マーケットを牽引するシニアに支持されるために。「ユニバーサルデザイン」と「バリアフリー」を意識したリノベーション例

 

超高齢化社会に突入している日本の総人口は、2018年10月時点の時点で1億2,640万人余り。

そのうち前期高齢者と呼ばれる65~74歳の方は約1,760万人(男性・約840万人、女性・約920万人)、75歳以上の後期高齢者の数は約1,798万人(男性・約706万人、女性・約1,092万人)。高齢者人口の合計は約3,558万人と、すでに総人口の28.1%を占めるまでに至っています。

過去を振り返ると昭和25(1950)年時点では65歳以上の人口は総人口の5%にも届いていませんでしたが、昭和後期から平成にかけて上昇をつづけ、平成6(1994)年には14%を超え、平成29年には27.7%に達していますから、高齢化社会の進行はますます加速していると言えるでしょう。

その一方で若年層はというと、こちらの人口は減少しつづけ、15~64歳人口は8,000万人を下回ってきています。この若年層の減少と高齢者の増加傾向は今後も続くことから、予測によれば15年後には日本人の3人に1人を高齢者が占めることとなります。

すなわち現在とこれからのマーケット動向を担うのはシニアの動きであり、旅館ホテル経営においては「高齢者をどう取り込むか」「高齢者に喜ばれる施設・サービスをどう実現していくか」が最大のカギとしてクローズアップされます。

そこでまず注目したいのが、ユニバーサルデザインやバリアフリーの観点からの貴館施設の見直しなのです。

◆出典・参考:内閣府「高齢化の現状と将来像」

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知っているようで知らない、ユニバーサルデザインとバリフリーの違い

 ユニバーサルデザインはすでに駅などの交通インフラを始め、各種公共施設、医療・福祉施設など、不特定多数の方が利用するさまざまな施設に導入され広く社会に浸透しています。

ユニバーサルとは直訳すれば『一般的・普遍的に、すべての人にかかわる』という意味。つまりユニバーサルデザインとは、障害の有無や年齢、性別、国籍などの違いを問わないのはもちろん、ベビーカーで子育て中の方や一時的なケガで車イスを使っている人などまで、あらゆる方の利用を想定した「誰にもやさしいデザイン」だと言うことができます。

「製品、環境、建物、空間などをあらゆる人が利用できるようにデザインする」。この基本コンセプトに沿って、ユニバーサルデザインを提案したロナルド・メイス氏を中心にまとめられた以下の7つの原則があります。

●どんな人にも公平で使いやすい。

●自由度の高い使い方ができる。

●誰にでも使い方がわかり、簡単に使える。

●必要な情報が、ひと目で理解できる。

●ちょっとしたミスをしても危険がない。

●無理な姿勢をとることなく、軽い力で楽に使える。

●使いやすい十分な広さと大きさがある。

一方でユニバーサルデザインとは別に「バリアフリー」という言葉もあります。その違いは一体どこにあるのでしょう。

バリアフリーという概念には、すでに世の中に障害(バリア)があることが前提とされています。社会的に存在するさまざまな障害(バリア)を取り除くことで、お年寄りや障害のある方たちが快適に生活できるようにしようというのがバリアフリーの考え方。

ユニバーサルデザインが、始めからすべての人が使いやすいように考えられたものであるのに対して、バリアフリーの方は今ある障害(バリア)を取り除こうとする考えや取り組みを意味しているのです。

旅館ホテルの施設を例にすると、現在の階段にスロープを追加設置したり床の段差を解消したりといったリノベーションを行うのが「バリアフリー」。最初から全館を段差のないフラットなデザインで設計するのが「ユニバーサルデザイン」。そう考えるとわかりやすいのではないでしょうか。

ユニバーサルデザインとバリアフリー。厳密には違いはありますが「人がもっと快適に過ごせるように」というやさしさを表現したものであることは同じ。「おもてなし」を商品とする旅館ホテルにとって、もっとも積極的に導入すべき考え方だと言えるでしょう。

 

ユニバーサルデザインやバリアフリーの普及は、国が推進。旅館・ホテルへの補助金も

とは言え、既存の施設をリノベーションするには費用が掛かります。そこで国からの補助金を活用してはいかがでしょう。

観光庁では「宿泊施設バリアフリー化促進事業」の取り組みを通して、旅館・ホテルの施設のバリアフリー化を推進するための補助金を交付しています。補助区分は3種類で、①客室の必要最低限の改修等:定額補助(上限100万円)、②共有部の改修等:1/2補助(上限500万円)、③客室の大規模改修等:1/2補助(上限500万円)です。(公募期間:2020年3月31日~6月30日)

この補助金は、高齢者や障害者を含めた訪日外国人旅行者などが旅館・ホテルをより利用しやすくすることを想定したもので、今般の新型コロナウイルスの感染拡大防止期間を将来の観光需要回復に向けた積極的な「助走期間」と捉え、終息後にはできるだけ素早く反転攻勢に転じられるよう、宿泊施設の環境整備を支援するとの考えに基づいたものです。

