「行田花手水」が市民の想いをひとつに!行田市が取り組む観光振興への挑戦
【今リポ!】今、伝えたい!最前線リポート Vol.009
これまで観光地として特に高い知名度を持っていなかったまち、埼玉県行田市。しかしこのまちが今、全国から観光地として静かな脚光を浴び始めています。
その象徴が、神社の手水鉢に色とりどりの季節の花々を浮かべた「行田花手水」。
今では行田市を代表する観光資源として注目されるこの取り組みを推進したひとりである行田市職員の吉松氏と、一般社団法人行田おもてなし観光局の富山氏にお話を伺いました。
1.観光地として知名度が低かった行田市の、観光による地域創生チャレンジ
行田市には、もともと埼玉県名の発祥となった埼玉古墳群や忍城など、観光資源そのものは多彩に揃っていました。しかしながら、これまでは観光地として特に高い知名度を持っていなかったというのが実情でした。
ところが、平成24年に忍城を舞台とした映画「のぼうの城」が話題となったのを皮切りに、平成27年には最大の田んぼアートとしてギネス世界記録に認定、さらにはテレビドラマ「陸王」の放映など、行田市の観光に関わるトピックスが次々と重なったことによって飛躍的に注目度が高まり、これを追い風として地域全体に「観光」を切り口とした地域振興への気運が巻き起こり、その活動も年々活発化していきます。
そんな背景の中で行田市が観光振興への具体策として最初に手がけたのが、地域DMOの立ち上げでした。
市の声がけによって設立された準備委員会を中心に、地元経済界や金融業界、伝統文化関係団体などの賛同・協力を得て、数年にわたる準備を重ねて設立された「一般社団法人 行田おもてなし観光局」は、令和4年3月には単独市町村単位での地域DMOとして埼玉県で初となる登録DMOにも登録されることとなりました。
2.市行政と地域DMOが両輪となって、地域の観光振興を牽引
「これまで別々の組織が運営していた物産館と観光案内所をDMOが一体的に引き継いだことで、首尾一貫した活動が展開できるようになった」と語るのは、行田おもてなし観光局の富山氏。
新たに設立された行田おもてなし観光局ではまず、リニューアルした物産館の売上げアップに全力を傾注することで、観光消費を拡大するための仕組みづくりをスタート。その話題性から大ヒット商品となったキャッチ―なネーミングの「行田の餃子」や「忍城の御城印帳」、「行田ガチャ」などに代表されるように、観光客が『あったらいいな』と思う商品をユニークな視点のもとで続々と企画・開発していきます。
これまで以上に明確な目的に向けて力を傾注することができるようになった結果、コロナ禍の最中にありながらも物産館の売上は前年のなんと5倍にも達し、その売上げを次なる観光開発の取り組みへと振り向けていくという好ループが形成されることとなります。
さらに行田おもてなし観光局ではこの自主財源を背景として、観光振興という同じ目的を共有する行田市との役割分担も確立。具体的には計画の立案や戦略、ハード整備などを市が担当し、一方の行田おもてなし観光局はその計画に沿ったプロモーションや旅行事業などの展開を担当することで、両者のタッグによる有機的な連携体制が成り立つこととなりました。
3.行田市の知名度を全国に広めた「行田花手水」
行田市の観光振興のシンボリックな取り組みとして、全国的に知られるようになったのが「行田花手水」です。
コロナでの自粛が続く中で、地元の行田八幡神社による参拝者へのおもてなしとしてスタートしたのが、手水鉢を季節の花々で美しく飾るこの「行田花手水」の取り組み。SNSなどを通してその美しさや豊かな風情が静かな話題として注目されるにつれて、「行田花手水」を目的として行田市を訪れる観光客も着実に増えてきていました。
このムーブメントにいち早く注目した行田市では、この取り組みを行田市全体の催しへと拡大しようと、神社を始めとする地域の方々に精力的に働きかけます。
その結果、行田八幡神社と前玉神社を中心に、80を超える周辺店舗や民家などが参画し、それぞれ工夫を凝らした行田花手水が地域景観を美しく彩る規模へと成長し、定期的に開催される『行田花手水week』も市内周遊の一大イベントとして定着するに至っています。
この取り組みが成功した理由は、地域の方々が自主的に参加してくれたことにある、と行田市職員の吉松氏。
吉松氏ら職員は、行田八幡神社周辺の店舗や住民の皆さんからの賛同を得るべく東奔西走し、多くの方々から「自分たちの地域ににぎわいをもたらすために」との自発的かつ積極的な参加を得て、今日の「行田花手水」へ成長させてきました。
「行政の動きだけでは、ここまで広がることはなかったでしょう。行田花手水がここまでの催しとなったのは、地域の皆さんそれぞれの想いが一つになったことが最大の理由です」
4.観光振興の取り組みを通して得た、大切な気づき
そんな吉松氏はこれまでの歩みを振り返って「地域振興を成功させるには、いかに地域の方々を巻き込むかがいちばんのカギ。そのためには何かある時にだけ協力を仰ぐのではなく、ふだんから市と住民の皆さんが良好なコミュニケーションを取れていることが何よりも重要だと実感しました」と、行政と住民が良好な関係性を築くことの大切さを語ります。
いたずらにお金をかけるのではなく、市で用意した水鉢を使って、参画者それぞれが独自の工夫を凝らしているのが行田花手水の最大の特徴。その結果、周辺にはさまざまな彩りとバリエーションが生まれ、観光客はその多彩な魅力を楽しみながら街中を回遊してくれるようになっています。
「予算は限られているので、参画する皆さんに主旨をしっかりと理解・共感していただき、お金をかけずとも継続できるようなスキームを作ることが大切なんです」と吉松氏。
その結果、参画している住民の方にとっても「地域が明るくなって賑わいが増した」とその効果がはっきりと目に見え、それがさらに企画の浸透力・推進力を向上させていくという好循環が生まれました。
また行田おもてなし観光局の富山氏は、「コロナ禍の中で団体型旅行に対する助成を実施した結果、旅行会社から多くの送客をいただいたことが行田市の観光振興を大きく後押ししました。
観光客の来訪が急拡大したことはもちろんですが、それ以上に、これまで観光地としての認識が低かった旅行業関係者の中での行田市の認知度が高まったことは中長期的に非常に大きな効果があります」と言います。
『一つの成功体験が、周囲を動かしていく』。その経過を目の当たりにすることができたことが、富山氏にとっての最大の成果だと語ってくれました。
ここ数年のコロナの影響下にあって、各地域にもなかなか良いニュースが見られない中、市民からも「またメディアで紹介されたね!」「まちが活気づいてきたね!」などの嬉しい評価が続出。観光振興から地域振興へとつながる確かな道筋が確立されてきています。
行田市の観光の財産である「行田花手水」を、これからも規模の大小ではなく、いかに長きに渡って大切に継続していけるかが自分たちの役割だと語る吉松、富山の両氏。
市とDMO、そして何よりも地域住民が一体となることで築き上げられた、まさに宝石のような催し「行田花手水」。この全国的にも希有な地域ぐるみの取り組みによって、さらに多くの方に知られる「花手水の聖地」へと育っていってほしいと願います。
※2022/06/22公開の記事を転載しています
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