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公務員と民間、双方のキャリアが武器。産学官連携のハブとしての挑戦

Vol.014 株式会社能生町観光物産センター 取締役本部長 清水靖博

「かにや横丁」で有名なマリンドリーム能生や、柵口温泉(ませぐちおんせん) 権現荘をベースに、地域の活性化に取り組んでいる株式会社能生町観光物産センターの清水靖博さん。

2021年には糸魚川市の観光協会副会長にも就任し、新潟県内全道の駅で行うキャンペーンなども企画しました。観光資源を活かした誘客や六次産業化の支援など、その活動は多岐にわたります。

これまでの具体的な取り組みや今後の展望などをお聞きしました。


地域の活性化を目指し、市職員から民間企業へ

最初に就職した旧能生町役場時代に一度、能生町観光物産センターに派遣されました。

ちょうどマリンドリーム能生が15周年を迎える期間にあたり、メモリアルイヤーを盛り上げるための仕掛けをいろいろ考えました。その時にメインイベントとして行った「豊漁大感謝祭」は、今も続く人気イベントの一つとなっています。

その後、能生町は糸魚川市と合併し、糸魚川市職員となった時にもう一度、能生町観光物産センターに派遣されました。3年間の予定でしたが、途中で市役所を辞め、正式に能生町観光物産センターの社員になりました。

市役所の仕事が嫌でやめたわけではないんです。ずっと続けたいという気持ちもありましたが、せっかく再び能生町観光物産センターで働くチャンスをもらったのであれば、企画した仕事を全うしたい。でも、その仕事は3年や5年では形になりません。

10年、20年とかけてやる仕事であり、周囲の人に協力してもらわなければ成し遂げられないことばかり。そこで、本気で取り組んでいるということを理解してもらい、協力していただくために、退路を断って取り組みたいと考えたのです。

地域づくりで「民」ができること、「官」ができることは限られています。さらに「学」が関わるのはもっと難しい。

ですが地域に雇用が生まれ、経済活動が活発になるためには、産学官の連携が必要です。そこをつなぐパイプ役になる人は絶対必要です。その役割が担えたらいいなと思い、仕事に取り組んでいます。


柵口温泉 権現荘の指定管理者になった経緯とは

権現荘のある柵口(ませぐち)地区は1986年に大規模な雪崩災害に遭いました。

そのまま放っておいたら廃れてしまう。そこで温泉を掘削し、町で施設を運営することで雇用を、食材の納入などで経済活動を復活させようと考え誕生したのが権現荘です。

限界集落に近い場所ではありますが、権現荘があるおかげで除雪車も朝早くに入り、バスも通り、道も広くなりました。権現荘は雪崩災害復興のシンボルであり、地域の人にとって重要な温泉施設なのです。

しかし合併後、市で運営するのは難しくなりました。柵口(ませぐち)地区が衰退してしまうのは、この地域にとってもいいことではないし、一番は地域の皆さんが施設の存続を強く願っている。

そこで、地域との「共存共栄」を企業理念とする当社が「海の拠点はマリンドリーム能生」、「山の拠点は柵口温泉権現荘」とすることで、地域の雇用を守り、地元仕入れを推進して地域活性化を目指すと共に、マリンドリーム能生直営の温泉宿として広くPRを行い、「海と山」双方の活性化を目標に掲げました。

加えて、新たな企業目標として市民の健康増進や住民福祉向上の一助となり得る企業活動を行うこと等を目標として指定管理者に手を挙げました。

山の中にある施設ではありますが、年間を通して一番人気は「カニ大満足プラン」です。一匹のカニで得られる経済効果は限られていますが、そこに調理というファクターを加えることによって、新たな雇用を生み出します。

