2030年のインバウンド需要の見通し|訪日観光客6,000万人目標へ
海外から日本に訪れる外国人の購買欲やニーズである「インバウンド需要」。コロナ禍で低迷していましたが、世界的に落ち着きを見せていることから、最近ではインバウンド需要が高まっています。
そこで今回は、2030年のインバウンド需要の見通しについて、2024年のインバウンド需要や地方のインバウンド施策と共にご紹介します。
2024年:コロナ前の3,000万人強を越える勢い
2024年はアフターコロナとも呼ばれており、新型コロナウイルスの影響が落ち着きました。これに伴い、2024年のインバウンド需要はコロナ前である2019年の3,188万人に匹敵しています。実際、直近9月の訪日外客数は約287万人となり、8か月連続過去最高を更新しており、2023年の年間を9月で越えました。
また、訪日国別に見ると好調な東アジアに加えて、欧米からの訪日数も大幅増加を維持しています。さまざまな国からの来日が増えており、このことからも2024年以降もインバウンド需要の勢いが感じられます。
一方、訪日観光客の滞在日数を見ると7日以上が45.4%でした。大都市以外に地方へも積極的に滞在しており、場所を問わず日本に長く滞在しています。
政府の「訪日観光客6,000万人・消費額15兆円」目標
2024年のインバウンド需要は急増していますが、今後もさらに増加する見込みです。
現在、政府は「訪日観光客を6,000万人、消費額を15兆円」を目標にしています。この数字を達成するためには約2倍増やす必要があり、伸び率も毎年10%程度必要です。
2024年のインバウンド需要を月ごとでみると横ばいで、目標達成のためには更なる取り組みが必須です。
政府における今後の取り組み|観光立国推進閣僚会議
現時点では、2030年のインバウンド需要の目標には届きません。そこで政府は、観光立国推進閣僚会議において目標達成のための取り組みを話し合いました。
ここからは、会議で決まった政府における今後の取り組みをご紹介します。
1.デジタルノマドビザの発行:外務省
出入国在留管理庁では、外国の企業に所属しているものの日本に滞在しながら仕事をしたい外国人向けに、デジタルノマドビザの発行を開始しました。
そもそも「デジタルノマド」とは、ITを活用することで仕事をしながら長期で旅行をするライフスタイルのことです。海外で仕事をするためには、その国に滞在するためのビザ(デジタルノマドビザ)が必要です。すでにヨーロッパやアジアの一部の国では発行がスタートしていましたが、日本でも2024年3月31日から申請が開始されました。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/pagew_000001_00494.html
2.共同キオスク:出入国在留管理庁
財務省税関と出入国在留管理庁は、省庁の枠組みを超えて「共同キオスク」という取り組みをしています。
「共同キオスク」とは、税関や入国手続きに必要な情報を同時に提供できるシステムです。これまで、税関手続きと入国手続きで重複していた確認を省略でき、スムーズな入国手続きと時間短縮が可能となりました。
現在は羽田空港第2ターミナルにのみ設置されています。
3.武道ツーリズム:スポーツ庁
スポーツ庁では、スポーツの参加や観戦を目的に来日する観光客に向けた「武道ツーリズム」という取り組みを実施しています。
武道ツーリズムとは、日本発祥である武道の価値をまちづくりや地域活性化に活かすための取り組みのことです。さまざまな企業と提携し、各地域でさまざまなツーリズムを開催しています。例えば、沖縄県では「空手ツーリズム」と題して沖縄空手の体験や空手聖地巡礼ツアーを開催しました。
https://www.mext.go.jp/sports/content/20211105-spt_stiiki-000015026.pdf
4.農泊:農林水産省
農林水産省では、「農泊」と呼ばれる旅行を開催しています。
農泊とは、農山漁村滞在型旅行のことです。農山漁村に旅行し、滞在中に地域資源を活かした食事や体験を楽しんでもらうことを目的としています。農山漁村地域全体が旅行者を受け入れることで成り立つ旅行であり、食事・宿泊・農業体験をそれぞれで担当しています。
日本ならではの食事や農業体験ができる人気の旅行であり、2022年度はコロナ禍以前の数値を上回りました。現在は、2025年度までに700万人の宿泊を目指しています。
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/nouhakusuishin/attach/pdf/nouhaku_meguji.pdf
