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コロナ禍でも「観光業と地域の自然・産業」との共存共栄を目指す。ホテルニューアワジグループの挑戦とは

Vol.010 株式会社ホテルニューアワジ 代表取締役社長 木下学

創業1953年。1軒の旅館からスタートし、現在、17のホテル、旅館や高齢者向け介護施設、発電事業を行なうホテルニューアワジグループ。

グループには2011年に買収した大型ホテル「神戸ベイシェラトン ホテル&タワーズ」も。従業員総数1,650名。この総合力で新たな観光ムーブメントを創り、地域の活性化にも大いに貢献。

コロナ禍で厳しい経営環境にあっても、人材を活用し、豊かな自然や地域の産業を結びつけた新しいリゾートライフを提案する木下社長にその一端を語っていただきました。


観光を通じて、持続可能な地域の暮らし・経済を支えていきたい

ー今年も多数の人材を採用なさったそうですが、何名を?

今年の採用は200名ですね。

ー多いですね。多数の雇用を守り、事業を継続されているわけですが、コロナ禍の現状をどのように捉えておられるのでしょうか。

現在16の事業所がありますので、全世界的なパンデミックといわれる新型コロナ問題への対応は決して簡単ではなかったですね。

1軒2軒であれば、我々経営者が総支配人のような役割を果たし、ダウンサイジング経営というか、ムラをなくしてムダを省いて、変動費だけではなくて固定費も変動費化するようなことにいろいろ取り組んで、一生懸命やれば何とかなると思いますが、施設が増え、今までと同じ考え方では対応できないため非常に難しい環境ではありました。

ーその厳しい環境をどう乗り越えてこられたのか。どんなお考えで取り組んでおられるのですか。

基本的にはお客様に寄り添った最上のサービス、というところに出来るだけこだわる。それを徹底することです。

具体的な問題への対応としては、例えば人件費の問題については、同じフォーメーションでは解決できないので、フォーメーションを変えていくなかで、人材の効率化を図ることによって進めていこうと各支配人と話し合い、まずは各館で取り組みました。

次に、地域によって、ホテルによって回復の度合いが全然違いますので、回復の早いところに人材を集中させる、労働の再分配ということを行いました。

そして、ホテルニューアワジグループ全体を一つと捉え、
例えば、神戸・京都など回復が遅い都市部での余剰人員を淡路島に集めるという対応をしました。

回復が早かった淡路島においては、「Go To トラベル」をはじめキャンペーンに国費が投入されているわけですから、予約を止めることは出来ないと考えて、そういう対応をしました。

ーなるほど、地域格差を逆手に取って対応されたわけですね。

ええ。でも昨年の10月11月には、神戸や京都も忙しくなってきましたので、このままいくと、予約を取りきれないという事態になりました。というのは、それまでにダウンサイジングをして、外注していたものを一部内製化したりもしていましたので。

そのため、都市部のホテルにアプローチをして外部出向を受けるようにしました。

具体的にはバス会社の方や、空港の地上係員さん、ほかのホテルの方々などです。4月以降には、大阪、東京の大手ホテルからも来ていただけるようになって、回復期にしっかりとお客様の受け入れができる体制を整えることが出来ました。

生意気ですが、まだ大阪・東京で十分な仕事が出来ない方々に、仕事の場を提供できればいいのではないかと思ったのですが、逆に外部出向の方たちから、私どもの社員がよい刺激を受けています。

やはり職種が違うと文化も違いますし、我々とは異なるサービス文化に触れることで、これからも面白い化学反応が起きればいいなと思っています。

ーしかし、淡路島も大変だったのでは?

去年4月5月に全国的に前年8割減というようなことが各地で起こって、淡路島も同じでした。淡路島では、数年前から「3年とらふぐ」のブランド力が非常に上がってきて、冬の集客の源になっていました。

「春も何か」と、「淡路島サクラマス」という極上のマスを開発していたのですが、そのサクラマスの出荷時期が4月、5月だったので大変なことになりました。このままいくと出荷ができない、場合によっては処分しないといけない。

生産者の方々と私たち観光業者は力を合わせて、地域の活性化を図っているわけですから、当然、私たちに出来ることは何でもしなければならない。それで、冷凍することでサクラマスの新鮮さを保ち、グループのホテルでの夕食はもちろん、朝食でもお出しするようにしました。

