旅館・ホテル業界最大の課題「人手不足」の解決策とは

2020年の東京オリンピックの開催を前に、旅館・ホテル業界は他業界以上の深刻な「人手不足」に悩んでいます。はたしてこの課題を解決する方法はあるのでしょうか。インバウンド需要が増えた影響をはじめとした人手不足の原因分析と、考えられる解決法について解説していきます。
 

人手不足に関するホテル業界独自の課題とは

人手不足だけであれば、日本国内のほとんどの業界と共通した問題だと捉えられます。しかし、旅館・ホテル業界の場合には独自の事情もあります。現状、この業界で人手不足が起きている理由とそれに伴う課題について見てみましょう。

宿泊者数の増加
旅館・ホテル業界の人手不足の背景には宿泊者数の増加があります。

観光庁がまとめている「宿泊旅行統計調査」を見ると、国内の旅館・ホテル(簡易宿所や会社・団体の宿泊所を含む)の宿泊者数は確実に増加し、稼働率も上がっています。

平成30年11月の延べ宿泊者数は4,276万人泊で前年同月比+1.5%、12月の延べ宿泊者数は4,247万人で前年同期比+5.6%でした。また、平成30年11月の客室稼働率は63.8%で前年同月差+1.0、平成30年12月の客室稼働率は58.9%で前年同月差+2.4となっています。

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雇用人員判断指数における、宿泊業の人手不足

一方、宿泊業における人手不足感は増しています。2017年3月に公表された日本銀行の「全国企業短期経済観測調査(短観)」を参照します。

この調査では企業に雇用人員の過不足について、「過剰」「適正」「不足」をたずね、「過剰」の社数構成比から「不足」の社数構成比を引いて算出される「雇用人員判断D.I.」という指標を示しています。この指標はマイナスが不足、プラスが過剰を示します。

結果、業種別では、製造業は-16、非製造業は-31で、非製造業の方が不足超過幅が大きくなっています。中でも「宿泊・飲食サービス」のポイントは「-56」で、全業種の中でも突出して高い不足感を示しています。これに次ぐのは「対個人サービス(生活関連サービス業,娯楽業、教育,学習支援業、医療,福祉)」の-42と「運輸・郵便」の-40です。

インバウンド対応の増加
昨今話題のインバウンド対応も増加し続けています。

日本政府観光局(JNTO)の年別統計データでは、2017年の訪日外客数は2,869万1,073人で前年と比べた伸び率は19.3%となっています。またこの年、アジアからは247万16,396人、ヨーロッパからは152万5,662人、アフリカからは3万4,803人、北アメリカからは175万6,732人、南アメリカからは9万2,106人、オセアニアからは56万4,527人の外国人が訪日しています。

これら多数の国・文化圏からの観光客に対し、旅館・ホテル業界では語学力や文化への対応幅の広さが求められています。食事におけるハラル対応もその一つです。グローバル化によって多くを要求され、その分、従業員の負担も増えています。

提供サービスの多様化
旅館・ホテル業界の提供サービスの多様化も見られます。

やや古い資料ですが、2010年の厚生労働省の「仕事の生活の調和アンケート調査(旅館業)」によれば、宿泊以外にも昼食サービス(宴会含む)(79.5%)や「日帰り入浴利用」(56.4%%)、「日帰り客室利用」(53.8%)などのサービスを提供する旅館が増えています。

こうしたサービスの多様化も従業員の負担増を招いていると考えられます。


働き方に関する旅館・ホテル業界の課題と解決策

上記のとおり、外国人旅行者の増加によってホテル・旅館業界の人材不足は深刻化しています。従業員の絶対数が足りないだけではなく、業務の幅の広さ、サービスの多様化も負担を増やしています。

しかし、旅館・ホテル業界と観光産業は根本的に活況を呈しています。人手不足という課題さえ解決できれば将来を悲観する必要はありません。以下、人材を確保するための課題と解決法について見ていきます。

従業員の労働時間が不規則になる
ホテルや旅館は夜勤や早朝のシフト勤務があり、労働時間が不規則になりやすい傾向があります。ローテーションするにも人材不足の状況下では余裕のあるシフトが組めず、勤務時間が長くなってしまいがちです。

解決するには一人あたりの労働時間、業務ごとの所要時間を正確に把握するのが先決です。その上でムダな業務を抽出し、労働時間を短縮して、シフト設定を見直します。また、ICカードによる労働時間管理、長短シフトの組み合わせ設定の最適化も業務効率化に役立つでしょう。

季節による繁閑差の大きさ
業界特有の繁忙期と閑散期の差の大きさも無視できない問題です。

こちらも解決のためには情報の把握から始めるべきです。過去のデータを分析して業務繁閑を予測し、年間を通したシフトを設定します。長短シフトを組み合わせることでムダな残業が減らせるはずです。また、フロント、客室係、レストラン・宴会サービス、管理部などのスタッフが手の空いているときに別部署のヘルプに回れるような応援体制を整え、それを可能にするマルチタスク人材を育てることも効果的です。

年次有給休暇取得率の低さ
余裕のないシフト制勤務が組まれていると連続休暇が取りづらくなり、有給休暇の取得率が落ちます。従業員同士が繁閑を見きわめて交代で申請するなどの工夫が必要ですが、そもそも休暇を取りやすい雰囲気・環境がなければそれも難しいでしょう。

効果が期待できるのは1年単位の変形労働時間制の導入です。繁閑差に対応できるとともに、「休めるときに休む」スタイルを制度として定着させることで有給休暇の取得率を上げることにつながるはずです。

子育てと両立が難しい勤務時間
子育てとの両立ができないために離職する人材も多くいます。

貴重な人材を失わないためには、育休や時短勤務など育児支援制度の積極的導入が必須です。実際に子育てをしている従業員にどんな働き方や働く環境が必要なのかヒアリングすることも役に立つでしょう。託児所が完備されている、または休憩時間にすぐに戻れるような至近距離に寮があるといった旅館・ホテルもあります。


旅館・ホテル業界に人材を集め、呼び戻すには、給与や待遇面を充実させるのももちろん効果的です。しかしそれ以上に今後求められてるのは、「ワークライフバランス」を重視した魅力的な環境の提供に力を注ぐべきです。旅館・ホテル業界で働く従業員の満足度が上がることで、ひいては労働 生産性も向上し、業務効率化も進むでしょう。そのことが人材確保・流出阻止のための正しい道につながるはずです。



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