200年以上の歴史と伝統を誇り、いまーSDGs未来都市づくりの担い手として豊かな海、まちづくりを目指す

200年以上の歴史と伝統を誇り、いまーSDGs未来都市づくりの担い手として豊かな海、まちづくりを目指す


vol.003 株式会社ホテル大阪屋 加太淡嶋温泉 大阪屋ひいなの湯 代表取締役社長 利光伸彦

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創業は江戸時代の文政年間。加太の海から揚がる豊富な海産物と温泉を心ゆくまで楽しめる「大阪屋ひいなの湯」の利光社長は本業の傍ら、未来と世界を見据えた活動を展開しています。

「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」に和歌山が選定され、とくに加太地区では東京大学生産技術研究所(加太分室)との協業で、豊かな海を守り、活力のあるまちづくりが進められ、その推進役を務めています。利光社長が目指すものとは。

 

自館とともに地域全体の活性化を目指して

―創業から今日までの経緯を教えてください

その昔、奈良・京都が日本の中心だったころ、友ケ島、淡路島、四国・阿波の国へとつながる「南海道」の船宿として創業をしたようです。江戸時代の文政年間の文献に「大阪屋」という屋号が出ていますので、創業200年以上ではあるのかなと思っています。

大きく変わったのは、私が帰ってきた22、23年前。隣接していた「正木屋旅館」が廃業し私どもが引き継ぎ、2003年「大阪屋」とともにリニューアルし「加太淡島温泉 大阪屋ひいなの湯」としてオープンしました。

実は、ここは温泉地と呼べるほどの場所ではありませんでした。1971年に業者が温泉を掘り当て、加太の旅館街までパイプラインを通していたのですが、当時は隣の旅館とはライバル同士、ある旅館を中心に数軒だけで温泉を利用していました。

しかし、源泉の持ち主から「地域で管理してくれないか」という話になりました。そこで「温泉協同組合」を立ち上げ、私が理事長となり加太を温泉の町として盛り上げていこうと決め、自館だけでなく地域全体が活性化するよう活動を続けています。

「ひいなの湯」というのは、隣が淡嶋神社さんという、全国に1千社ある神社の総本社で、3月3日に行なわれるひな流しという神事が有名です。これは女性のためのお祭りで、「ひな人形」「ひな祭り」のひなの口語体が「ひいな」。小さくて可愛い、そして大きく元気に育ってほしいという願いが込められていることから、「ひいなの湯」という名前をいただきました。

2018年の7月、大きく2期目の改装を行い、高齢化社会を見据えて、ロビーやテラスのバリアフリー化や、一部客室をベッド付の窓を広くとった新和洋室にリニューアルしました。常に時流を追いかけ、お客さまに飽きられないよう、毎年少しずつでも設備投資をしてきております。

-リピーターが非常に多いとお聞きしています

リピーターが多いというのは、逆に言えば地域力が弱く当館を旅の目的にお越しいただくお客さまが多いということなのです。有名観光地であれば、その地域に行くことが目的で、その後に旅館を選ぶ訳ですが、そういう方は1回だけで、次はほかの観光地へ行かれることが多いのです。

当館は、大阪から近いということもあり、気軽においしいモノを食べ、ゆっくり温泉につかって休養していただくということをコンセプトにしておりますので、ありがたいことに何度もお越しいただく方が非常に多いですね。

 -「観光協会」や「温泉協同組合」の活動に積極的に取り組んでこられ、地域の活性化に尽力されているそうですね

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温泉組合設立と同時に、代表理事という立場で組合をつくり、事業を行ってきました。観光協会も昨年まで15年間、観光協会長を務め、今は顧問として携わっています。といいますのも、地元加太は漁師町で、一次産業の漁師さんたちと観光というのは、相反するところがあってうまくタッグを組めていなかったのです。そこで地元の自治会、漁協、観光協会の三者が一緒になって、地域に「加太活性化協議会」というものをつくり、過疎化に歯止めをかけ、町をもっと元気にする活動に取り組もうということになりました。

 加太という地域は地理的には和歌山市にありますが、地理的にはまるで離れ小島のように、和歌山市の福祉サービスや高齢者向けのサービスが行き届きにくい場所でもあります。それで、自分たちの協議会は、行政の手が届かない、福祉や教育、環境問題などに取り組み、地域の人々の暮らしに貢献する活動を続けてきました。

