
どうする会議時短!倍速で問題解決なら仮説思考
1.社内会議のグチを拾ってみる
ご経営者と話をしていると、「社長や一部の幹部しか問題を提示できない。」「話し合いが遠回りでいつも時間切れ。」「結論が出ないから社長が決めないとならない。」「考えていないのか、指名でもしなければ意見が出てこない。」という、ため息まじりのことばが次々聞こえてくる。
一方で、幹部社員や管理職の方々からは、ご経営者のことばにすっかり対峙するように、「会議はいつも叱責から始まるパターンになっている。」「時間切れでいつも後は現場でよろしく、となる。」「結論ありきでやらされ感ばかり。」「負担が増えるから、発言は控えたい。」と、半ばあきらめにも似た表情で語られる。
同じ現象について語っているのに、立場が変わると、意見はお互いに相手を非難する真逆の表現になる。
時間が限られている中で、実のある会議を効率よく進める工夫はされているとは思うけれど、なぜか上記のような意見は多い。確実で迅速な解決のために、経営者が提案し賛同を得て決定!と進める方がいいこともあるだろう。しかし一方で、そうして社員の自発性や思考力が損なわれないかと懸念もあるに違いない。
会議ばかりでなく、課題の解決に誰もが積極的に関わり、意見を交えながらもスピードアップすることは、経営者・社員の双方にとって一致する願いである。そこで、その願いを叶えるよい知恵はないものかと探ってみた。
まず読んでみたのが本書である。
東洋経済新報社刊
「仮説思考」BCG流問題発見・解決の発想法
内田和成 著
副題のBCGとは、ボストン・コンサルティンググループの略。著者は、その日本代表も務めた人で、「ボストン・コンサルティンググループのコンサルタントは、仕事が速い」と言う。思わず、「世界一流のコンサルタントだもの、それは速いでしょう。」と突っ込みたくなる。なんだか誰でも取り入れられるようなことではないかも、という懐疑心いっぱいの気持ちで読み始めてみたが、意外にも真似できそうなシンプルなことが語られていた。
2.仮説思考とは何だろう
仮説思考とは、現時点で完全な情報が揃っていない状況でも、仮の答えや仮のモデル(仮説)を立て、それをもとに行動や検証を進める思考方法のこと。物事を答えから考え、ベストな解を最短で探す方法で、課題を分析して答えを出すのではなく、まず答えを出し、それを分析して証明するのだという。
特に、問題解決や意思決定の場面で用いられるアプローチで、「仮の答えをもとに動きながら解決の道を進む」ことでスピードを高めるというものだ。

「それって、よくやってるよ。」とおっしゃるかもしれないが、会議で批判や反論を浴びるのが、この類の意見ではないだろうか。「それでうまくいくのか。」「よく調べたのか。」「去年も同じようなことをしてうまくいかなかったじゃないか。」と言われるのが怖くて、あるいは面倒な気分になって、その発想は日の目を見ない。会議で、その仮の答え(意見)をベースに、うまくいくように意見を重ねていくことが難しいのは、組織に仮説思考の文化がないかかもしれないと思えた。
3.将棋に見る仮説思考
本書でも紹介されているのが、プロ棋士の仮説思考だ。
多くの人は、情報は多ければ多いほど良い意思決定ができると信じ、できるだけ多くの情報を集めて物事の本質を見極めようとする。この答えの導き方はコンピューターが得意だ。考えられる全ての打ち手を読み、最も優れた手を打とうという考え方である。ところが、ありとあらゆる手を検討し尽くすのが得意なコンピューターでさえ、将棋では人間の名人には勝てないことがある。名人の経験に裏打ちされた直感やひらめきにはかなわない。
これが、将棋の世界の「仮説思考」だ。ベストな解を最短で探すために、まず答えを出し、それを分析して証明するのである。1つの局面に80通りくらいの指し手の可能性があるが、名人はそのうちの77、78については、これまでの経験から、考える必要がないと瞬時に判断するそうだ。そして、「これが良さそうだ」と思える残りの2、3手に候補を絞り、検証する。網羅的に全ての手を検証するのではなく、大胆な仮説を立て、「これが良いのではないか」と指しているのだ。しかも、直感や経験に基づく柔軟な思考、心理的戦略など、AIにはまだない人間の強みでもある「創造性」や「適応力」が、計算能力の勝負を超えた将棋の面白さを感じさせてくれる。
ビジネスにおいても、問題の原因と解決策についてあらゆる可能性を考えるよりも、経験に裏打ちされた直感力、勘によって、最初に仮説を立てることができそうだ。間違いに気がついたら軌道修正し、改めて他のストーリーを考える。この方法が最も効率的だ。
4.問題の本質を見極めるから有効な解決策になる
仮説思考は、真の問題が何かを発見し、解決策を作る上でも有効だという。
旅館の販売プランを例に考えてみようと思う。例えば、A館の平日プランは、平日動きやすいリタイア客に向けて、食事軽めのリーズナブルなプランを設定しているが売れていない。この場合、どうしたら売れるようになるのか。
ブレーンストーミングなどの手法を使って網羅的に考えると、価格設定、交通手段や利便性、発地からの距離、料理内容への嗜好の変化、設定客室の制限など、さまざまな問題がリストアップされてしまうに違いない。
一方、仮説思考では、「売れない理由はこれではないか」という可能性の高い仮説に絞って考える。例えば、このプランで高齢層グループ客に売れていないのではないかと仮説を立てて調べて見ると、確かに他のプランの個人客とグループの比率に比べ、このプランはグループ層に売れていないことがわかったとする。そこで、高齢層グループ客にいかに売上を上げるかという戦略を考えることにする。

