見出し画像

パリ五輪に行って日本の観光を徒然に考えた


YOUは何しに日本へ?的な人がたくさんいた


東京オリンピックの観戦が叶わなかった分、この夏のパリオリンピックをリアルで観戦できたことは感激だった。世界中から自国の選手を応援する人がフランス各地を訪れ、交流し、相手の国と選手を讃え合う。選手の活躍や試合の結果がオリンピックの全てではないことを感じた。

JAPANの応援Tシャツを着ていると、行く先々で「日本の人?一緒に写真撮りましょうよ。日本が好きなの。うれしい!」とか、「あなた日本から?私、日本に旅行したいんです。お寿司食べて、富士山を見たい。」などと声をかけられた。「来年の春、一関に桜を見に行くよ、柔道の先生が勧めてくれたから。」と語ってくる人には驚いた。申し訳ないことに、私は桜を見るために一関に行ったことがない。でも、そのくらい具体的に日本の風景や日本で体験したいことに関心を持っていた。

日本に行ったことがある、と言った人に、どこに行ったことがあるか尋ねたら、「四万十川」と答え、他にはどこに行ったのか聞いたら、「四万十川だけ」と答えた。「長野の雪は最高。またスキーに行きたい。」と言う人もいた。


統計が示しているインバウンドの地方化をそんなやりとりに実感した。三井住友カードによると、19年1~12月の訪日外国人決済額合計を100とした場合、23年の各指数は19年の指数に比べ東北地方が59%、四国が23%、中国が19%それぞれ伸びた。消費の絶対額としては関東や近畿が多いが、地方も健闘しているという。

インバウンドの流れは、目的をピンポイントで定めるように地方に向かっていると感じた。


パリ五輪の経済波及効果、来年の大阪万博はどう考える?


パリ五輪・パラリンピック組織委員会は5月に、大会開催に伴う経済波及効果についての調査結果を発表している。リモージュ大学による調査で、2024年のパリ五輪は地域に67億ユーロ(約1兆1471億円)から最大で111億ユーロ(約1兆9000億円)の純経済利益を生み出すとの予測だが、内訳は観光による利益が30%、建設による利益が28%、運営そのものでの利益が42%としている。

パリ観光局によれば、チケットを持っているかどうかにかかわらずパリを訪れる観光客によって、推定26億ユーロ(約4,451億円)にのぼる利益がもたらされる計算だ。

この経済波及効果は単年の話ではなく、この試算結果は、「2018年から2034年までの期間にわたる」利益として出されている。

特に終了後にもたらされる利益を「レガシー(遺産)効果」と呼ぶが、施設の活用だけでなく、五輪を機に地域おこしがうまくいけば、その地域に長期にわたる収益をもたらすとされ、大会終了後の地域の努力によっては、観光客を呼び寄せ続けられ、開催のその先にこそ本来の効果を求めることができるというものだ。


五輪ほどではないとしても、来年の大阪万博は世界に向けて日本を発信する機会に違いない。経済産業省が発表した2024年3月の試算では、大阪万博の経済波及効果は2.9兆円である。

大阪万博を訪れるかどうかではなく、日本が告知されることによる訪日客の増加はその期間だけのものではなく、その先に繋げられるものでもある。
万博に期待を寄せる関西の観光業界ではあるが、それ以外の地域が他人事のように冷めた目で傍観している場合ではない。これを機会としてどんな発信ができるのか、地域をあげて取り組むことが、インバウンド需要の開拓になるはずだ。


外国人客への道案内に見えたホスピタリティ


さて、話をホテルの接客に移し、外国人客への配慮と準備が各所で見られたことに触れておきたい。

英語は通じにくい、英語を知っていてもフランス語で話し続けるフランス人、のようなことをイメージしがちだが、少なくとも今回は、ホテルでもレストランでも駅でもそのようなことは一度もなかった。

フランス語では通じないとなれば、「英語を話す人を呼んでくるから待って。」と言い、旅行客が困らないようにしてあげたい、という思いを感じたほどだ。
「心のバリアフリー」の実践である。
 

特に、ホテルのスタッフと五輪会場誘導のボランティアは、「道案内」に長けていた。画一的な道案内であれば、むしろ手元のデバイスで調べたほうが遥かにわかりやすく、使いやすい。旅行客が悩むのは、その画一的な道案内でなく、自分の事情に合わせた道案内を求める時だ。

