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地域資源を活かした町ぐるみでの観光活性化を牽引する、東伊豆町観光協会の取り組み

トップランナー Vol.30
一般社団法人 東伊豆町観光協会
青嶋 優太郎さん


町内に6つの温泉郷を擁し、国内外を問わず多くの観光客に海・山・里の多彩な魅力を提供してくれる東伊豆町。
コロナ禍から本格的に脱してさらなる観光振興をめざす町の多岐にわたる取り組みについて、東伊豆観光協会の青嶋さんにお話をお聞きしました。



東伊豆町の観光活性化に向けた、これまでの取り組みの方針は?

東伊豆町には、大川・北川・熱川・片瀬・白田・稲取と6つの温泉郷があり、そのそれぞれに他の地域にはない特徴を持っています。
こうした各温泉地の特徴を活かした取り組みを展開していくことが、私たち東伊豆町観光協会の基本方針です。

6温泉地では観光施設や商業施設の数も異なるため、現状の観光の入込み数だけを見ると、稲取と熱川の両温泉がメインとなっています。

しかしながらその他の地区ならではの観光資源や居心地の良さもあり、こうした点をクローズアップすることで、町としてさまざまな観光客のニーズを満たす懐の広さをアピールできますし、また宿泊先は自分の好みで選ぶことができ、そこを拠点として他地区を周遊してもらう機運を醸成できると考えています。

先ごろ、2022年5月には、温泉地ごとに存在していた観光協会が「東伊豆町観光協会」に統一されたことで、町ぐるみでの観光活性化に向けた活動もこれまで以上に推進しやすい環境が整い、その意味では会員事業者様のご協力をいただきながら東伊豆町の観光振興はこれからが本番だと思っています。


観光地域づくりという視点における、東伊豆町の方向性とは?

観光業界では、高付加価値化が大きなテーマとなっています。
私たちもこれを踏まえた事業計画を立案し、街地域全体を巻き込んだ提案をしています。

具体的には、熱川地区と稲取地区を“観光のコアエリア”と位置づけ、両地区を起点として他地区を“宿泊滞在エリア”とすることで全体に観光客を流入させていく計画です。もちろん熱川・稲取地区は宿泊エリアも兼ねており、コアエリアは集客のハブを行う重要地区という認識です。

東伊豆町は車で来訪する観光客が約7割を占めています。マイカーの利用者は来訪目的がドライブ自体であることや、伊豆半島中に観光ポイントが散在しているため地域内の周遊に結び付かず町なかに消費点をつくることが難しいという側面があります。

こうした消費点の課題に対して、できるだけ地域内で散策ができるように電車を利用した観光客の方へのフォローを増やしたいと考えています。

現在、駅から宿への道筋にあたる商店の活性化を企図したり、また周遊を促進できるようデジタルマップ計画を推進したりと、さまざまな施策を打っています。

また駅からの移動を支える二次交通の強化は伊豆全体の課題でもあります。東伊豆町では地域交通の維持という観点で行政が主体となり、この強化を目的としてバスや乗り合いタクシーへの働きかけを行っています。

また観光協会でもカーシェアリングの実証実験施策や、駐車場検索の利便化を目指し駐車場予約サイトを持つ会社と連携協定を結び情報の見える化といったDXを展開している最中です。

観光協会としても、町にあるリソースをうまく活用し行政と一体となって今後の交通利便性の向上に取り組んでいこうと考えています。


東伊豆町を訪れる観光客に期待することは?

東伊豆町には品質の高い宿泊施設が充実していますので、「旅館・ホテル・宿泊」のコンテンツは首都圏を中心に広範囲に浸透していると思います。

今後はそれ以外の部分を拡充させて、それを観光と宿泊を両輪でさらに盛り上げることが肝要です。

私たちとしては、特に町内の飲食店の魅力に気づいてもらうことを強く意識しています。

お客様へのアンケート調査でも飲食・小売店の充実を求める声を多くいただいています。

観光要素の魅力を引き出すことで、車での来訪者に方も町に滞留する機会がより増えることを期待しています。

観光協会ではインバウンド需要も見据えて飲食店・観光施設などを中心に多言語対応の「海を観る、東伊豆まちデジタルマップ」に一軒でも多く登録していただけるよう地道な声掛けを継続しています。


東伊豆町ではユニークなイベントも数多く開催されています

そうですね、東伊豆町では町全体での催しや各地区の特性を活かしたイベントが数多く開催されています。

主だったものを挙げると、5・6月の「ほたる観賞のゆうべ」、9月の「石曳道灌まつり」、東京ドームおよそ26個分の規模を持つ稲取細野高原の「秋のすすき観賞会」。

石曳道灌まつり
秋のすすき鑑賞会


また日本一の雛の段かざりが登場する稲取温泉の「ひなのつるし飾りまつり」や、奇祭として全国に知られる「どんつく祭」、北川温泉の謝月祭など、ここでは挙げきれないほどのイベントがあります。

さらに今年は、熱川と台湾復興興隆をかねて台湾提灯を飾る「熱川に、九份が灯る。」というイベントが実施され、まるで台湾・九份のような景観は多くの方から好評を得ました。今後も継続的にイベントを実施したいという声につながっています。

熱川に九份が灯る

その他にも、日本百名月に選ばれている北川温泉での「謝月祭」という中秋の名月イベントや、満月前後に起こるムーンロードといったナイトタイムの魅力、さらには港の朝市などの「朝活」まで、東伊豆町には四季と時間を問わない幅広い観光資源が本当にたくさんあります。

