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デジタル・デトックス考|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム038

◯旅館ホテル・観光にかかわる、老若男女様々なプランナーによるリレーコラムです。

ある休日、電車に乗った。アフターコロナが日常化し、向かい合わせの客席はほぼすべて人で埋まっている。見た所、目を開けている人のざっと6~7割くらいがスマホを見ている。目を閉じている人の中にもおそらくスマホで音楽を聴いているだろうと思われる人もいる。そう、現代の人々にとってスマホは休日にも欠かせないガジェットとなっているのだ。

通話やメールといった通信機能から、SNSの広まりによる発信機能、動画や音楽再生などのソフト共有、オンラインゲーム機能などの機能性拡張に伴いアプリもどんどん増え、今や年代や職業など、人によってその使い方も千差万別に進化している。それだけにスマホへの依存度も高くなっており、常にスマホを手にして何か操作を行っていないと精神的な不安を感じる「スマートフォン依存症」の相談が医療機関で増えているらしい。

一つ興味深い調査結果がある。世界的に有名な時計メーカーのSEIKOが毎年実施しているもので、1日の時間についてどう考えているかを定点観察している調査である。その名も『時間白書』と名付けられたこの定点観測の2022年版によると、新しい生活様式の広まりにより日々「時間に追われている」と感じている人は数年前に比べてやや減少している。しかし対象をこと「リモートワーカー」に限ると、何と実に73%もの人々が「時間に追われている」と回答しており平均を大きく上回る結果となっている。
*出典:SEIKO『セイコー時間白書2020』(2020年4月28日~4月29日実施・インターネット調査)

そんなデジタル時代のリモートワーカーを中心に今、『デジタル・デトックス』なるワードや考え方が広まってきている。

かく言う自分自身も手帳タイプのスケジュール帳からスマホとPCを連動したスケジュールアプリでの行動管理が日常となり、またプランニングもいまだに手書きのノートは手離せないものの、ちょっとした時間にアイディアを書き込むのはスマホのメモ機能だったりと、知らず知らずのうちに単なるコミュニケーションのためのガジェットから日々手離せないデジタルツールとして日夜スマホにお世話になっており、今や日々の生活に欠かせないものになっている。

そんな言わばデジタルにどっぷりと毒されたような状況から、半ば強制的にデジタル抜きをする人たちに向けた「デジタル・デトックス」という新しいサービスが一部で人気を呼んでいるという。

既に著名なホテルチェーンではチェックインの際にスマホやノートPCなどのデジタルツールをフロントで預かる宿泊プランもスタートしており、そうしたデジタル漬けの人々を中心に人気となっているらしい。都心など電波状況が良い立地にありながらあえて電波を通じにくくした客室を設けるホテルもあると言う。

一般的にその立地ゆえ電波状況が良くないといったクレームを受けることもあるリゾートのホテル旅館にとってはある意味羨ましくも思えるが、そこは逆もまた真なり。あえてそうしたデジタル通信性の不便さを売りに転じることも考えられない訳ではない。

時代は右に習えから、際限ない多様化の時代へと急速に変化している。こうした時代の中で最も良くないことが中途半端。本来自然豊かなリゾート地の宿泊は、心身をリラックスさせ、しっかり休息させ、自分を取り戻すためにこそある。

リゾート立地にありながらワーケーションなどビジネス利用も狙うのであれば、単にワークスペースを設けるのみならず、しっかりと通信容量を確保したWi-Fi環境の整備もきちんと行っていく必要がある。

一方でこの際一切ビジネスやデジタルコミュニケーションはお休みしてもらい、その分四季折々の自然環境に触れたり、何度も温泉に浸かって心身ともにリラックスしたり、緑や水辺をウォーキングするなど、身体を使うことに時間を割いてもらう過ごし方をしっかりと商品化し販売していくことも十分現代では市場性に満ちた戦略と言える。

カラダだけのデトックスから心も含めたデトックスへ。そのためにスマホやノートPCを封印し、分からない、調べたいことがあれば直接誰かに質問してみる、そんな旅もまた今の人々には新しい魅力なのかもしれない。

元々旅の楽しみは、そんな日常生活では経験できないことや会話から、知らなかったことを知り、やったことがないことを体験する、そういった類いのものだったはず。行き過ぎた物事は必ず元に戻ろうとする。

デジタル・デトックスもあながち一時の流行とは言えない広がりを見せる可能性を秘めているように思えてならない。

※2023/02/21公開の記事を転載しています


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