旅の目的について考える|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム028

旅の目的について考える|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム028

 

幼い頃から旅行が好きだった。

ごくシンプルに、自分の生まれ育った場所とはぜんぜん違う風景を見たりするだけで、ワクワクが止まらなかった。有名観光地に行っても、子供が喜びそうなテーマパークの類にはまったく関心はなかった(今もない)し、全国有数の温泉地で育ち、しかも家には温泉がひかれていていたので、「温泉に入る」という旅の楽しみ方は、小さな脳みそから欠落していた。

行き先が海辺だろうと山里だろうと、旅における私の興味の中心は、移動中の車窓からの景色を含めた「見たことがない風景」一択だった。年齢を重ねて、旅の目的も、多少は重層化してはいるものの、今でも基本的にはその傾向は変わらないように思う。

玄奘や鑑真は、教えを広めるために遠方に赴いたし、バスコ・ダ・ガマやマルコ・ポーロは、交易というビジネスベースの目的のために海を渡った。松尾芭蕉はアーティストとしてのインスパイヤを得るために150日間以上も歩き続けた(理由は他にも諸説あるようだが)。しかも、現代の感覚では考えられないような、とてつもなく大きなリスクを負って。

しかし、まぁ明確な目的があったということは、理解はできる。本稿で取り上げるのは、これらのような旅ではなくて、‘レジャーとしての旅=観光’の目的だ。

浅学な私は、「なぜ人は(アナタは)旅に出るのか」というクエスチョンに対して、「仕事ばっかりじゃ人生つまらないじゃん」と曖昧かつトンチンカンなスタンスを取ってきた。しかし、そういうこともきちんとした研究が進んでおり、社会心理学的な尺度によって説明ができるらしい、ということを、恥ずかしながら最近になって知った。

前置きが長くなったが、本題はここからである。

今さらながら、旅の目的について考えてしまったのは、先日、当サイトでも少しご紹介した、神奈川県内の有名な温泉地にある、とある宿泊施設を見学させていただいたことがきっかけだ。部屋数は18室。外観も特に目を惹くものがあるわけはなく、意地悪く言えば地味な雰囲気だ。しかし、この宿は、コロナ禍による一時的な落ち込みはあったものの、現在は70%以上の稼働率を維持しており、3月上旬の時点では、週末はほぼ満館だという。

とある宿泊施設に関する記事はこちら▶「本」とのコラボから生まれる、新しい滞在価値の提供

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※写真はイメージです※

宿泊費はダイナミックプライシングによってきめ細やかに設定されているが、大手のOTAサイトでも、平日2名1室利用1泊2食付きの最もリーズナブルなプランでも一人3万円超。総消費は、プラス1万円以上になることも多いという。

失礼な言い方になるが、外から見ただけでは、とてもそれだけのポテンシャルがある宿には見えなかった。しかし、風除室に足を踏み入れ、シンプルなデザインの木製の自動ドアが左右に開くと、その印象は一変する。事前に画像などで見てはいたものの、実際にその光景を目にした時のインパクトは、想像の斜め上を行っており、扉が開いた瞬間に不覚にも「おぉ!」と声を上げてしまったほどだ。

ドアの向こう側は、2階分の吹き抜けになっており、ここがロビーフロント。円形のテーブルとソファが数セットされ、正面の大きな窓からは山々の緑が遠望できる。そして、高さ6メートル程の左右の壁面は書架になっており、数千冊におよぶ様々なジャンルの書籍が並べられている。このロビーフロント以外にも、館内のいたる所に書籍が置かれており、総数は1万2千冊におよぶという。

ネタバレになってしまうので、あまり詳しくは書かないが、ともかく本好きの心をくすぐるユニークな工夫が随所に凝らされており、ゲストの多くはあまり外出もせずに読書に耽っているのだという。

そう、ここは、本を読むという目的に特化したホテルなのだ。私自身は本が好きだし、旅には必ず数冊の本を持って行くタイプだが、正直、このコンセプトは自分の中に無かった。そんなこんなで、人が旅に出る目的とは、実に多様であるな、と改めて感じた次第である。

ついでながら、旅の目的についていろいろな文章を読んでいく中で、それは社会学的には「ワンダーラスト(wanderlust)」と「サンラスト(sunlust)」という二つの欲求に大別されるという説明に出会った。前者は異なる文化的な経験を求めるもので、後者はリラックスしたい、という欲求から発せられるものだそうである。私の場合は完全に「ワンダーラスト」だ。

他にも「観光動機尺度」という考え方に基づいて、様々な研究がなされていることを知った。これを説明するには紙幅が足りない(というか私の理解度が低い)ので、細書は避けるが、アフターコロナの時代における人々の旅の目的について、皆さんも今一度思いを馳せてみられてはいかがだろうか。

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