さらに温泉、宿泊という付加価値をつけることで、一匹のカニで得られる経済効果を2倍にも3倍にもすることができるのです。

また宿泊施設があることによって、単なる休憩地ではなく目的地となり、より大きな経済効果を生み出すことができると思います。

温泉地情報発信サイトで行われた「温泉総選挙」では、2018年に審査員特別賞を。2019年にはスポーツレジャー部門で2位を獲得しました。温泉大賞で注目していただき、新潟県のアンケート調査でも満足度が高い宿泊施設としてランキング入りすることができました。

今後もゴルフやスキー、マリンレジャーなど、さまざまな業種と連携し、いろいろなことを仕掛けていきたいと思っています。


マリンドリーム能生が重点「道の駅」に選定されました

魚やカニの魅力だけでは広げられる分母は限られています。この地域はもともと海と山、世界ジオパークにも認定された特殊な地形など、すばらしい観光資源を有していますが、今まで環境の良さをあまりPRしてきませんでした。

今回、重点「道の駅」に選定されたことで、この地域にはもっともっと素晴らしい場所や資源がたくさんあるということを知ってもらうきっかけにしたいと考えています。

例えば、国道8号に沿って走る「久比岐自転車道」は、旧国鉄北陸本線の線路跡地を利用した自転車と歩行者の専用道路です。SLが走ったトンネルがそのまま残っていたり、日本海の美しい景色がすぐ目の前に広がります。この場所を知ってもらうきっかけになればと、5年前からイベントも始めました。

海沿いを走る自転車道は他にあるかもしれませんが、サイクリングというニーズに海産物も楽しめるという付加価値をつけることで、交流人口、関係人口を増やすことができました。さらにキャンプ場などを再整備し、地元への滞在時間を長くすることも今後の課題だと思っています。

今回のプランは、採択される2年前から企画づくりを進めてきたものなので、コロナ禍になった今、新たに検討しなければいけないことも出てきました。消費者ニーズも変わってきていますので、地域のいろいろな要望を聞きながら、RVパークやEV設備の拡充など、SDGsやユニバーサルデザインに配慮しながらもっと利用しやすい施設になるよう、できるところから整備を進めたいと思っています。


新潟県立海洋高等学校との連携にも積極的ですよね

新潟県立海洋高等学校では以前から積極的に商品開発など、いろいろな取り組みを行っていました。しかし、それを披露する場があまりなかったので、マリンドリーム能生で5年前から年に4回、海洋高校の生徒さんが発案、開発したものを売る高校生レストランを開催してきました。

そこでアンケートを取り、蓄積したデータを参考に新たな商品として開発したのが現在、販売されている人気の「ごっつぁんカレー」です。地元で採れたものを地元の人が加工して、地元で販売する、広い意味で六次産業化になっています。

地域内で関わる会社がいくつあってもいい、その中に高校生が入っていたら最高じゃないですか。産学連携も含めて、六次産業化のモデルケースを作りたくて活動を始めました。

また、2021年から文部科学省「マイスター・ハイスクール」事業の指定校となった海洋高校で産業実務家教員として食品科学コースで毎週授業を行っています。

これまで海洋高校で商品開発を行い、営業や宣伝、販売などは株式会社能水商店が行ってきました。開発から販売まで、実はこんな経費がかかっているということを高校生が知ることも大切です。

私の授業では経費の計算から発注、マーケティングまで実態に即した実習を行う予定です。

さらに、オリジナル商品の販売拠点が欲しいという要望に応え、2022年にマリンドリーム能生内に能水商店が運営する海洋高校のアンテナショップがオープンします。

今後はここでマーケティングデータを取り、商品ターゲットや営業方法などを研究する授業も行う予定です。私が関わることでちょっとでもいい影響が学生に与えられればいいなと思いながら、いろいろなことに取り組ませてもらっています。


初めて新潟県内の道の駅が団結したキャンペーンも行われます

コロナ禍で来場者数が減った道の駅に立ち寄ってもらうためには、一般道を通る車の台数を増やさなければなりません。そこで、「新潟県消費喚起需要拡大補助金」の支援をいただき今回、道の駅周遊スタンプラリーを企画しました。

