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ニッポンの「安い国化」を思う。|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム022

スポーツの祭典が終わった。開催の是非などについては様々な意見があると思うし、尋常ではないご苦労をされた方も多いことは理解をしているつもりであるが、行動を厳しく制限され、かつ酷暑の中で、精一杯のパフォーマンスを見せてくれたアスリートの皆さんに対しては、特別な敬意を表するべきだと思っている。

期間中、繰り広げられた静かな熱戦の様子や予想を上回るメダル獲得などがメディアを賑わせ、それはそれでひと通りチェックはしていたが、私が個人的に「おもしろいなー」と思って見ていたのは、各国から来日した記者やアスリートが、自身のSNS上で発信する、ちょっとしたつぶやきだった。

アスリートたちは選手村様子や食事のメニュー、自動交通、ボランティアや関係者の献身的な働きぶりなど、一般のメディアでは知り得ないリアルな様子を発信してくれた。

いっぽう、各国の記者の多くは日本のコンビニの充実ぶりに惹かれたようで、我々にとってはごく普通に接している商品を手にして「これはアメージングだ!」とコメントをしたりしているのがなんだか可笑しくて、ついつい見入ってしまった。

記者が公式に打電(死語か?)したニュース原稿ではなく、あくまでも私的なアカウントでつぶやいたことが、日本のメディアで取り上げられ、拡散されていったことに、SNSというメディアのチカラを改めて感じ入った次第である。

その記者の多くが、いつ行っても商品がたくさんあるコンビニの品揃え、食品のクオリティの高さ、そして低価格に強い印象を持ったようである。

「そうだろー。ニッポンのコンビニはすごいんだぞー」と、ちょっと誇らし気に感じた反面、この「低価格」が心にひっかかった。

以前から、個人的に、この「低価格」にちょっとした違和感を持っていたからだ。日本では庶民的な飲食店でも、おしぼりやお水が無料で、オーダーミスも滅多になく、チップも無い。

「ワンコイン(500円)ランチ」などもざらにある。他人事ながら「これで採算合うのかな」などと余計な心配をしてしまう。

もちろん、ひとりの消費者としては、安いに越したことは無いし、低価格を実現するための努力は並々ならぬことがあるということもわかっているが、本当にそのような努力や忍耐が、正しい方向に向かうための推進力になっているのだろうか?とふと思ってしまう。

違和感のきっかけは、コロナ騒動直前に、お気に入りのアジアのリゾート地に出かけた時のことだ。毎年、行くたびに物価が上がっていくな、とは感じていた。

ちょっと前までは、日本円で1千円程度の小銭がポケットにあれば、目に付いたワルン(食堂)にふらっと入って、二人で昼食を食べて、ビールを飲んでお釣りがきたものだ。

しかし、今ではそうはいかない。ビーチのお土産売りのおばちゃんたちも、ずいぶん強気になった。初めて訪れた30数年前を思うと、隔世の感である。

ちょっと気になったので、帰国後に調べてみると、その土地の月額の最低賃金は、この20年間で約3倍になっていた。そういうことだよね、と思う。

対して、東京都の最低賃金(1時間あたり)は、同じ20年間で20数パーセントしか伸びていない。東京ですらこうなのだから、多くのリゾート施設がある国内のローカルエリアの状況は推して知るべし、である。

他にも、日本の平均賃金はG7(主要先進国)中で最下位だとか、日本のビッグマック指数が世界25位だとか、低成長を物語るような数字がたくさんネット上に並んでいた。

ついでに、予約サイト「トリバゴ」に表示されている世界の主要都市のホテルの平均価格を見てみると、東京は1万円強で、かろうじて台北より若干高いレベル。ニューヨークは東京の約4倍。ロンドンやパリは2.5倍の値段が付いている。

こういう数字を眺めていると、やれやれ、本当に日本は「安い国」になってしまったのかと、しょぼくれた気持ちになる。この「安いのは嬉しいけど、ちょっと寂しい。でも正しい解決策はわからない。」という自分自身の優柔不断な態度が、モヤモヤした違和感の源である。

さて。諸物価の値上がりが激しい先のリゾート地であるが、コロナ禍が終息したら、必ずまた行くと決めている。

少しくらい値が張ろうとも、日本国内では味わうことができない特別な時間を過ごすことができるからだ。せっせと小遣いを貯めて、去年、今年は行けなかった分、パーっと思い切って散財して、うっぷんを晴らしてやろうと夢見ている今日この頃である。

※2021/09/30公開の記事を転載しています


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