「ムーンロード」

こうした観光資源をより活性化させ、多くの方にその存在と魅力を伝えることが、私たちの使命だと思っています。

インバウンドの状況と、今後の展望についてはいかがでしょうか

インバウンドに関しては、コロナ禍の影響から脱してかなり回復してきています。

宿泊実績を例に取ると、一部の旅館ではこれまでの外国人比率はおおよそ5~10%以内だったものが、今は10%を超えるまでになり、海外OTAの利用も増加傾向にあります。

外国のお客様の来訪時期は、国内旅行者のピーク時期と重ならないケースもあり、観光地として繁閑差の安定を図ることで事業者様の収益増強を意識しています。

観光立町として成長するためにも、インバウンドは追い続けるターゲットであり、遠く海外からいらっしゃるお客様にも、より心地よく過ごしていただきたいと思いを抱いています。

特に台湾については東伊豆町や伊豆半島全域でも誘客に力を入れており、町長を筆頭に観光協会としてもトップセールスを実施しています。国別・地域別の来訪者数においても台湾の来訪者はつねに上位であり、観光協会としてもこれを堅持していきたいと思っています。

行政の動きに連動して、民間の事業である屋外映画鑑賞会「ほし☆そらシネマizu」では、「台湾ナイト」と銘打って台湾料理の出店を募集し出店を行うといった活動も出てきており、これらの活動を積極的に後押しすることで、民間からの参入意識を拡大して強固にブランディングができるとも考えています。

もちろん台湾以外の国・地域に対しても、シンガポールを始めとするアジア各国への働きかけなどがより活発化してきている状況です。


活況を呈しているインバウンドに伴って、町での課題などはありますか?

やはりさまざまな課題も浮かび上がってきていますね。

例えば海外では日本的な一泊二食のスタイルではないケースも見られます。町内の宿泊施設に泊まったお客様が施設外での夕食場所に困るというケースが増えているようです。
受け手としては泊食分離のような形態を取り入れカスタマージャーニーを検討する必要性が増しています。

その意味でも町内の飲食店のPRや、テイクアウトなど柔軟な食事の提供スタイルを事業者と連携して検討することが、今後さらに大切になると考えています。

また町内の宿泊施設の部屋数とキャパには当然ながら上限がありますので、海外客が増えた分は、日頃からリピートいただいている既存の国内のお客様が泊まれないといったケースも発生し得ると思います。

いずれにしてもインバウンドを含めた町内観光の振興には、高付加価値サービスの取り込み、広域連携としての他市町から観光客の取り込み、町域内周遊の活性化など、一つの視点ではなく、より幅広い視座から見た総合的な計画が必要となるでしょう。

地域の力を高めるために、青嶋さんが心がけていることは

個人的な心掛けは、業務以外でも地域の行事にできる限り参加することです。

私は神奈川県横浜市の出身で東伊豆町に暮らしてから6年目を迎えます。地域の方からは「ヨソから来た人」として見られる場面がまだまだ多いです。

この状況で事業者様を巻き込んでいきたいと自分が思っても、「知らない人が良くわからないことを提案してくる」という不信感を持たれますが、それは当たり前のことだと感じます。

そこで観光協会という業務の枠外での活動で、まず自分そのものを知ってもらおうと思いました。同じ地域で暮らす人間として信頼関係を築くことが、すべての第一歩だと思いました。

この町で生まれ育った人々の目線に近づくことを意識し、現在は消防団や、地区の祭り、民間主体のイベント団体など、でき得る限りで活動に参加しています。自分を知ってもらうことで、自分のシゴトにも興味や理解をしてもらう、ご協力いただくということを目指しています。

東伊豆町の特産品である「金目鯛」の被り物も顔を覚えてもらうきっかけとして始めました。素顔を覚えてもらえないこともありますが、「キンメくん」などと声をかけられ、話のネタにしていただけることが嬉しいです。


組織としての心がけは、メリットとデメリットを明確にした合意形成を行うことです。

観光協会事業が目指すべきところは、個社ではパワー不足で実現できない方策があるときに、それを組織の事業として取り組むことでスケールメリットを発生させ個別事業を巻き込みながら改善していくことです。

協会事業は、理事等の役員と方針を立て、各事業者に協力していただき、その流れを事務局で整えていくという形が多いです。そのため事業者との合意形成をする必要がありますが、複数事業者の意思をまとめることは簡単なことではありません。

全体をまとめるという観点は協会の運営方針にも関わっており、これまで慣習で観光協会という組織を維持する場面もありました。

しかし一方でこの町で新しく事業を始めるケースや、施設担当者が定期的に交代されるケースも少なくありません。また当町でも人手不足が重大な課題です。「商工会」や「旅館組合」など事業が関連する組織にまたがって所属する特定の事業者に負担がかかるなど、慣例的な事業の進行が難しくなってきました。

そこで私たち観光協会としても、事業者に対して「この事業はこういう利益が期待できる」「こういう考えで観光振興を進めている」と、活動の主旨やメリット、優先順位をしっかりと説明し、理解を得ることが何よりも大切になると思っています。

令和4年度からの地域一体型の高付加価値補助事業はまさに、地域計画をまとめ合意形成をするという組織運営の肝となる部分を引き出して組織体として成長させてもらえたという気がしています。

強力な結束を持つ組織こそ観光業が得意とする各産業への波及効果・経済的循環をうまく機能させることができ、最終的にお客様の満足度につながると信じています。

町全体が一体化した取り組みへと繋げていきたい。お客様に「この町にきてよかった」と思い出を残してもらいたい。

どなたにとっても東伊豆町で過ごす時間がよりよい時となることを願っております。



■一般社団法人 東伊豆町観光協会



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