その財源は主に補助金に頼っていたのですが、ある時、補助金に頼らずに自主財源でできるようにしようと、民間では手の出しにくい事業、例えば、加太の海水浴場の管理、港湾にある駐車場であるとか、釣り堀、そういったところを活性化協議会で運営し、財源に当てるようになりました。協議会は任意団体なので、「加太まちづくり会社」という株式会社を立ち上げました。

立ち上げにあたっては国の「地域経済活性化支援機構」と地元の銀行やファンドから出資をしてもらい「加太まちづくり会社」を設立・運営していくこととなりました。和歌山市の国際交流センターの指定管理の運営を行う一方、海水浴場に大阪から企業を誘致し、グランピングをしていただくなど、地元の力だけではなく他方面からの力も借りながら交流人口を増やす努力をしてきました。

加太には空き家もたくさんあるので、「地域おこし協力隊」という国の制度を利用し、空き家の紹介であるとか、飲食店などを加太で経営し住みたいという方を選別しながら、住んでいただけるような誘致活動もしています。子供の数、住民の数を増やすということを共通の目標にすることで、漁協、自治会、観光協会の結束力が強まり、活動が軌道に乗ってきました。

 

海を豊かにする為に山に木を植える活動を14年前から

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―まさに持続可能な開発目標ということですね

そうですね。昨今、SDGsという言葉がよく使われますけれども、私たちは14年前に、旅館組合で「アースウォーカー」という世界中に木を植える活動をしているポール・コールマンさんという方を紹介され、加太に招いて話をしてもらい、地元で木を植える運動を始めました。かつて、加太の山を削る開発があり、現在も取り残されているため、そこに木を植えていく活動を続けているのです。

山に木を植えると、枯れた腐葉土が川から海へ流れ込み、植物性のプランクトンが増え、海藻が育ち、小魚が増えます。近年、日本各地の沿岸で、海藻が著しく減ってしまう、磯焼けといわれる現象が重大な環境問題になっています。

これが沿岸漁業を衰退させてしまうため、山の養分を海へ流すことが必要なのですが、それには山に落葉樹がたくさんあるといいそうで、私たちは紫陽花を植える活動をしています。

先般も、人気ロックバンド「L'Arc-en-Ciel」のボーカル、HYDEさんに参加していただき、紫陽花を植えてもらいました。紫陽花を英語ではハイドランジアというので、これは、ちょうどいいなということで。

HYDEさんは和歌山市の出身で、加太の隣町にご実家があり、昨年、和歌山市のふるさと観光大使に就任してもらいました。SDGs、持続可能な漁業とは環境や乱獲しない「一本釣り漁法」をしっかり守っていくことですので、私たちはしっかりと地道に取り組んでいます。

-加太には若い漁師さんが多く、そこに港町・加太の繁栄があると伺いました

そうですね。ほかの地域に比べたら、若い方が頑張っていると思います。ちょうど黒潮と瀬戸内の境目になるところで、海産物が豊富に獲れる、非常に恵まれた漁場をこの加太の港は持っているのです。いろいろな種類の魚が生息し、高品質なものが獲れるので、我々旅館業の者にとっては非常にありがたい環境です。だからこそ、みんなで守っていきたいと思っています。

 

「サスティナブルな加太」を目指し、東京大学「地域ラボ」と共に行動を開始

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-東京大学の加太分室・地域ラボとの関わりについてお話しください

もともと活性化協議会として、いろいろな事業、国の事業などに関心をもっていました。そんな中で、経産省の「スマートコミュニティ」という補助金事業があることを知り、そこで知り合ったのが、東京大学生産技術研究所の川添善行先生でした。

川添先生は、いま巷で話題の「変なホテル」の設計にも関わっておられ、その先生のお仲間が、「地域ブランディング協会」のメンバーの方々で、地域のブランディングや、地域おこしに興味や関心のある方々とのつながりができました。

一緒に何かしよう!ということで、「サスティナブルな加太」というお題目ができ、皆さんが集う丸の内ハウスにあるレストランのシェフの方々に加太に来ていただいて、実際に、漁師さんと一緒に漁をし、漁師さんから一番おいしい食べ方や加工方法などを聞いてもらいました。

海で漁をする人にしか分からない美味しい時期や調理の工夫があり、例えば、ひじきやわかめも、生のものは風味などが全然違うのです。そうしたイベントを3週間実施したところ、人と人のつながりができたのです。お互いの心が通じあって、「一緒に何かしよう」という情熱が生まれ、今日に至っています。

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―今後、具体的にどのような活動を?