この場合も、網羅的に戦略をリストアップせず、問題解決の仮説を立て検証する。例えば、キャッチコピーがいかにも高齢夫妻向けであることが問題なのではないかと仮説を立てるなら、「高齢層グループ客が魅力を感じるキャッチフレーズをつける」という手が考えられる。それが実際に効果を上げることができるかどうかといった点に絞って、高齢層グループ客への強み・弱みなどから検証する。
このようにして、仮説・検証を幾度となく繰り返しているうちに、次第に勘が働くようになり、早い段階で効果的な対策にたどり着けるようになるという。
5.セブン・イレブンの仮説・検証システム
こうした考え方を経営の基本において成功したのが、セブン・イレブン・ジャパンだと紹介されている。鈴木敏文元会長は常々、「自分たちの仕事は、どうやったら売れるのかをまず考えてみる。最初に仮説を作るのだ」と語っている。
検証は、現場で行うのが一番わかりやすい。数年前、「おにぎりが消費者にあきられている」という時期があった。そこでセブン・イレブンでは「品質、味が良ければ200円のおにぎりも売れる」という仮説を立て、検証してみた。
まずは、ほとんどのおにぎりを 100円で売ってみた結果、2~3カ月は売上が20%程度伸びた。次に、200円の質の高いおにぎりを売り出したところ、価格を下げた時をはるかに上回る売上増を記録した。このように仮説を実験してみることで、消費者のニーズをつかむことができたのである。
また各店舗では、この商品はあちらの売場の方が売れるのではないかという仮説を立て、それを実行する。以前より売れたら、その仮説は正しかったことになり、売れなければ前のやり方に戻すか、あるいは別のやり方を考えて実際に行い、検証する。このように繰り返すことによって仮説を進化させていくそうだ。
6.経験を補う仮説思考をトレーニングする2つの方法
しかし、実験による検証はとてもわかりやすい反面、向くものとそうでないものがある。例えばアパレルや食品など、繰り返し消費の起こる業界では、実験による検証は比較的やりやすいが、自動車メーカーや製薬会社など多額の開発費用がかかる業種は、そう簡単に実験できない。
旅館では、「宴会需要が頭打ちなので宴会場を個室ダイニングに改装して単価アップに繋げる」「人手不足対策として夕食なし・宴会なしの営業に切り替える」など、業界全体ではそれで功を奏した例もあるが、このような会社としての大きな意思決定は実験には向かないだろう。
「仮説思考力が高い」というのは、「最初から相当に筋のよい仮説を立てることができる」という意味だ。どうしたら筋のよい、仮説思考力の高い人になれるのか、と話が聞きたいと誰もが期待するだろう。

「石油採掘の専門家と素人が、石油採掘をしたとする。地上にいながら地下の油田を見ることができないという点では、2人の条件は同じだ。しかし、実際に採掘してみると、専門家の方がはるかに高い確率で油田にたどり着く。これは、経験の差としかいいようがない。」
「ビジネスにおける課題解決も石油採掘のようなものである。なぜ問題の答えが直感的にわかるかといえば、それは仮説と検証の経験によるものだ。つまり、仮説を立てるには、経験を積むことが大切であり、少ない情報で良い仮説を立てられるようになるには、経験を重ねるしかない。」と書かれている。
いや、これでは、私の仮説は当たらなかったということになる。それどころか、短期的には仮説思考はスピードアップに役立つとしても、経験を積む時間がかかるということになれば、道は険しく、仮説思考そのものはあまり得策ではないと思ってしまうのは私ばかりではないだろう。
「ただし、トレーニングする方法はある。」と著者は続けるので、「そこでしょう!」と、読み続けた。
①日頃から「So What?(だから何?)」と考え続けること
②日常的に「なぜ」を繰り返すこと
例えば、アップルコンピュータの「iPod」が非常に流行していると聞いた時に、「So What? 」 つまり、どういう影響があるのかと考えたかどうか。ウォークマンの市場シェアが減少し、ソニーの業績が悪化する?音楽業界やCD・レコード業界が大きく変わる?等々、様々な分野に影響を与えるだろう、と考えただろうか。
Z世代には何のことやら想像もつかない話ではあるが、最近のことで言えば、VRゴーグルが広まっていると聞いた時に、「So What?」(だから何?)」と考えてみたかどうか、ということである。VRゴーグルで体験した旅行先に「行った気になって、実際に行かないだろう」と思考を止めてしまうのでなく、「本物を体験したい気持ちが掻き立てられ、実際に行ってみる」時代が来ているという思考が持てるように考え続けてみたか、が問われる。
このように、周囲で起きていることに、「So What?」と考えるクセをつけると、仮説思考力は磨かれていくのだ、と言う。ニュースに触れて、街で新商品を見て、日常的に自分の仕事に引き寄せ、「So What?」と深掘りするクセをつけてみたい。そうして、仮説思考を手っ取り早くではなく、着実にスキルとして磨き上げていく。磨き上げてから動くのではなく、動きながら磨き上げていくのだ。

7.仮想思考のまとめ
「重要なのは、仮説思考の重要性を組織の共通認識とすることだろう。そうすることによって、仮説で議論できるカルチャーが企業内に生まれ、やがて根づいていく。」と述べられている。
企業に意思決定のスピードが強く求められていることは誰にも明らかだ。経営者だけではなく組織の誰もがこの「仮説思考」のスキルを身につけ、組織文化にまで高めることできれば、これからの時代にふさわしいスピード感のある組織力を手に入れられるかもしれない。ボストン・コンサルティンググループでなくたって、誰だってさくさく仕事を進めたいし、十分な成果を挙げたいのだ。
ということで、この独り言は「この内容は業界の皆さんに興味を持っていただけそうだ」という「仮説」を立て、訪問先で話をして「実験」し、反応や質問を経て「検証」してまとめたものである。
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