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昨年から本格的なDX化へと大きく舵を切った紀州白浜温泉むさし、気になるその後の現況をレポートします

日本三古湯のひとつにも数えられる紀州・白浜温泉を代表する宿のひとつ、紀州白浜温泉むさし。

以前のリゾLABではこの老舗宿のDX化推進について特集しましたが、今回の記事では実際の導入後にどのように活用されているのかなど、気になる現場の実情を続編としてレポートします。


1.各部署の多様なニーズを柔軟に、かつスピーディに満たせるPMS「満室御礼」

むさしがPMSの入れ替えを検討し始めたのは昨年の2月。ちょうど既存のPMSの契約期限を迎える頃のことでした。
むさしではコロナ前後の宿泊状況や受け入れの変化に加え、帳票処理や画面のユーザビリティなど、各部署からの改善要望を集約し、これらをカスタマイズすることで宿としての対応力のアップを図ろうとしたのですが、むさしの要望するカスタマイズを反映するには既存PMS会社では1年以上の期間を要することが判明。
宿の経営そのものの根幹をなすシステムを止めることはできず、その一方で改善要望は喫緊の課題でもあったことから、新たなPMSの導入の検討をスタート。
宿の規模やサービス、カスタマイズ要望などを満たした上で、早急に導入・稼働が可能なPMSを探す中で白羽の矢が立ったのが、長年の付き合いがあったエイエイピーから提案された「満室御礼」でした。
基幹システムは言うまでもなく、多彩なオプションツールとの連動が可能な満室御礼は、多くのスタッフがあらゆる情報を共有することができ、その操作もごく簡単なことから、導入後は各現場のスタッフからも「これまでより業務効率と生産性がアップした」との声が数多く聞かれるようになりました。
 

2.旅館ホテルのDX化は、「自館とのフィット感」がポイント

新たなPMSの導入に当たって、むさしでは他館で導入しているシステムの調査やその使い勝手についてのヒアリングなども行い、数種の候補での比較検討を行いました。
そこでわかったのが、PMSの入れ替えや導入に当たって重要なことは、「自館が直面している課題は何か」また「導入後にはどんな活用のしかたを想定しているか」などを十分にシミュレーションしておくことが大切なポイントだということ。
各部署からの数々の要望が多様な周辺ツールとの連携によってクリアできること。また148室という宿としての規模感・予算感にもぴったりフィットしたことが、むさしが満室御礼を選定した決め手。
またエイエイピーとの長い付き合いを通して築いてきた「何かあった時にも安心」という信頼感も大きかったと言います。
この「満室御礼」とそのオプションである「配膳管理システム」の導入にあたって、むさしでは『IT導入補助金』を利用しましたが、エイエイピーを通じた申請のサポートも十分に行われたため、申請〜採択までの手続きもごくスムーズに済ませることができました。

PMS「満室御礼」

3.導入したデジタルツールの稼働状況と、その使い勝手は?

満室御礼と合わせて下記のような多彩なオプションも導入したむさし。
いちばん気になるその使い勝手についてはどうなのでしょうか。

<むさしが導入した「満室御礼」拡張オプションの一例>
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●タブレット・チェックインシステム
●パスポートリーダー連携
●SMS送信サービス
●モバイル・ルームインジケータ
●宿泊者情報閲覧
●タッチレス・チェックインシステム など
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新たなシステムの導入後、むさしが最もその効果を実感している一例が、フロントおよび予約業務のスムーズ化です。

これまでは繁忙期のチェックイン・アウト時に、お客様がフロントのカウンターにズラリと並ぶ状況が当たり前だったそうですが、それを解消したのが「タブレットチェックインシステム」。

フロント・ロビーに並べられたタブレット

ごく一部を除くすべてのお客様がフロントに配置されたタブレットでチェックインを済ませることができるようになった上、タブレットをレジカードとしても使用できることから、フロントでの接客業務の時間が飛躍的に短縮化され、お客様をお待たせすることがほとんどなくなりました。

また海外のお客様の住所などが事前情報と異なるケースもままありますが、そんな時もタブレット上で即時修正することができるなど、お客様をお迎えする際の受付業務をほぼタブレットに一本化させることができました。

またむさしでは客室清掃も自社スタッフが担当していますが、これまではその客室が清掃済みなのか作業中なのか、また全体の作業進捗はどうかなどを清掃担当者やフロントが情報共有するために常に人手を介していましたが、客室清掃の管理システム「モバイル・ルームインジケータ」の導入以降は、こうした連絡業務の一切が不要に。