和歌山市がSDGsの未来都市に認定され、調査研究も盛んに行われるようになりました。加太の魚介類がなぜ美味しいのかというと、やはり淡路島を回遊していることなどもありますが、獲り方が一本釣りで、オキアミなどを餌として魚を集めて網で大量にすくいあげるような獲り方ではないということが大きい。

オキアミの匂いが残っていたり、網の中でバタバタさせると内出血して一部が赤くなったり、鱗がはがれたり、身に血が回ったりします。やはりストレスなしに釣り上げ、神経締めをしていい状態で消費者に届けるよう、生産者がそういった漁法を大事にし、乱獲せずに活動していることをしっかりとアピールしていきたいと考えています。

もちろん、魚が食べるエサの良し悪しでも味が変わり、甲殻類を食べているタイなどは非常に美味しいです。黒潮と大阪湾では温度差が1度くらい違い、それによって、エサも変わってきます。

身の締まりなどもいろいろなものが関係していると思うのですが。既にそういったことを東京大学の関係の方々が調査し、うまく冊子にまとめていただいているのですが、こうしたことを今後も地域のブランドづくりに役立てていければと考えています。

今の時代、仮に補助金をもらって、安易に箱モノを建てても、あまり魂が入らないように思います。そうではなくて、人のつながりで、箱モノ以上に効果のあるようなブランディング、地史、歴史、地域の深掘りをすることによって生まれてくる活動が成功するのではないかと思います。

東京大学の生産技術研究所の加太分室、地域ラボの存在が核となり、それに関わる人々が、いろいろな方を連れて来てくれて、つながり出して、自動的に「こんな事業をやろうか」とか「こうしたら面白いね」と勝手に広がっていっています。

そういう基地になるところがあれば、どんどんと持続可能な事業が広がっていきますので、そこに国の補助金など後押しになるようなものがあれば、さらにありがたいなと思っているのですが。

 

日本の料理を海外に発信、いずれ収益のあがる事業になることを夢見ています

―最後に社長ご自身の夢を?

当館の料理長(赤間博斗さん)は、5年ほど前、イタリアのサローネ・デルグストという世界料理博で日本料理を紹介するために行ったのをきっかけに、いろいろな方とつながりを持ちまして、以来、イタリアの地方のレストランの方と毎年、日本料理コラボを行うなど、日本の料理を海外に伝える活動しています。

そこから、台湾やインドネシアに招かれ、また料理長が、外国でいうハーブ、野草や山菜などを活かした料理の本を出しているのですが、それが海外でも評判となり、いま、何とクウェートで、カレーライスをプロデュースしています。

いろいろなところから、オファーがあって、日本料理を発信しているのですが、そうやって蒔いた種から芽が出て成長し、世界中のお客さまに来ていただければいいなというのが私の夢ですね。

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観光協会や温泉協同組合の活動、そして東京大学「地域ラボ」との行動に積極的に取り組んでこられ、地域の活性化に尽力されている利光社長。日本料理の発信が「ひいなの湯」の事業にもつながり、その収益で当館の運営が安泰となり、私自身は地域全体がよくなるような活動に没頭することができたら万々歳です。と話してくれました。本日はありがとうございました。

【プロフィール】
1966年生まれ、和歌山県和歌山市加太出身
東海大学卒業後、2010年から代表取締役。
加太観光協会顧問、加太温泉協同組合理事長、
和歌山県旅館組合副理事なども務める。

【会社情報】
株式会社ホテル大阪屋 加太淡嶋温泉 大阪屋ひいなの湯
設立 江戸中期
資本金 2,500万円
従業員数 約30名(パートタイマー含む)
事業内容 ホテル・旅館業
URL http://www.hiina.com/(公式サイト)

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