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Afterコロナを見据えた伊豆半島のインバウンド対策|台湾準富裕層へ積極アプローチ展開「美しい伊豆創造センター」

【今リポ!】今、伝えたい!最前線リポート Vol.007

2年という長期にわたって観光業界に大きな影響を与えた新型コロナウイルス。その終息にようやく曙光が差し始め、海外観光客の来日回復も目前となった今、どのように実効性のあるインバウンド対策を行うかが喫緊の課題としてクローズアップされてきています。

国内外のJTBでの長年にわたる業務を通して蓄積した豊富な知見をもとに、コロナ後の伊豆のインバウンド施策を推進する(一社)美しい伊豆創造センター常務理事の林田充さんにお話を伺いました。



1.地域連携DMO美しい伊豆創造センターのインバウンド視点

-林田さんは美しい伊豆創造センターでどのような活動をご担当されているのでしょうか?

(一社)美しい伊豆創造センター(以下美伊豆)は、静岡県沼津市、熱海市、三島市、伊東市、下田市、伊豆市、伊豆の国市、東伊豆町、河津町、南伊豆町、松崎町、西伊豆町、函南町の7市6町をエリアとして2015年4月に設立された地域連携DMOで、その活動テーマとして「称賛され続ける世界一美しい半島へ」を掲げています。

私は2021年4月1日からこの美伊豆に着任したのですが、株式会社JTBで伊豆・静岡エリア、その後台湾に居住・担当していたという経歴をいかして、現在は主にインバウンド対策とマーケティング戦略の立案を中心に取り組んでいます。

-今回のコロナについてはどのように捉え、またどんな対応をされていますか?

私としては今回のコロナをマイナスに捉えるのではなく、伊豆のインバウンド対策を整えるための貴重な時間をもらったという意味でプラスに捉えるよう考えています。

インバウンドというと、どうしても大きなイベントやキャンペーンなどに注目しがちなのですが、本来のインバウンド対策とは、まず地域の魅力をしっかりと掘り起こした上で、それぞれの国や地域の方々が真に欲しいと思っている情報を厳選して適切に発信することが重要なポイントです。

さらにその一方で、海外からお越しになられるお客様をそれぞれのお国柄や文化背景、諸事情などを十分に理解して、きちんとお迎えできる受け皿を整えることも大切です。こうしてインバウンドへの理解をより深め、また受け皿を整備していくためには長期的な活動が不可欠です。

その意味でも来日観光客の足が止まったこの時期。空白となった時間を嘆くのではなく、むしろ貴重な時間の猶予をもらったと思っているわけです。その時間をもらった分、アフターコロナで来日客が回復した時には、伊豆が全国の先陣を切っていち早く本格稼働できるようにと今さまざまな準備を行っているところです。 


2.台湾準富裕層というマーケットの可能性

-美しい伊豆創造センターでは、インバウンドの主要ターゲットとして台湾を挙げていますか?

私たちのインバウンド対策としては東アジアと欧米豪を主要ターゲットとしているのですが、中でも特に注目しているのが台湾です。

来日観光客の数は中国がトップ、2位が韓国、3位が台湾、4位がタイと続いていますが、近年の動向を見ると台湾から伊豆への来日客数が特に急伸しています。

そんな台湾を日本では多くの方が中国と同じように捉えているのですが、簡体字・繁体字という使う文字の違いだけでなく、言葉そのものの違い、特に歴史的背景や文化は大きく異なっています。

さらに、台湾の方は中国人と混同して扱われることをとても忌避する傾向にありますから、日本を訪問した時に簡体字の表記で案内されたり、「早上好(ザオシャンハオ・おはよう)」と声をかけられたりすると、「私たちは中国人ではないのに…」と実は落胆しているんです。

「おはよう」は繁体中国語では「早安(ザオアン)」、台湾語では「賢早(ガウツァー)」といいますが、日本ではほとんど知られていません。
実際に台湾の方に評価の高い国内の旅館ホテルでは、台湾人のスタッフが台湾語できめ細かな対応・接遇をしており、これが好評価を得る最大の理由となっています。