例えば、どの切符やパスを購入すべきか迷っていた時には、「何日間使うのか。」「どこに行くのか。」と質問された。「それだったら、こちらの方がいくら安い。」とか「少しでも楽に移動したいのであれば、金額は高いがこちらにメリットがある。」などの情報も説明に加えてくれた。知識も豊富で、何より「私のことを考えてくれている」ことに感謝の気持ちでいっぱいになる。

優れたコミュニケーションは相手の理解から始まるわけだが、日頃外国人旅行客の質問に答える時に、そこまで考えて提示しているだろうかと気になった。外国人旅行客にそのように質問を重ねながらぴったりの答えを一緒に探してくれる対応こそ、「寄り添うサービス」と呼ぶに相応しい。

日本人には想像しやすいことでも、仕組みや感覚の違いで外国人旅行客には判断しにくいことや情報が不足していることも多いはずだ。そういった外国人旅行客への理解が先にあり、その上でホスピタリティにあふれた対応が実現するのだと気付かされた。 


おすすめの街の発見、SNSの発信


オリンピックの試合はパリ市内だけでなく、フランス各地(中にはフランス領)で行われた。私は、あるチケットを取った後で、その試合がパリから2時間ほどのナントという街で開催されることを知った。

ラグビー好きな方なら、先のワールドカップの日本の試合が行われた街として記憶されている方もいるだろう。私は歴史で習った「ナントの勅令」のナントか、としか思い付かず、そこまで行かなくてはならないことに困惑した。

ところが、調べてみたら観戦のためだけに行くのではもったいないような気持ちになった。お城や美しい街並みのこと、海底2万マイルを記したジュールベルヌの生誕の地でそれにちなんだ機械仕掛けの巨大な象に乗れること、大好きな路面電車が走っていること、など、私は結局3泊してナントの街を楽しんだ。


そして、地産地消の食材を活かした素朴で本当に美味しい料理、地元産のワインに出会い、フランスが豊かな農業国であることを思い起こした。

印象的だったのは、どのレストランもテーブルは道路に出しているところから埋まっていることだった。その開放的な雰囲気は、偶然隣同士になった客同士を親しくさせるものなのだろう。

メニューを眺めていると、地元に住んでいるという隣の女性客から「これがおすすめよ!おいしいから食べたほうがいいわよ。」と勧められたし、レストランの店員は「ワインは、これがこの地方のもので、絶対間違いない。」と選んでくれた。地元のものに自信と誇りを持っていることがうかがえた。店員は食後にミントのリキュールを持ってきてくれて、「これを食後に飲むのがナント流。どうぞ召し上がれ。」とご馳走してくれた。

こうして、偶然行くことになったその街で、旅行の醍醐味を味合わうことになった。気に入ったアイスクリーム屋に毎日通ったし、家族は床屋にも行った。観光名所がさほどあるわけでもなく、だからこそその街を味わうように過ごすことができたのだと思う。

滞在することと観光名所がさほどないくらいの条件が街を楽しむ秘訣かもしれない。


もう一度行きたいとも思うが、これはなかなか難しい。しかし、SNSで発信することで、私の「好き」を誰かも好きになるかもしれない、と思う。今はそうして、街に人が集まってくる時代だ。

日本の地方には、有名観光地や都会のように旅行客を集める素材が少ないと感じている方もいるだろう。けれど、その方がゆっくり過ごしてもらえて、旅行客目線の魅力を見つけてもらえるチャンスがあるかもしれない。

地元の食材や文化の誇りを持って伝えることは、街の付加価値そのものを創り出すだろう。おすすめの街は、ガイドブックの編集者や旅行社のコーディネイターが発信するばかりではない。むしろ、その街を好きになった誰かが発信することで、真実の魅力が伝わっていくのだと思う。


毎週配信をしているリゾLABのメールマガジン「リゾMAGA」。新着記事の紹介、旅行・観光関連のデータやプレスリリースなど、旅館・ホテル業界に関わる方におすすめの情報を届けます。

▶メルマガ登録はこちらから

記事を最後までお読みくださり、ありがとうございます。励みになりますのでコメントいただくのも嬉しく、今後の参考になります。また、課題共有と解決ご提案、協業のご相談は、お問合せフォームよりリゾLAB編集部までお気軽にお寄せください。適切な担当者がご返信いたします。