これまで県内全域で連携した事業を展開することはなかったのですが、私が道の駅周遊キャンペーン実行委員長となり声がけを行い、県内41ある道の駅のうち、営業中の39駅の参加がかないました。

併せて、これを機に上中下越に駅長会、もしくは駅長交流会という組織の立ち上げを検討してもらいました。何かイベントをしたいとき、手軽に連携が取れれば販売促進につながると思います。

結果、下越ではすでに立ち上がり、上中越でも下越の例をお手本として2022年4月に駅長会を立ち上げることが決まりました。これで新潟県内の道の駅が点ではなく、面として意思統一を図った上で連携を取ることができるようになると思います。

ウィズコロナ、アフターコロナ時代になったときにも役立つ、仕掛けづくりができたのが、今回の一番の成果だと思います。いずれは県の駅長会を作るなど全国との連携も展開できればと考えています。


苦労話や乗り越えた課題があったら教えてください

なかなか難しいですね。たくさんあり過ぎて。

公務員時代は民間事業者の皆さんとの関わり方に大きな制限があって、深くお付き合いしていると公務員として不適格ということを言われてしまう、今は行政にも配慮しないと事業がなかなか進めることができない、産学官連携を常に意識して計画を立てなければならない、というジレンマの中に常に置かれているという、今も昔も解決できそうにもない課題と向き合っていることが一番大きな問題でしょうか。

他の事は良い環境と良い仲間に巡り合い、なんとなく大事に至らずに生きてきていますので、ありがたいと感じています。好きなように生かせてもらっていますが、一番の被害者であり理解者である家族には本当に感謝しています。


今後どのような活動や連携をしたいと考えていますか

まずは、新潟県の村上市から糸魚川市までの海岸線を結ぶ日本海夕日ラインを使ってなにかイベントをしたいですね。マリンドリーム能生も日本海夕日ステーションに指定されていますが看板があるだけです。

まずは夕日ラインを通って佐渡を周遊するキャンペーンなどを行い、それをきっかけに海岸線の利用促進する協議会を作ったりしたいです。ゆくゆくは新潟空港や富山のきときと空港、長野の松本空港まで含めた空港連携による周遊ルート開発なども考えていきたいです。

この考え方を進めるには私共だけでは目標を達成することは不可能です。なるべく早い段階で考えを聞いていただく機会を設けなければなりません。そのためには「官」との連携も重要になってきます。

これからは新潟県内だけでなく隣県を含めるなど、広域連携のレベルもどんどん広がっていくと思います。

広域連携が進んだ時に「糸魚川」が経過地として埋もれてしまわないように、地域及び施設等の活性化や魅力づくりなども並行して進めていかなければならないと考えています。

今まで少なかった関西圏からの誘客はもちろん、インバウンドが復活していれば一気に経済や人の動きが活発化するはずです。六次産業化もそうですが、当社が関わることで、地域経済にいい影響を与えられるよう、今から積極的に取り組んでいきたいと思っています。

■プロフィール
清水靖博(しみず やすひろ)
糸魚川市出身
株式会社能生町観光物産センター 取締役本部長
糸魚川市観光協会副会長 

糸魚川市(旧能生町)職員時代、2度の民間企業派遣を経験。地域活性化のためには産学官の連携が必要と感じ市役所を退職。株式会社能生町観光物産センターに入社。2021年、マイスター・ハイスクール事業の産業実務家教員として新潟県立海洋高等学校で教鞭を執る。

■会社情報
株式会社能生町観光物産センター
マリンドリーム能生 1989年オープン
柵口温泉(ませぐちおんせん) 権現荘 1988年に糸魚川市(旧能生町)市営としてオープン。2017年より株式会社能生町観光物産センターが指定管理者に。

※2022/01/26公開の記事を転載しています


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