補助の対象は、手すりやスロープ(傾斜路)の整備、出入口・廊下の拡幅、エレベーター・段差解消用昇降機の設置、車いす利用者が使いやすいトイレや浴槽への改修、視覚障害者誘導用ブロックの敷設、点字や音声による案内表示の設置などとなっています。

また、経済産業省「中小企業生産性革命推進事業」でも、設備投資に要する費用の補助を受けることが可能です。詳しくは下記ホームページをご覧ください。

◆出典・参考:観光庁「宿泊施設バリアフリー化促進事業の公募を開始します」
◆出典・参考:経済産業省「中小企業生産性革命推進事業」

 

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旅館・ホテルのバリアフリー化のポイントとは?

旅館・ホテルのバリアフリー化リノベーションに当たっては、まずはお客様の利用シーンをできるだけ具体的に想定して改修すべきポイントを洗い出し、自館の状況に合わせて改修候補となった箇所に優先順位を付けるのが現実的でしょう。

改修ポイントは予算や工期なども考慮した上で、共用部と専有部(客室)に分けて考えましょう。下記に主要なポイントを例示しますので、ぜひ参考にしてみてください。

【共用部】

①エントランス周りの段差解消
車イスに乗った方でも館内を自由に回遊できるよう、館内の上がり框や小階段をなくし、ゆるやかなスロープなどに改装。また館内を靴のまま利用できるように改修することは、バリアフリーとインバウンドの双方への対策となります。

②小階段への昇降機の設置
増築などが多い旅館ホテルなどスロープでは対処できないケースでは、イス型の昇降機の設置も検討材料に。

③廊下・ドア
バリアフリーを前提にすると館内のドア類はできるだけなくすのがベター。また間口も広く取り、車イスの方が付添や介護の方と一緒に通ってもゆとりのある幅を持たせましょう。

④トイレ
共用部のトイレにも注目。バリアフリー化はもちろん、新たにユニバーサルトイレ(多目的トイレ)の新設も。開けやすい引き戸や段差のない出入口、車イスの方でも使える鏡や手洗い、オムツ替え台やオストメイト対応などが検討材料になります。

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⑤案内・誘導サイン
貴館の案内サインはシンプルでわかりやすいですか。現状のサインをよりわかりやすい表記へと手直しするか、またはピクトグラムなどを使用した誰にでもわかりやすい案内サイン類への刷新を考慮しましょう。

⑥食事会場
高齢者や足の弱い方にとって立ったり座ったりは大きな負担になります。近年は和風旅館でも、和室に合うテーブルと椅子を導入するケースが増えてきています。

【客室】

①室内段差の解消
客室の入口や室内にある小さな段差は、シニアにとっては躓きやすい場所。車イスを利用する方にとっても危険なため、敷居などの段差やトイレ・浴室との境目をフルフラット化。

②畳をフローリングに
和室の畳をフローリングに変えることで、車イスでも自由に動ける快適な室内空間を創出。

③ドアから引き戸へ
車イスの方にとってドアは鬼門のひとつ。ドアを軽く開けられる引き戸に変更すれば、スムーズな出入りが可能になります。

④布団からベッドに
布団からベッドに変えることで足腰への負担を軽減できます。和室に置けるベッドも。

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⑤浴室・シャワールーム
体の不自由な方やシニア世代にとって、浴槽の高い縁をまたぐのは困難です。ユニットバスの場合は特にスペースが狭いため、思い切ってバスタブをなくし、シャワールームとトイレに分離・独立するのも一策です。

⑥洗面・トイレ
和式トイレでしゃがむ動作は足腰に負担がかかります。手すり付きの洋式トイレにリフォームすれば快適さは格段にアップ。併せて出入口の引き戸化など、動線も一緒に見直しましょう。古い洗面台に多いひねるタイプの水栓は、握力が弱まるシニア世代には使いづらく感じます。温度調整も簡単なシングルレバー水栓への交換を検討しましょう。

⑦手すりの設置
浴室・トイレには万一の転倒を防ぎ、快適な利用をサポートできる手すりを設置しましょう。また靴を脱着する客室の場合は、靴脱ぎスペースにも手すりやイスの設置を検討しましょう。


繰り返しになりますが、旅館ホテルの最大の商品は「おもてなし」。バリアフリーとユニバーサルデザインの実現によって創り出される貴館ならではの心地よさは、まさに最上質な無形の商品です。

残念ながら開催延期となった2020東京オリンピック・パラリンピックですが、この事実も捉え方しだい。大きなビジネスチャンスが先延ばしになったと失望するのではなく、より多くの人々をお迎えするための新たな準備期間が生まれた!と、前向きに捉えることもできるでしょう。

旅のくつろぎを誰もが心ゆくまで満喫できる宿として…。貴館のさらなるクオリティアップを実現するためにも、この機にバリアフリー、ユニバーサルデザインに基づいたリノベーションに取り組んでみてはいかがでしょう。

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