
働き方改革
新春インタビュー 2021年の提言 「高収益経営へ」- Chance to Change! -
株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一
危機に直面している今こそ、これまでの経営を変える絶好のチャンス「変化を楽しめる、タフでしなやかな心」をつくり上げていただきたい
Q1.2020年、旅館ホテル業界は新型コロナによって大打撃を受けてしまいました
本来なら2020年はオリンピックイヤーとして大きな盛り上がりを見せるはずでしたが、旅館業界にとっては死活問題とも言えるほどの大きく長い災禍に見舞われてしまいました。
ほぼ1年にわたるコロナ禍は経済的打撃に留まらず、新しい生活スタイルの浸透、雇用情勢への大きな影響など、社会の構造そのものを一変させてしまったと言っていいでしょう。
こうした中で多くの旅館ホテルが緊急融資や雇用維持への支援、Go Toキャンペーンなどに支えられていますが、同時にGo To後の落ち込みへの懸念や、財務の修復という大きな課題も抱えているというのが実情です。
コロナの影響は戦後最大級と言っても過言ではありません。しかしその渦中にある今だからこそ、私たちの周囲にいったいどんな変化が起きているのかを冷静に客観的に分析し、新たな経営へと反映させていくことが大切です。
ものごとには常に「正」と「負」の両面があります。今回のような大きな打撃を受けた時、人はどうしても「負」の面だけをクローズアップしがちです。
しかし今回、私たちは多くのものを失った反面で、これまで気づくことのなかった大きな学びを得ることができたのもまた一面の事実なのです。
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【Contents】
Q2.リョケンが提言する2021年のテーマは?
Q3.ピンチをチャンスに変えるには、まず何から始めるべきなのでしょう?
Q4. 経営者としては、どんなスタンスを意識すべきでしょう?
Q2.リョケンが提言する2021年のテーマは?
2021年の提言は、「高収益経営へ」- Chance to Change! -です。“Chance to Change!”つまり「変えるチャンス!」です。危機の渦中にある今だからこそ、私たち自身の意識を変え、新たな発想で戦略を組み直す絶好の機会なのです。
「負」の面をただ嘆くのではなく、しっかりと前を向いて倦まず弛まず変革への歩を進めることが大切だと思います。
そのために今考えるべきことは、漫然とコロナへの対処を行うのではなく、「ウィズコロナ」「アフターコロナ」「ポストコロナ」という3つのフェーズに分けて、それぞれのステップごとの課題を抽出・分析し、具体的な経営対応に落とし込んでいくことです。
「ウィズ」と「アフター」はコロナ禍が終息する前後の時期による区分。対して「ポスト」は、コロナ後に向けて今から築くべき新たな経営のかたちとお考えください。
<コロナに対する「3つのフェーズ」>
●「ウィズコロナ」:需要回復までのかじ取りと、短期的な対処を行う期間
●「アフターコロナ」:いわばコロナ戦後処理の期間、終息後の財務バランスの回復が課題
●「ポストコロナ」:コロナ後のあるべき経営のすがた
Q3.ピンチをチャンスに変えるには、まず何から始めるべきなのでしょう?
高収益経営に向けて今こそ進めるべきは、企業としての「体質転換」です。コロナ禍で大きく崩れてしまった自館の財務バランスは、これまでの損益構造や経営構造のままで修復・回復が可能でしょうか。もしもそれが難しいのであれば、どこかで従来の損益モデルからの訣別に踏み切る必要があります。
その答えが「高収益型経営」への転換であり、またそれを行える条件が揃っているのが、まさに今なのです。
これまで私たちは無意識のうちに売上至上主義に囚われていました。しかし高収益経営への転換はまずこの常識を疑い、意識を売上から「付加価値」へと切り替えることから始まります。
高付加価値化による高収益経営の最初の一歩は「高料金化政策」です。「価格とは最高の経営方針」なのです。高付加価値型を実現するには「あるべき姿からの逆算」が必須です。「取れる金額」を前提に収支構造を考えるのではなく、最初に置くべきは「自館がめざす経営構造」であり、そこと現状を比較分析して改革を行っていくことです。
具体的にはまず「あるべきB/S状態」を描き「望ましい利益(GOP額)」を割り出します。これに沿って「あるべき収支構造」を想定し、「飛躍(過去との不連続な変革)」を織り込みます。
このフローをもとに宿の「重点方針」を決めて、その「方針を具体化」していくことが高収益経営の基本となります。
また高収益経営のための高料金化戦略においては、「品質重視経営」「個客重視戦略」「ターゲット転換戦略」「コンセプト転換戦略」と大きく4つの方向性を提言しています。そしてこのいずれにも共通する課題が、コスト戦略、料理原価の再考、人材戦略です。
旅館ホテルのコストは「アクティビティ・コスト(活動原価)」と「キャパシティ・コスト(能力原価)」の2つに分けられます。コスト戦略とは、「キャパシティ・コスト」を適切に投じることによって。恒常的な体質となる「アクティビティ・コスト」を引き下げる戦略です。
料理原価の再考とは、従来の「原価率」の呪縛から脱し、料理を「原価」を基準として見直すことです。お客様が真に求めているのは、決して「率」ではないからです。
そして人材戦略です。人材という資源が「育成」という視点で捉えられているでしょうか。これまでのような「マルチタスク」という人の使い回しだけではなく、能力開発を主眼とした「マルチジョブ」へ、さらには「キャリアデザイン」へと考え方を変えていくことは、高収益経営の実現にとっても欠かせないテーマになってきているのです。
Q4. 経営者としては、どんなスタンスを意識すべきでしょう?
今旅館の経営者が考えるべきことは、一つには「あきらめや怠惰に陥らない」こと。そして「けっして心を折ることなく、前を向くこと」です。その上で、先にふれたようにコロナに対する3つのフェーズを意識した「ポジティブな姿勢を維持する」ことが大切です。
特に意欲を失わないこと、これは重要です。コロナ禍の中で、経営者は大きく心を傷めていますし、また数限りない悩みとプレッシャーに常に晒され続けています。そんな中で経営者自身がやる気を失ってしまうこと、それこそが最大の損失です。
「コロナはあくまでも外的要因によるものであり、経営者(自分)のせいではない」と良い意味で開き直って、ぜひ気の置けない幹部社員などと悩みや課題を分かちあって、前向きにトライしていただきたいと思います。
<今、旅館の経営者がすべきこと>
●短期と中長期両方の視点で経営を考える
・ 短期はあくまでもオペレーション
・中長期は経営の骨組みを見つめ直すこと
●人の意識づくりをする
・価値観づくり・・・その共有と浸透
・古い常識や固定観念からの脱却
・「変化を楽しむ」前向きな意識
●未来を照らす
・ポジティブ思考
・もがく
この2021年は文字通り「ピンチをチャンスと捉える」前向きな姿勢に転換することがポイントとなります。「高収益経営」の実現に向けて、ぜひ確かな一歩を踏み出していただきたいと思います。
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