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外国人観光客の受け入れに向けて、旅館ホテルが今から着手すべきこととは

前回の記事ではインバウンドがいつ回復するのか、どんな国からの来訪が期待できるかについて触れ、コロナ以前の2019年の水準に戻るのは2025年と予測しました。

今回の記事はその続編として、このインバウンドの回復に備えて旅館ホテルはどんな手立てを準備すべきかにスポットを当てました。

今回も、来日観光客に向けた情報を発信するメディアとして日本最大級の規模を誇る「tsunagu Japan」を運営する株式会社D2C X代表取締役の中西恭大さんにお話をお聞きしています。

★この記事のポイント★
このチャンスに確実な利益を得るためのプライシング計画と、十分な受け入れ体制の整備をセットで行いましょう。



1.まず考慮すべきは、利益確保を重視したプライシング計画

前回の記事では、円安は来日観光客の増加につながるという事実はみつからないが、ひとたび来日した観光客の消費額が拡大するという点では非常に大きな効果が期待できるというお話をしました。

これを受けて観光に関わる方々がもっとも重視すべきポイントは価格設定(プライシング)です。

たとえば、仮に日本への旅行予算として2,000ドルを用意している米国人の場合、1ドルが100円の相場であれば日本で消費できる金額は20万円ですが、それが1ドル=150円になれば30万円と観光消費額が10万円アップすることとなります。円安は来訪客の増加にこそつながらないものの、ひとたび来日した観光客が落とす金額を大きく増加させることに直結するわけです。

ですから、これから観光事業者の皆さんが考えるべきなのは、最も効果の高い価格設定によって最大の利益を確保することだと言えるでしょう。

もちろん価格設定には国内顧客とのバランスも慎重に考慮する必要がありますが、現在の日本の状況は、先のアメリカ人旅行者の心理からすると「すべての商品・サービスが30%OFF以上のバーゲンセール」になっているようなものです。

旅館ホテルの皆様には、この大きなビジネスチャンスを逃さないようぜひ適正なプライシングを検討していただければと思います。


2.価格設定のポイントは、利益と消費者心理とのバランス

多くの宿では旅行プランには、高額プラン・標準プラン・お手頃なプランといった価格レンジを設定していると思いますが、これを一律のパーセンテージでアップするのではなく、想定ターゲットに合わせて価格帯ごとに綿密な価格設定を行ったほうが良いと思います。

特に注目すべきは高額のプランで、このゾーンについてはこれまでにないほどの高いプライスを設定しても良いと思います。その理由のひとつが、先にお話した国内顧客とのバランスです。これまでリピートしてくださった大切なお客さまがご利用されるプランを突然値上げするのは、便乗値上げの誹りを受けかねないためCS向上の面からもあまり好ましくありません。

しかし、通常の価格帯に追加して高額の商品プランを設定・ご提供するのであれば、こうしたお客さまからの反感が出ることもありません。海外富裕層のお客さまからすれば、旅館ホテル側が少し躊躇するほどの高額なプライスを用意しても、このいわば円安バーゲンセールの中ではさほどの割高感にはつながらないと思われます。

実際に私どもでも、日本の伝統文化にまつわるある商品を海外向けに販売する際に、数千円の低価格帯商品、2万円前後の中価格帯商品、送料込みで7万以上という高価格帯商品という3段階のプライシングで販売展開をしたことがあります。

販売前は高価格帯の商品の売上にはあまり期待はしていなかったのですが、いざフタを開けてみるとこの高価格帯商品が総売上の20%以上を占めるという想定外の結果につながりました。

旅館ホテルにおいても、例えば露天風呂付きの特別客室とプラン限定の日本料理に、日本文化の体験企画などを組み合わせた富裕層向けの高価格帯商品を、外国人観光客向けとして新たに企画・開発することをお勧めします。

ここで肝心なのは、従来の価格帯の上に外国人観光客だけに向けた最上級のプランを設けること。これにより従来のお客様に不満を感じさせることなく、大きな売上と利益を獲得することができます。

