お腹も、心も、満たす旅。|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム029

お腹も、心も、満たす旅。|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム029

 

何の自慢にもならないが、美味しいと評判のうなぎ料理店が点在する街に生まれ、今もその街中に住んでいる。連休ともなるとその有名店の軒先より早朝から炭火でうなぎを焼く独特な香りと煙が大通通りに漂い、こちらの空腹度合いに関わらず遠慮なく胃袋を刺激してくれる。

それにしてもうなぎを焼く煙って、何でこんなに美味しそうなのだろうか。

そんな街なので幼少の頃から親戚が集まる時には両親が奮発してうな重を頼み、子どもながら自分もそのご相伴にあずかった。それ以来、自分の中で「うなぎ=特別おいしいもの」と刷り込まれ、今ではいつの頃からか出張が決まるとその街にある鰻の名店を調べ、食べ寄ることが楽しみになった。

うなぎ料理の店は一般的な和食の店よりもアイドリングタイムを設けない店も多く、多少ランチタイムを過ぎていても入店できるというのも有難い。

うなぎの蒲焼が現在のような形になったのは江戸時代の天保の頃、と伝えられる。よほどうなぎに合った料理法なのか、現在もその頃とほとんど変わっていないらしい。

なるほど、きれいで明るくさっぱりとしたレストランタイプの店よりも、太い柱と梁にその煙りと香りが染みついたような歴史を感じさせる趣の店の方が、なんとなく美味しく感じてしまうのはそのせいかもしれない。

『ガストロノミー・ツーリズム』という新しい観光スタイルが少しずつ広まっている。ガストロノミーとは直訳すると「美食学」。単に「料理を味わう」のみならず、その土地にまつわる様々な文化や体験を料理とともに楽しむ新しい旅のスタイルのことである。

最近は地域野菜や地域ブランド肉など地産の食材にこだわった料理を地酒で味わうことをセールスポイントとする新しいレストランも誕生しており話題を呼んでいると聞く。

言うまでもないが、観光は今や「観る」「食べる」から「感じる」「知る」「体験する」ものに変わりつつある。『美食』をベースに、その地域やその土地ならではの食材、そしてその地域にまつわる食に関する歴史や文化も一緒に学ぶといった、より懐深い旅の楽しみ方は、余暇時間を重視する社会的な流れもあって、ワーケーションなどと共に、これからどんどん広まっていくかもしれない。


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そんな流れをホテル旅館に置き換えてみると、より新しいビジネスや集客促進策が考えられるかもしれない。

今や日本の人口は減少局面に入っている。ホテル旅館にとっても「集客」や「販売促進」以上にどうやって人手を集めるか腐心している企業も多いと聞く。

例えば、週休制など今までは考えられなった定休日を設定する旅館ホテルが出てきたり、アウトソーシングできる部分はできる限り外部委託することで社員の負担を軽減する、といった工夫を行っている施設も少なくない。特に全館ではなくても食事の客室提供を続けている旅館では料理を配膳する客室係が揃わずフロア単位で販売を休止し、満館でなくても販売を終了せざるを得ない、といったケースがある、という話も聞いた。

なかなか地域の美食レストランと連携して自館での宿泊・朝食とその店での夕食をセット化して商品化する、という企画を立て、販売していくのはハードルが高いかもしれない。

もちろん立地にもよるが、地域にそうした店舗があるエリアであれば、無理に一泊二食のみで販売せず、ゆったりその地域にあるレストランで夕食を召し上がっていただいた後にチェックインして一泊朝食付で利用するスタイルの商品化であれば、それほど難しくはないのではないか。

特別辺鄙な立地の施設を除き、宿泊客をずっと館内に閉じ込めるような旅のスタイルは前時代的。今や積極的に外、つまり地域と連携し、地域の力やその地域で活動する人々の力を活用し、単体ではなく地域全体のブランドイメージを高めていく時代である。世はSDGsが叫ばれている。

知り合いのデザイナーにも地元産野菜の中で形が不揃いだったり、少し傷があるだけで通常の流通ルートには出荷できない「はじかれ野菜」を集め、生産者と一緒にバザーを実施している女性がいる。毎回そのバザーには、楽しみにしている地域の人々や、たまたま旅行に来てそのイベントを知った観光客も集まり、大変盛況と聞いた。

例えば、そんな見た目は悪いが調理してしまえば普通の野菜と変わらない地場産野菜だけを材料に自館だけの名物料理を開発したり「食」を切り口にした魅力づくりは、まだまだ色々考えられるものと思う。

ガストロノミーとは腹を満たすだけのものではなく、こころを満たすもの。「君が何を食べるか言ってみたまえ。君が何者であるかを言い当てよう。」この言葉は美食家として知られた18世紀フランスの法律家・ブリア=サヴァランが残したもの。

これからホテル・旅館が提供する食にも、そんな「こころを満たす」要素が、もっと求められていくのではないか。

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