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【後編】2022年12月のオープンから多くの来場者を集めつづける「おふろcafé yusa」、大人気の施設を支える運営戦略と、低コスト実現のヒケツとは?

山形の老舗宿として名高い古窯グループの、黒沢温泉「悠湯の郷 ゆさ」に、2022年12月に東北初の「おふろcafé yusa」が誕生して、ちょうど一年。

【前編】記事でもご紹介した通り、「果樹園×クラフト×カフェ」をテーマとしてお風呂やサウナガーデンはもちろん、暖炉スペースやブック・ライブラリー、キッズスペース、さらには地産の味を楽しめるcafeなどの多彩な楽しみを提供することで、地元はもとより広く他県からも多くのお客様を集めています。

【後編】となる今回は「おふろcafé yusa」の運営・マーケティングを担当している木幡さんに、圧倒的な人気を実現するその運営戦略と、驚きの低価格を支えるマネジメント手法などについてお話をお聞きしました。


1.東北初となる「おふろカフェ」の立ち上げという一大プロジェクト

-オープンに至るまでには多くの課題があったと思いますが、ご苦労されたことや工夫したことなどはありますか?

現在おふろcafé yusaが入っている1階と2階は、以前はロビーや倉庫のようなスペースだったのですが、この空間に果たしてどんな形でおふろカフェが収まるのか、またそれをどのように運営していくのかなどを事前に想定するのが難しく、立ち上げに際しては苦労以前に不安の方が大きかったですね。

しかもこの施設は東北に初めて誕生するものであり、またおふろカフェ本体としても宿泊施設とのコラボ事例がホテル1件のみという状況でしたから、東北の旅館とおふろカフェの組み合わせという事業は何もかもが初めて尽くし。

もちろん私も利用者の目線としてはこの施設の魅力と大きな可能性を感じてはいましたが、こと運営側に立った場合は話が異なります。

前例がほとんどない中での船出を控えて、「この施設と仕組みが果たしてお客様に受け入れてもらえるのか」「ゆさの新しいコンテンツのひとつとして機能するのか?」という思いがありました。

そんな中でオープンを迎えて以来、おかげさまで多くのお客様からの評価と支持をいただくうちに、少しずつ安心感と自信が育ってきているというのが正直な気持ちです。

特に若いスタッフにそれが顕著で、いわゆるトップダウンではなく施設の立ち上げ時点から多くのスタッフが関与していますので、自分ごととしての意識や愛着も高く、館内の企画やレイアウトなどにも自ら積極的に取り組んでいます。

オープンから約一年を迎えた今は、今後のマーケットの広がり次第では、観光の新しいビジネスモデルになるかもしれないという可能性を感じているところです。

2.利用料金の低額化を実現するのは、積極的なDX化と徹底したコスト管理

-おふろcafé yusaは、低料金で気軽に利用できることが大きな特徴ですが、運営コスト管理のポイントは何でしょう?
まず最も重視しているのはやはりDX化です。
ゆさでは現在Google Workspaceをベースとして使用し、全社員にアカウントを付与しています。社員どうしのコミュニケーションはチャットが基本。これで日々の細々とした連絡のために移動したり相手を探したりする無駄がなくなり、スタッフ間のコミュニケーションはもちろん、情報共有も飛躍的に円滑になりました。
またコロナ対策もあって、対面会議をできるだけ行わないようにしていましたので、これも併せて総合的な業務効率が従来よりも大幅にUpしました。
経営陣自らが旗振り役となって全社でのペーパーレス化を推進していますので、これ以外にも積極的にデジタル化が浸透しています。
例えば従来はかなりの人手を要していた客室清掃の進捗などをスプレッドシート化して共有すれば、それまでいちいち電話で伝えていたことが、誰にでも簡単にリアルな状況を共有できるようになり、時間とコストの大きな削減につながります。
さらに紙からの脱却を進めるのと並行して、個々のスタッフが無駄な資料を作らずに業務全体をシンプル化・最適化していこうという意志を持つようになったことも、低コスト化に大きく貢献していると思います。
DX化に関しては、従来のやり方に馴染んだベテランほど苦労するという話をよく耳にしますが、ゆさの場合はむしろ管理職のメンバーが率先して各種ツールを活用し、デジタルを使わないと仕事が進まないような環境を構築しています。
上司や先輩が業務にデジタルツールを当たり前に活用している姿を見ると、若手もそれを当然のこととして受け取ります。もともと若い世代ほどデジタルに親和性が高いので、こうした環境が全社員の自発的なデジタルへの取り組み方につながっているのだと感じています。
DX化によって業務や管理面のコストを低減できれば、当然販売価格も低く抑えることができ、お客様にも喜ばれます。
低コスト運営の実現は、「いかにして好循環を生み出すきっかけをつくるか」がカギなのではないでしょうか。

3.メディアとターゲットに合わせた、フレキシブルな広報戦略

-個性ある施設として、広報戦略についてはどのような工夫をされていますか?

