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幸せを提供する「福ごこちの宿」の実現を主軸に、幅広く地域ブランドの向上をめざす南房総鴨川館の取り組み

トップランナー Vol.27
千葉県南房総 鴨川温泉 鴨川館専務取締役 武田和香子さん
 
 
 
雄大な大海原の絶景が望める南房総エリアに拠点を構え、「鴨川館」や「別邸 ラ・松廬」、「Dogサバトリーのある宿 ご・遊庭」など、多彩な客層に向けたバラエティ豊かな宿泊施設を運営している株式会社吉田屋。

今回のトップランナーは、女性リーダーとして各宿泊施設の運営とリニューアル計画を主導する傍ら、農業による特産品の創出など南房総の地域活性化に向けた幅広い取り組みを積極的に推進している株式会社吉田屋専務取締役の武田和香子さんにお話をお聞きしました。
 
 
 
 
1.株式会社吉田屋のリニューアルの歴史を振り返って
 
株式会社吉田屋の近年の設備投資としては、20年ほど前に手掛けた「別邸 ラ・松廬」がその本格的な取り組みのスタートでした。

当時の私どもの最大の課題は旅行客が団体から個人へと移行していく中でどうしたら個人客を集められるかという点にありましたので、ことさらに施設の規模を大きくしようというのではなく、所有している土地を有効活用して個人客に向けた取り組みをどうカタチにするかを主たる目的としたわけです。
 
南房総では海の眺望が最大の売りとなるのですが、「別邸 ラ・松廬」のある場所は残念ながら海が見えない立地。しかしこれを逆手に取って「海が見えなくても満足していただける宿」を創れば良いと考え、そのアンサーとして『5室限定の最上質ヴィラ』という現在のスタイルに行き着きました。

5室限定のヴィラ 別邸 ラ・松廬



これに次いで手掛けたのが愛犬と泊まれる「Dogサバトリーのある宿 ご・遊庭」ですが、これも個人客の多様なニーズの中に潜む「ペット連れのお客様」というマーケットに将来性を見出したことが立ち上げのきっかけでした。

愛犬と一緒に旅する方に向けた宿は今でこそ一般的になりましたが、当時はまだまだ貴重な存在だったこともあり、そのおかげもあってオープンから今日までお客様からもご好評をいただけています。

Dogサバトリーのある宿 ご・遊庭


2.その後も続々と新施設が誕生していますが、その基本方針となっているのは?
 
マーケットを絞った独自戦略を取ることで成功を収めている宿は全国にも多いのですが、こうした事例はそのほとんどが小規模の宿。

私ども60室規模の鴨川館の場合はこういった「ある属性のお客様だけ」に絞った個性的な戦略を取ることがなかなか難しいため、それに成り代わる独自のコンセプトを構築する必要があります。
 
旅行マーケットを俯瞰してみると、お子様連れや女性グループ、シニア世代の方、ペット連れのお客様など、その属性は多岐にわたっています。

そこで私どもとしては、先に挙げたような尖った経営戦略ではなく「幅広いお客様に対してそれぞれの満足をご提供する」という基本方針を採っています。
 
いわばジェネラルな経営方針とも言えるのですが、お部屋の種類やタイプにできるだけ幅を持たせたり、価格帯を広めに設定したり、また一泊二食に限らない宿泊プランも導入するなど、お客様それぞれのニーズに見合った商品が見つかる宿というポジショニングの確立をめざしてきました。
 
ただこれは口で言うほど簡単なことではありません。
どんなお客様にもお値段以上の満足度を与えるためには、つねに「どっちつかずにならない工夫」が求められます。
 
こうした点にきめ細かな配慮を行き届かせるために、私どもが最も重視しているのがお客様からのアンケート。

役員、支配人が全てのアンケートに目を通し、その中から改善要望を毎週幹部社員と共有し改善策を検討するなど、多くのご意見の一つ一つに真摯に向き合い、またつねに前向きにお答えするという企業風土を醸成してきました。

すべてのお客様に「滞在して良かった、満足した」と思っていただくこと。それが鴨川館の基本だと言っていいかもしれません。
 
 
 
 
 
3.高付加価値化を実現した、これらの新施設やサービスの成果・手応えはいかがでしょうか
 
 
こうした経緯を経て、近年では2019年に大幅なリニューアルを行い、水着で入れるインフィニティ温泉ぷーろ「HARUKA」や、20室の温泉半露天風呂付き客室などを新たにラインナップに加えました。
 
特にインフィニティ温泉ぷーろ「HARUKA」については、宿に滞在する時間の中でお風呂の時間は特に貴重なひとときであるという点に注目し、この大切な時間を男女が一緒に楽しむことのできる施設が創れないだろうかという想いから生まれたものです。

温泉は裸で入浴するというものというこれまでの常識がありますので、水着で利用していただくという点には正直なところ若干の不安もありましたが、オープン後はおかげさまで男女を問わず数多くのお客様ににぎわっています。