淡路島以外の地域のホテルでもご提供し、お客様にも喜んでいただき、すべてのサクラマスを無事に出荷することが出来ました。

冬も同じで、「3年トラフグ」の時期に緊急事態宣言になりましたので、今年は春も売ろうと。春にサクラマスとフグの両方が食べられる、何十年に1回の特別な年ですという切り口で、打ち出しています。とにかく、観光を通じて地域を元気にしていかなければならないという意識はすごく高まった1年だったように思います。

ー阪神淡路大震災をご経験なさって、そのときの教訓がコロナ禍でも生かされているのではないかと思うのですが。

それは本当にその通りです。当時、私自身はまだ大阪に勤めに出ていたのですが、震災後の混乱の中できっちりとその状況に合わせた経営が出来たことで、いろいろなチャンスが巡ってきて、ご縁をいただいて現在の17施設になったわけです。

私の母親は「阪神淡路大震災の時は、少しずつでもよくなっていくのが見えていたけれど、今回のコロナはよくなるのか、悪くなるのかわからないから非常に気持ちが悪い、不安だ」と言っています。

でも、今回も阪神淡路大震災の時と同様、日時決算をしっかりとやりながら、「もうちょっとこうしたらどうだろうか」「このパターンではもうこれが限界のようだから、パターンを変えてみよう」みたいなことで、試行錯誤しながらしっかりと取り組みました。

結果、致命的なダメージを残さずに2021年に入れたということが次に対する投資など、準備に気持ちを切り替えることが出来た要因だと思っています。

ー21年の課題というかテーマは?

そうですね。やっぱり、今までやってきたことやこれからやっていくことも含めて、今、世界中が一つの指針にしているSDGsの考えに沿ったことを、更に意識してやっていかないといけないと思っています。

私たちがこれまでもやってきたことですが、観光を通じて、持続可能な地域の暮らしというか地域経済をしっかりと支えていかなければならないと思います。

ーコロナによって、地域への意識が非常に高まったということですが、淡路島の発展ということでは?

淡路島は一時期、大阪・神戸から近過ぎるみたいなことを言われたことがありましたけれども、今になってみると、この近さということが非常にメリットであって、海峡を1つ渡れば、別世界が広がっていて、いろいろな自然体験、癒しの体験が出来る。

そこが、コロナでさらにクローズアップされましたので、私たちは淡路島の自然であったり、食材であったり、すべてを生かした観光に力を入れ、結果、地域の生産者をはじめさまざまな方によい影響を及ぼして、喜んでいただけるような、そういったことをやっていきたいと思います。

ーコロナから立ち直っていくのに参考にさせていただけると思うのですが、神戸ベイシェラトン ホテル&タワーズの経営を引き継いで、非常に厳しい中で、どんどんステップアップされていかれた戦略、考え方を教えて下さい。何を一番大切にされていたのでしょうか?

うーん、日本のシェラトンをつくろうということでしょうね。シェラトンは全世界に500いくつかあって、どのホテルに行っても「安心のもてなし」というのは当然なのですが、でもやっぱり地域らしさということも絶対に必要です。

日本らしいシェラトン、そういうものはチェーンの上部組織からとくに指令がきていたわけでもないのですが、これは私の考えとして、日本らしい、神戸らしい、私たちらしいシェラトンをつくろうというようなことにこだわりました。

その象徴的なものが温泉であって、入浴施設をつくったことが1つ。それと料理においても、中国料理だからフランス料理だからと言って、中国やフランスから高級な食材を輸入して、それを食べてもらうというのではなく、地域の食材、兵庫県のここから何マイルというような近郊の魅力ある食材を、中国料理・フランス料理のプロの技術で、よりおいしく食べてもらうということを意識してやってきました。

それが、中国料理やフランス料理の流れ、トレンドになってきているのではないかと思いますね。

ー日本の、というか地域の食材を使うということですね。

ええ。「ローカルの魅力を磨き、世界をもてなす」というキャッチフレーズを自分たちで作ったのですが、それを大事にしたいなと思います。


心の奥底で求められていながら提供されていないものを見つけたい

ーワクチン接種も始まっていますが、コロナがこのまま収束するとは思えない中で、今後の展望は?