客室ごとのリアルタイムな清掃状況を関連スタッフ全員がつねに共有できるようになり、スタッフが装着しているインカムとの併用によって、飛躍的に生産性の向上を図ることができました。

さらに調理部署においてもDX化は大きな効果を見せています。

食事関連は旅館の業務の中でも特に人手に頼る場面の多い業務ですが、「配膳システム」の導入後は、画面を見るだけで今日のお客様・今後のお客様の情報が常に確認できるようになりました。

また宿の現場では、予約時にはバイキングで申し込んでいたお客様が急遽会席料理への変更を要望するケースなども、まま見られます。これまではこうした対応も関係スタッフ間の密な連絡でこなしていましたが、今ではシステム上の配膳管理画面で瞬時に共有できるようになり、業務効率のアップはもとより、仕入れの効率化にも繋がっているそうです。

人件費に換算するとその業務改善効果はフロントで2名分、清掃関連で4名分以上に相当するそうで、「厨房やレストランにおいても大きな効率アップが図れていますし、総スタッフ150人の全館を通して考えると、10−20名分以上人件費のカットになっているのではないでしょうか」と女将は言います。

実際にコロナ前の一時期に人件費率が40%以上にまで拡大したものが現在は35%ほどにまで低下してきているとのことで、今後もさらに積極的なDX化の推進を図っていきたいと語っています。

POS・オーダリングシステム ORDERETTE

4.ベテランスタッフも自然に仕事にデジタルを取り入れているのが、むさし・スタンダード

むさしでは既に社員間の会話連絡をテキスト保存できる「SmaTalk Biz」を導入し、日頃からスタッフ間の連絡に盛んに活用されています。

日常的にデジタルツールに触れていることから、今回の基幹システム変更や各部署で使われる新たなITツール導入への抵抗感は思ったよりも少なく、前回のシステム変更時にくらべると圧倒的にスムーズだったようです。

システム変更による操作方法や使用感の違いについても、電算インフォメーションの担当者が、宿のスタッフにていねい・適切な説明アドバイスをしてくれたので、導入のハードルは当初想像していた以上に低かったと言います。

導入後の各部署についても特に大きなトラブルはなく、これまでパソコンがなかった部署においても、日常業務の中で自然にパソコンやスマホの画面を確認する姿が当たり前になりました。

これは電算インフォメーションの担当者による指導に加えて、スタッフ間での教え合いが奏功した結果。

これまであまりデジタル機器に接してこなかったベテランや外国人スタッフに対しては、各部署の若手スタッフが積極的に働きかけ、ワンアクションの簡単な操作から少しずつ扱い方を教えることによってクリア。

最もデジタル機器に馴染みの薄かった部署のひとつである調理セクションのベテランでも、自分が必要とする情報に簡単にアクセスできることを体験しさえすれば、デジタルツールならではの便利さやメリットの大きさを実感できることから、誰もが自然に自分の仕事にデジタルを活用する姿勢が生まれ、これがむさしの全スタッフにおけるスタンダードとして定着しています。

 

5.DXの導入・活用を機に、社内の風通しがさらに良好になるという副産物も

むさしでは従来からスタッフ間の人間関係が良いことが自慢のひとつでしたが、今回の満室御礼と多彩なオプション機能を実稼働させることで、ほぼすべてのスタッフが日常的にデジタルツールを活用することとなりました。

調理セクションは、調理の面では上司部下の関係はあるものの、デジタル機器の使い方については若手が活躍するような場面が増え、職場内での人間関係がより円滑になっていることが実感できるそうです。

業務のスムーズ化や省力化を主目的としたむさしのDX化。卵が先か鶏が先かはわからないものの、幅広いITの活用が副次的にさらに風通しの良い社風や職場の形成にも一役買っていることは確かなようです。

人気観光地である紀州白浜エリアの中心部にある宿として、経営だけにとどまらず地域振興や次代継承、人材問題など幅広い課題への対処に取り組んでいるむさし。

旅館のサービスのあり方や「人」の有効な活用など、次代も変わらず最高のサービスを提供するためには、多方面へのITの導入と活用こそが大きなブレークスルーのカギを握っていると考えています。
お客様に喜んでもらうために、旅館ホテルは今何をすべきなのか。

この普遍のテーマに具体的に取り組んでいくためには、従来のやり方に固執するのではなく、時代の変化を常にゼロベースで捉え、自身がどうあるべきなのかを真摯に考えて続けていくことが大切なのではないでしょうか。

▶紀州・白浜温泉むさし 公式サイト

※2023/11/02公開の記事を転載しています


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