5.全国各地における高付加価値コンテンツの支援|国土交通省
国土交通省では、新しいインバウンド政策の取り組みとして全国各地における高付加価値コンテンツの支援を実施しています。この取り組みは、各地域に高付加価値を付けることで地方への訪日観光客の分散が目的です。2023年は、各地域で高付加価値コンテンツの支援とマスタープランを策定しました。2024年現在では、外部目線によるコンテンツの磨き上げと販路の形成を進めています。
訪日客は都市に多く集まりますが、地方に付加価値をつけることで更なる訪日を目指していま
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kankorikkoku/dai23/siryou2.pdf
6.富士山のオーバーツーリズム対策|環境省
日本といえば富士山をイメージする外国人が多いです。しかし、富士山では現在マナー違反や地元住民との摩擦などオーバーツーリズムが問題視されています。
そこで環境省では、富士山のオーバーツーリズム対策に取り組んでいます。例えば、デジタル入山管理システムを提供したり、宿泊税や通行料を設けてインフラの強化や維持費の確保を進めています。
訪日客の受け入れのためには、環境や地元住民への配慮が必要です。環境を守り地元住民の理解を得るために、さまざまな対策が実施されています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kankorikkoku/dai23/siryou7.pdf
7.オーバーツーリズム問題解決の糸口は「分散」
現在、日本ではオーバーツーリズムが問題となっています。しかし、前述の通り政府はさらなるツーリズムの増加を目指しており、オーバーツーリズム問題の深刻化を懸念する声も上がっています。
観光立国推進基本計画では、訪日外国人旅行者一人当たりの地方部における宿泊数を、令和7年までに2泊とすることを目標としています。一方で、地方部での滞在時間や宿泊数の増加への取り組みも進められています。
オーバーツーリズム問題を解決して訪日客を増やすためには、都市部だけではなく地方への訪日客増加が必要です。そのためには、その土地の魅力を商品に仕立てることと情報発信が必要であり、魅力的な発信・取り組みが求められます。
【当社事例】地方のインバウンド施策を紹介
地方へのインバウンド需要増加のために、各地域ではさまざまな施策が進められています。そこで最後に、地方のインバウンド施策の事例をご紹介します。
1.新潟県観光協会「新潟ガストロノミー磨き上げ事業」
新潟県観光協会では、地域内の受賞コンテンツである「新潟ガストロノミーアワード」と、「新潟プレミアムダイニング」というコンテンツを組み合わせた「新潟ガストロノミー磨き上げ事業」を実施しました。
これまで、新潟県ではガストロノミーとツーリズムを連動させた訪日販路の確保が不十分であることや、高単価旅行商品がないことが問題視されていました。問題解決のためのインバウンドコンテンツとして作られたのが、「新潟ガストロノミー磨き上げ事業」です。この事業では、リゾート列車「雪月花」にて飲食店のシェフが料理を提供したり、新潟ガストロノミーアワード受賞ホテルへの宿泊プランを開発しています。
このように、新潟県観光協会ではさまざまな施策により、新潟への訪日客増加を目指しています。
2.新潟県佐渡市「SADO GOLD & SILVER MINES For all Tourists」PR動画
新潟県佐渡市では、「SADO GOLD & SILVER MINES For all Tourists」というPR動画を作成しました。このPR動画では、佐渡最古と言われる「西三川砂金山」や明治期以降の近代化による鉱山施設群など、佐渡市が誇る佐渡金銀山の歴史や魅力、価値がダイナミックな映像で紹介されています。
そのダイナミックな映像は訪日客のみならず日本でも評価され、新潟県の自治体では初となる「地域プロモーションアワード2021 ふるさと動画大賞(第3回)」の優秀賞を獲得しました。
旺盛なインバウンド需要を地方へ!土地の魅力と情報発信を
アフターコロナの今、インバウンド需要は急増しています。一方、オーバーツーリズム問題も懸念されており、問題解決のためには地方のインバウンド施策も重要です。
都市部や地方に関わらず、ホテル業界でもインバウンド需要に対応するための施策が必要です。複数言語に対応したアプリの導入やインバウンド向けの宿泊プランの設計など、インバウンド対策を進めましょう。
毎週配信をしているリゾLABのメールマガジン「リゾMAGA」。新着記事の紹介、旅行・観光関連のデータやプレスリリースなど、旅館・ホテル業界に関わる方におすすめの情報を届けます。