冷静に考えると、そんなに悲観的に捉えなくてもいいのではと私は思っています。ただし、今年いっぱいは一定の我慢をしながらやるしかない、と思います。現在の第4波がなるべく大きくならないように、みんなで感染防止をしっかりやる。

コロナに関して、もう1つ思うことは、コロナ以前に「これからの時代、こうなるぞ」と言われていたことが加速したということです。それに対応しなかったら、もう生き残れないという気がします。

これまで、健康、清潔・安全・安心が1番大切なのに、それらを2番3番にして、「こうやったら売れる」ということばかり考える風潮があったと思います。今後は、健康ということを真正面から見据え、商売の一つの軸にしていかなければならないと考えています。

また、料理についても「コラーゲンで肌がプルプルに」というような決まり文句ばかりではなく、一つの食材について、「これは地のモノで、この土地の環境がこうだから、おいしいのです」と説明が出来て、「それをこんな風に調理をすることで、よりおいしくなっています。

しかも健康にもいいのです」というようなことをしっかりと語れるようになればいいなと思っています。サービスするほうはもちろん、調理をする者にもそういう意識をもってほしいです。

ー新しい観光のあり方を考えておられるそうですね。

ウォーキングやランニングを日課にされている方も多いと思いますが、旅先で、普段見ない景色や建物、その地域ならではの歴史を感じながら、歩いたり走ったりするようなことも旅の目的の1つにこれからなってくると思います。そのようなニーズにもこれからしっかり対応したいですね。

特に淡路島は自然のあふれるところなので、その自然を生かして、今はまだどこにもないようなサービスを考えています。

昨今、流行りのグランピング、グラマラスなキャンピングということだそうですが、アウトドアを楽しむのがドームテントだけではつまらないと思うんですね。もっと、グラマラスなことを、山で、海で出来ればいいと思います。

当館は海辺で、ホテルに隣接した桟橋もあるので、そこで泊まることで、安全の担保も出来ますし、子供さんにも特別な海の上での1日を経験してもらうことが出来ます。そういうことが提供できれば、多くの方に喜んでいただけるのではないかと思っています。

ー社長ご自身の夢として、例えば海外へ進出といったお考えは?

そういう野望みたいなものはあまりないんです。ただ今まで、目の届く範囲ということで、近畿圏、西日本で展開していましたが、これだけリモートワークといったようなものが進んでくる中で、「目が届かないから」ということを理由に、地域を絞る必要があるのかどうかということを検討ぐらいはしたいなと思います。

ただ、私は常に、人々の心の奥底で求められていながら提供されていないサービスを見つけていきたいと思っているんです。見つかったらすごく面白いし、そういうものを何年かに1回でもいいから見つけて、具体化できれば。そういうのが夢ですね。

ー先ほどの海を感じながら過ごす、みたいな?

そうですね。桟橋だけではなくて、海に船を浮かべて、そこに泊まるということも考えて、これは1隻だけですが、準備を始めています。

プライベートで船を楽しむというと、ブルジョワの方々のお遊びというイメージがありますが、私が思うのは、例えば、年配のご夫婦が、海の上で波の微妙な揺れを感じたり、マストに当たる風の音を聞いたり、自然と溶け込みながら滞在をするというようなことです。もちろん、お子様連れにも楽しんでいただけると思います。

今、「アドベンチャーツーリズム」という言葉がありますが、アドベンチャーというのは、激しいアクションのことだけではなくて、全身で自然を感じたり、知的好奇心を満たすということも含まれ、海の上で過ごすというのは、それだけでアドベンチャーツーリズムだと思います。

今回準備するのは1隻ですが、2隻、3隻と並べて、「今度はアレがいい」と選んでいただければ楽しいですよね。もちろん、船ですので、落水の危険や悪天候時のことなど、安全性の担保には細心の注意を払う必要があります。

考えないといけないことはたくさんありますが、挑戦してみたいなと思っています。多分、求められているけれど、まだどこにもないものです。

【プロフィール】
木下 学(きのした まなぶ)
大学卒業後、株式会社ロイヤルホテルに就職。
7年後の1998年に株式会社ホテルニューアワジに入社。
専務時代よりホテル、旅館の買収をはじめ新築、増改築で
拡大を図るとともに社員育成や地元貢献にも力を注ぐ。
2015年に代表取締役社長に就任。

【会社情報】
株式会社ホテルニューアワジ
創業 1953年
従業員数 1,650名
事業内容 ホテル・旅館経営、太陽光発電事業、風力発電事業、有料老人施設経営
公式サイト 

※2021/05/20公開の記事を転載しています


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