旅館ホテルに限りませんが、値上げには必ずリスクが伴います。だからこそお客様に納得いただけるためにはどんな方法があるかを熟考することが肝心です。そして今、この円安の時期に迎えるインバウンドという局面は、アイディアしだいでその理由付けが行いやすい状況でもあります。

このタイミングを逃さないためにも、この機にぜひ新たな視点での商品開発と価格設定を練り上げてみてはいかがでしょうか。


3.販売戦略と、受け入れ体制の整備はセットで考える

インバウンド回復を目前に控えた今、ついついお客様をいかに獲得するかだけに目を向けがちですが、その一方で、獲得したお客様に対して商品価格に応じたサービスを提供することを考慮すれば、どのように受け入れ体制を整えるかも当然同じレベルで考える必要があります。そこで最大の焦点となるのが人手をどう確保するかです。

現状はコロナの影響で観光業から離れてしまった方も多く、加えて水際対策の影響によって働くために来日する方の数も大きく減るなど、人材の母集団が小さくなってしまっていますので、旅館ホテルが人材募集をかけても希望の人材を確保することはなかなか難しいのが現状です。

いわば人材獲得競争という様相を呈している中にあって求める人材を獲得するためには、給与レベルを他施設よりも高くせざるを得ませんし、加えて福利厚生の充実など職場環境のさらなる充実も併せて考える必要があります。

人材に関する経費負担はこれまで以上に増大してしまいますが、かといってスタッフが不足したまま海外観光客を受け入れてしまえばサービス品質は低下し、高額プランを利用した外国人観光客の満足度が上がらないどころかクレームの頻発につながったり、悪い口コミによって以降の販売に大きな影響を及ぼすことにもつながります。

現在の旅館ホテルが資金繰りや経営状況に苦しんでいることは重々承知しています。しかしそれでもこの先のために、この点はしっかり対処しておく必要があります。

大切なのは、お客様が入ってくるからスタッフの補充を考えるという流れではなく、予め需要と供給のバランスを想定しておくことです。

販売においてはプライスを上げて利益を確保する。同時に良い条件で外国人スタッフを雇用し、インバウンド客の満足度を上げる。プライシングとサービススタッフの施策は、ぜひセットで考え、また同時に整えることを前提にしましょう。


4.人手の不足分は、DXの積極的な活用によってカバー

こうした考えのもとに旅館ホテルが身を切る努力を重ねたとしても、理想的なスタッフ構成を実現させるのはなかなか難しいと思います。

そこで2つ目の対策として考えたいのがDXの活用です。

わかりやすいもので言うと「ポケトーク」のような翻訳ツールを導入すれば、様々な国のお客様に対して不自由なく会話ができる外国人スタッフの陣容を揃えなくとも、お客様に対して一定のコミュニケーションを図ることは可能です。また客室に多言語対応のタブレットを配備したり、お客様のスマホからQRコード経由で各国語の案内ページに誘導したりするなどの施策も比較的手軽に導入することができるはずです。

お客様からのお問い合わせの多くはある程度は内容を想定することができますので、こうしたベーシックな対応についてはできるだけ人の手を介さず、デジタルツールに任せてしまうのも今の旅館ホテルにとっては有用な一手。

肝心なのは、お客様が求めている情報について適切な案内ができるかどうかといいう点にありますから、その役目を担う人材が足りないのであれば、それをデジタルツールで補える工夫と体制づくりが必要になります。

この機にぜひ今一度、多様なデジタルツールの導入によって外国人観光客を受け入れるためのサービス拡充に取り組んではいかがでしょうか。

何年も待ち焦がれた大きなチャンスがようやく訪れた今、「人手が足りないから十分なサービスが提供できない」と目の前の課題をおざなりにするのではなく、「今できることは何か?」を前向きに考えて、スタッフ全体のオペレーション効率や各種ツール・システムの導入、運用コストなどを幅広く見渡しながら、サービスの品質を担保できる施策を総合的に考えていただければと思います。

▶今回参考にさせていただいた中西恭大さんのnoteはこちら
▶株式会社D2C X
▶tsunagu Japan 

※2022/11/09公開の記事を転載しています


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