「悠湯の郷 ゆさ」の広報戦略としては、以前は地元でのCMなども展開していましたが、今はSNSの広告運用をメインに考えています。

またおふろcafé yusaのオープンを機に、ありがたいことに各種メディアからの取材などいわゆるパブリシティが増えていますのでそれも有用に活用させていただいています。

その他の活動としては、若い世代への訴求に向けてインフルエンサーを招待して記事を公開していただき、フォロワーの方々に情報発信・波及していただく取り組みや、地元フリーペーパーなどへのテスト的な露出なども行っています。

こうした広報戦略において特に意識しているのは、例えば「じゃらん」では「ゆさ」をメインにして、おふろカフェについてはあまり触れないなど、発信するメディアと想定するターゲットによって「ゆさ」と「おふろカフェ」の訴求方法をきめ細かく切り替えることです。

SNSメインでの広報戦略においては、メディアごとに最適化した発信のしかたを模索することを強く意識しています。

またこれは母体である古窯グループの名を入れるか入れないについても同様です。実際に古窯グループの名を入れた場合と入れない場合のターゲットからの反応差などをテストマーケティングし、つねに投資コストと反応が最適化された広報戦略を確立することに力を注いでいるというのが現状です。

4.悠湯の郷 ゆさと、おふろcafé yusaが今後めざすもの

-地域に開けた施設として、今後の展開をどのように考えていますか?

地域の交流拠点という役割を持つ西洋のホテルとは違い、日本の旅館は宿泊されているお客様に向けて贅沢な時間を提供することがその特性です。

しかし今回のおふろcafé yusaの誕生によって、これまでの伝統的な旅館の良さに加えて「誰もが利用できるオープンな施設」というイメージがプラスされたことで、施設そのものの立ち位置がこれまでとは大きく変わってきています。

特に若い世代に向けたアピール力という点でその効果は大きく、さらにおふろcafé yusaでは若手の現場メンバーが企画を考えていることもこれに輪をかけて、若年層にフィットするような発想やアイディア、企画力が次々と生まれるようになっています。

自分のアイディアが実現することはスタッフ自身のモチベーションにもつながっていて、つねに新たなコンテンツを積極的に盛り込もうという機運が醸成され、これが従来の古窯にはない新たな特性となって根付いています。

こうした一連の好循環は、間違いなくおふろカフェというビジネスの斬新性やクリエイティブ性がきっかけの一つとなっていると思います。

また地域に開けた施設として広く認知していただいた結果として、地域の他業種からのイベント出店のお声がけをいただくことも増えたことで、この施設自体を古窯グループ内の新メディアとして捉える下地が生まれてきました。

こうした地歩が固まってきたことで、今後はおふろカフェというコンテンツを通じて、もっともっと地域と広く深くつながり、地域の交流人口を増やすことに貢献できる未来が見え始めました。

地域の方々と一緒に交流人口の増大を図り、山形県を盛り上げるためには、まず多くの人々とのタッチポイントを拡大していくことが重要です。

私たちとしては、「今あるモノを、どのようにうまく活用できるか」という発想を原点として、旅館業の括りに縛られず、新たなビジネスを柔軟に発想していこうと考えています。

例えば今、全国的に空き家問題が顕在化してきています。ここ山形でも同様の状況となっていますが、そんな空きスペースを若者が新たなチャレンジのためのステージとして活用することができれば、将来につながる新たなビジネスモデルが誕生するかもしれません。

例えば行政が場所を提供し、民間が人材とオペレーションを担当するというようなスキームがあれば、旅館もこれに賛同して地域交流人口拡大に役立てるかもしれません。

私たちとしては、他業種とのコラボに対してつねにウェルカムな姿勢を持っています。

今の山形県の実情をより広い視点から俯瞰して見れば、そこにはきっとブレークスルーの可能性が見つかると思います。

従来の常識に囚われることなく、つねに「新しいスタイルで、新しいことができないか」を、ぜひ模索し続けていきたいと思っています。

■プロフィール
株式会社古窯ホールディングス
ブランドデザイン室 室長
木幡 純一さん
都市部でSEとして活躍した後、QOLを充実させるために時間がゆっくりと流れる地域での暮らしを希望して、古窯グループに入社。
おふろカフェの立ち上げ後は、前職でのスキルを生かして広報・デザイン・ブランディング業務を主導するとともに、日々増え続けるお客様に向けてより快適な環境を整備・提供するために部署を横断した幅広い活動を展開中。

木幡さんのnoteはコチラ↓



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