海の絶景をまるごと体感できるHARUKA


 
また直近の2023年には「特福室」を新設しました。
最上階の角部屋という館内でも最高の景観を誇る、このインフィニティプライベート温泉付き客室「特福室」は、鴨川館の貴賓室をイメージしたもので、価格も高めの設定となっています。

一般的に貴賓室はなかなか売れにくいというのが業界の現状だと思うのですが、ありがたいことにこれまで好調に稼働してくれています。

最上階に誕生した上質な空間「特福室」



この特福室と同時期にオープンしたテラスリビング「風光」は、「大人だけの空間」というコンセプトを据えた施設です。

多様なお客様にそれぞれの満足をご提供することを旨とする鴨川館ですが、そんな中にはもちろん「大人だけでゆったりと上質な時間を楽しみたい」というお客様もいらっしゃいます。

こうしたお客様に向けて、お子様連れのお客様と別の動線を保てるようにレイアウトしたテラスを新設したところ、この空間も「落ち着いた大人だけのリラクゼーションが楽しめる」とご好評をいただいています。
 
高付加価値化の取り組みとはやみくもに高額商品を造成することではないと思います。

お客様が「こんなものがあるといいな」と感じていることを一つ一つ実現する。鴨川館はそれを高付加価値化の主眼として考えています。
 
 
 
 
4.インバウンド対策などを含めた、今後の方向性についてお聞かせいただけますか?
 
全国的にコロナ前の状況に戻ってきたインバウンドですが、私どもの宿ではまだ海外観光客が少ないため、その対策が今後の大きな課題だと思っています。

ご存知の通り千葉県には成田空港がありますが、来日した海外観光客のほとんどが空港から都心方面へと向かってしまい、房総へ南下する方が少ないというのが現状です。
 
例えば箱根エリアと房総エリアの集客力の差は、強い地域イメージの有無と、その発信力・浸透度の大きさに起因します。

その意味でもインバウンドを含めた南房総の観光産業の活性化には、何よりもまず地域のブランド力やイメージの向上が必要となります。
 
県でもこうした状況への危機感から、OTAの勉強会を始めとした様々な施策に熱心に取り組んでいますが、その効果が現れるにはまだ時間がかかりそうです。

そんな状況下、鴨川館としてもこれまでのように一律な商品提供の仕方ではなく、様々なニーズを持った海外の方を受け入れられるよう柔軟な体制を整えることに取り組んでいる最中で、私たちも積極的に関わっている地域の観光情報発信メディア「ぶらっとBOSO」も、そんな考えを体現する取り組みのひとつです。
 
ぶらっとBOSO

 
 
また吉田屋では子会社に「株式会社みずほの国づくり」という農業生産法人を持っていて、近隣の土地を借りて農作業を行っています。

鴨川市はレモンの栽培が盛んなことから、地元のレモンを使用した洗顔フォームやフェイス&ボディクリームなどの化粧品を開発し、鴨川館のおみやげ処「うれしな」での販売や通販を展開しています。
 
当初は自社のみでの販売でしたが、近年は地元の小規模旅館などでも少しずつ私たちの商品を置いてくれるようになり、南房総の自然が生んだナチュラルな商品を「南房総に来た証」としてお買い上げいただけるようになってきました。

じわじわと輪を広げる草の根的な取り組みかもしれませんが、地域のブランド力を高めるために私たちができるこうした活動を今後も継続していきたいと考えています。

爽やかなレモンの香りで潤う「LimOce -リモーチェ-」


 
 
 
 
5.「福ごこちの宿」というコンセプトにこめた想いとは?
 
私ども吉田屋グループは創業60年余りとなりますが、旅館というのは昔から地域を背負ってきた産業のひとつであり、私たちよりももっともっと歴史のある宿がたくさんあります。
 
まず前提として、お客様は優れた地域観光資源があるからこそ南房総に来られるのであって、けっして私たち宿があるから来るわけではありません。

宿というものが、つねに地域ありきで成り立っているのだということをしっかりと認識し、そんな地域のために私たちに何ができるのかを考えていくべきだと思っています。
 
「福ごこち」という言葉は、鴨川館に泊まった誰もが幸せになり、運がよくなる、そんな素晴らしい滞在時間を提供したいという想いを表現したものなのですが、意外なところで採用面でも新人の方々の印象に強く残ってくれているようです。
 
すべての人を笑顔にすることはできないかもしれませんが、当館に泊まったお客様や、社員・パートの皆さん、関係業者の方々など、せめて鴨川館に関わる人々には幸せになってほしい。

「福ごこちの宿」には、そんな想いとともに、鴨川館が地域とともに発展していける企業になりたいという願いも込められています。
 
 
 
 
千葉県南房総 鴨川温泉 鴨川館
 
 
<プロフィール>
株式会社吉田屋 専務取締役
武田和香子さん
 
平成11年に株式会社吉田屋に入社後、仲居修行を皮切りに様々な部署の業務を歴任し、経営者と現場という2つの視点から観光産業や旅館の業務を立体的にとらえ続ける。
またみずほの国づくりや、地域情報発信メディア「ぶらっとBOSO」などの活動にも積極的に関わり、房総エリアのさらなる活性化に力を注いでいる。


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