があり、いったい何往復すればつけ終わるのか、と現場で悲鳴が上がった例もある。

また、お酒の席である以上、注ぎ合ったり、話に夢中になったりすれば、料理に箸が進まず、提供されて何十分も経ってから手をつけることも少なくない。出しておいても召し上がっていただける料理であるかどうかの検討は欠かせない。鍋物や陶板焼きなどを個人と同じように提供していると、材料に火が通らない、冷めてしまって固くて食べられなくなった、などの例もある。

そもそも、団体料理の提供に慣れていないスタッフも増えてしまった昨今、サービスの手順とともに料理を考え、手順をトレーニングし、団体対応のスキルを上げていかなければならないだろう。

これから、どうなる

品数・料理検討会・お品書き・団体料理、と思うがままに、気になっていることや取り組みの事例などを書いてみた。すでにされていること、うちには合わない、ということもあるとは思うが、変革のチャンスの参考にしていただけることがあるならば、たいへん嬉しい。

そのうち、AIが、原価を考慮した評価される献立を考案してくるかもしれない。それでも、わざわざおでかけいただいたお客様のことを思って、料理を作り、料理を運び、料理の説明をする、それは私たち人間にしかできないことだと自負していただきたいと思う。

※2023/07/27公開の記事を転載しています


毎週配信をしているリゾLABのメールマガジン「リゾMAGA」。新着記事の紹介、旅行・観光関連のデータやプレスリリースなど、旅館・ホテル業界に関わる方におすすめの情報を届けます。

▶メルマガ登録はこちらから


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

記事を最後までお読みくださり、ありがとうございます。励みになりますのでコメントいただくのも嬉しく、今後の参考になります。また、課題共有と解決ご提案、協業のご相談は、お問合せフォームよりリゾLAB編集部までお気軽にお寄せください。適切な担当者がご返信いたします。