-台湾準富裕層を主要ターゲットとした伊豆プレミアムミニツアーを開発・実施されていますが

また、台湾の方は他国の方に比べて日本をよく知っているヘビーリピーターが多いというのも大きな特徴です。つまり有名な観光地にはすでに目新しさを感じることがなく、むしろ台湾ではまだあまり知られていない「いいスポット」「いい体験」を求めています。

そこで私たちが開発しているのが、すでに台湾の多くの方に知られている伊豆の中から、まだ誰も知らない魅力を発掘し、それを知ってもらうために地元ガイドがご案内する伊豆プレミアムミニツアーです。

あまり知られていない魅力あるスポットというのは、ジオスポットを筆頭に多くが大型の観光バスでは入れない場所です。そこで台湾の政財界のトップクラスの4名の方をご招待し、ガイドが同乗する高級ワゴン車を使い、知名度は低くとも魅力のあるスポットの数々を巡り、新たな伊豆の良さを改めて体感していただく予定です。

こうしたマイクロツーリズム型のツアーで伊豆の新鮮な魅力を発見していただき、また社会的に大きな影響力を持つ方々から台湾のマーケットに広く発信していただくことは、これからの伊豆のインバウンドにとっても大きな力になると考えています。


3.効果のあるインバウンド対策を行うために

-インバウンドで成果を挙げるには、地域の受け入れ体制もポイントになると思いますが

そうですね。先にもふれた通りインバウンド対策とは単にイベントやキャンペーンなどの大きな花火を打ち上げればいいというものではありません。

ターゲットとなる国で販促イベントや観光展を行ったり、また大々的にツアーを誘致することはもちろん大切なんですが、それと同時にそれぞれの国の文化や実情、ニーズなどを地域の方々がしっかりと認識し、きめ細かく対応することの重要性は忘れられがちです。

受け入れの土壌を創り上げること。そしてターゲットのニーズに合わせた具体的な商品を企画開発すること。その商品を販売していくこと。その3つを並行して実施推進することで初めて、効果のあるインバウンド施策が成り立つのだと思います。

-相手国からのユーザ視点も大切にしながら、地域の良さを発信・浸透させていくわけですね?
はい。例えば私たちは自分の視点だけで「来日促進」を考えがちですが、インバウンドを成功させるためには、相手国の事情を考慮して両国ともにWIN-WINの関係を作ることが大切です。

私たちが海外からの観光客を欲しているのと同じように、相手国も日本からの観光客を増やしたいと考えている点を見落としてはいけません。

コロナ禍以前の2019年、人口2350万人の台湾から490万人、国民の20%以上の方に来日いただきました。一方、人口1.25億の日本から台湾へも過去最大の訪台実績がありましたが、200万人と国民の1.6%に過ぎません。

理想的には台湾から来日される方が増えるのと同時に、日本から台湾を訪れる方も増えていけば、今よりもっと相互の交流が盛んになるはずです。互いの行き来が盛んになれば、私たちの受け入れ環境も自然により充実していくでしょう。

ただしこれにはじっくりと時間をかけて、草の根的な土壌形成の活動を継続していくことが必要です。

私たち美伊豆では、地域13市町の職員の皆さんと話し合いを繰り返しながらインバウンドに対する認識を深め、また旅館ホテルや観光事業者などそれぞれの現場の皆さまに具体的なアクションを起こしていただけるように、多方面にわたって地道な活動を日々展開しています。

コロナ終息後は必ず来日観光客が回復するはずですが、海外からのお客様を「来日観光客」と乱暴にひと括りで捉えるのではなく、各国各地域からのお客様をそれぞれのニーズに合わせてきちんともてなし、伊豆の本当の素晴らしさを感じていただくことで「また来たい」と感じていただく。

それこそがこれからの伊豆のグローバルな視点での観光振興につながっていくのだと思っています。


■プロフィール
林田 充(はやしだ みつる)
(一社)美しい伊豆創造センター 常務理事
株式会社JTBで沼津支店長、静岡支店長、世帝喜旅行社股份有限公司董事長(JTB台湾社長)、JTBGMT営業担当部長などを歴任。
2021年4月1日より一般社団法人美しい伊豆創造センターに着任し、海外観光客に対する豊富な知見をもとに伊豆のインバウンド対策を牽引している。

※2021/12/28公開の記事を転載しています


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