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昇る龍のように、名古屋から能登へ。 日本の魅力を凝縮した「昇龍道ドラゴンルート」誕生秘話

vol.012 一般社団法人 昇龍道ドラゴンルート推進協議会 理事長  多田邦彦

ゴールデンルートに並ぶ観光ルートとして、観光ニッポンの多彩な魅力を世界に発信する「昇龍道ドラゴンルート」。日本のインバウンド隆盛に先がけて開発されたこのルートの発案者であり、また商標所持者でもあるのが一般社団法人昇龍道ドラゴンルート推進協議会理事長の多田邦彦さんです。

日本有数の観光資源を有する中部エリア・北陸エリアの知名度と魅力を、主に中華圏を中心として広く世界にアピールしインバウンドを拡大するこの事業開発のきっかけからこれまでの動きなどについてお話をお聞きしました。


観光ニッポンに先がけた、昇龍道ドラゴンルートの立ち上げ

立ち上げ当時は、まだインバウンドという言葉も一般的ではなかったと思いますが

昇龍道ドラゴンルート事業は平成24年にスタートしたのですが、当時はまだ観光ニッポンの気運が本格化する前で、インバウンドという言葉もあまり知られていなかったと思います。

日本の観光を盛り上げようという声は挙がっていたものの、正直なところまだ誰もが手探り。具体的な施策が何も出てきていない状況でしたから、個々の旅館においても今のように海外からの旅行客を誘客するという考えさえ浸透していませんでした。

そうした背景から私としては外国人を宿の売上げ拡大に結びつけるというよりも、まずはいかにして日本の魅力を海外に広く発信できるか。またそのために東京・京都・富士山以外にも素晴らしい観光資源があることをどのように伝えていくか、というのが基本的な考え方でした。

そんな中、平成22年12月頃にこの事業を着想し、まずは名古屋のセントレアを始めとする関係各所に話をもちかけて反応を見たところ、その多くからとても前向きなお声をいただいたんです。

平成24年がちょうど中国との国交回復40周年にあたり、また辰年でもあったことから国交省の中部運輸局にも賛同を得ることができ、このタイミングに合わせて一緒に事業を立ち上げましょうということになったんです。

名古屋から北陸へと日本を縦断するこのルートは日本の多彩な魅力がぎっしりと詰まっている、ある意味で日本の集大成です。私の一連の動きは、その魅力をもっともっと多くの方に伝えていかなければ、といういわば使命感からの行動でした。

ルートを龍に見立てるという着想はどこから得られたのでしょうか?

能登半島は、その形が龍の頭にとてもよく似ています。ここを頭と見立てると、名古屋から日本を横断して北陸へと至る道筋はつまり龍の体。南から北へとつながるこのルートは、まさに昇龍そのものだと思ったんです。

視覚的なイメージとしては2010年の大河ドラマ「龍馬伝」からの着想です。画面の中で白い龍が昇っていく美しい映像を見て、このイメージで日本を世界にアピールできたらインパクトがある!と感じました。

このアイデアについて、当時の駐名古屋中国総領事の張立国氏に相談してみると「中国人は龍が大好きだから、きっと評判になります。龍を赤や金などのおめでたい色で描いたらさらに効果的です」というありがたい助言をいただきました。

そんな手応えを得て「昇龍道ドラゴンルート」という商標を登録し、事業計画がスタートしたわけです。


想いを同じくする同士を集め、海外にプロモーション

プロジェクトの賛同者を集めるにあたり、どんな活動を展開されましたか?

まずは事業の理念そのものに賛同してくれる方を探すことが先決でしたので、自分の持つ伝手をつたって、旅館・ホテルはもちろん業種を問わず地域に関わるあらゆる方々にお声をかけていきました。

インバウンド客誘致の具体事例も数少ない頃でしたので「この事業は時期尚早ではないか」という反応もありましたし、投資がすぐに売上げに結びつくという性質の事業でもありませんから、結局のところ自分の利益ではなく地域振興に対して理解・共感いただける方々だけが賛同者に名を連ねてくれました。それが(一社)昇龍道ドラゴンルート推進協議会です。

また私たちの事業と併行して、国の中部運輸局の方でも「昇龍道プロジェクト推進協議会」という組織を立ち上げ、こちらはルートではなく静岡・三重などより広いエリアを包括した中部9県の活性化プロジェクトという主旨のもとで推進・展開されることとなったんです。

認知浸透のためのプロモーションはどんな展開を?

海外で開催されたいくつかの日本観光展などに出展して昇龍道ドラゴンルートの魅力をアピールましたが、私たちの推進協議会には国のような潤沢な予算もなく、大きなキャンペーンを打つことはできません。

そこで最初のターゲットを大きな発信力を持った富裕層に絞ることとし、台湾のハーレーダビッドソン愛好家のユーザーネットワークに注目しました。

企業のオーナーなどを含む30人ほどの台湾のハーレー愛好家の皆さんを現地にお招きして、実際に昇龍道を走ってもらい、その体験をそれぞれのルートで発信してもらうことを狙ったわけです。こうした企業家の皆さんは周囲への影響力も大きいですから、シャワー効果も期待できると考えたんです。

これを皮切りに中国やシンガポールなどアジア圏へと同様の展開を広げ、やがてハーレーの本場アメリカにもアプローチ。数多くのハーレー乗りやハーレーの社長などもお招きして、私たちが随伴しながらルートの数々の魅力をご案内していきました。

現在はレンタルのハーレーに乗ってルートを巡るツーリングコースも作り、昇龍道の魅力を五感で体感してもらえるようになっています。


事業スタートから10年、観光動向の変化とこれからの展望

当初のお客様の動向はどのようなものでしたか? またその後10年、コロナ直近までの状況は?

ご存じの通りその後日本のインバウンドは急激な伸張を見せ、海外のお客様の数も右肩上がりで増加していきました。こうした追い風を受けて「昇龍道ドラゴンルート」という名前もアジア系の国々を中心とした海外での認知がかなり広まってきているという実感があります。

もちろんこれには国が大きな予算をかけて推進している昇龍道プロジェクトによる効果も多大なものがあると思います。

しかしそんな中で私たちとしては当初の主旨に沿って、いかにしてルート独自の魅力をさらに高めていくかということが、次の課題としてクローズアップされてくるわけです。

当初のプロジェクトを軸に、さらに多様な要素が加わって肉付けがされてきているようですが?

この課題を念頭に、数々の観光資源を周遊するだけでなく、そこに「体験」という要素を加えたり、またここでしか得られないオリジナル商品を盛り込んだりすることで、昇龍道というルートにもっと多彩な魅力を肉付けしようと新たな事業を一つ一つ具体化していきました。

例えば地域の農家の方とコラボして、田植えや稲刈りを体験できるツアーを開発し、そこで収穫したお米を「昇龍米」として世に出すなどの展開がその一例です。

またお酒に関しても独自の事業展開を図っています。これまでのようにワインやウイスキーなど海外のお酒を輸入する一方ではなく、日本のお酒の素晴らしさをもっともっと海外に発信していこうと、著名な能登杜氏のお力を借りて「純米酒 昇龍道」という日本酒を開発し、宗玄酒造さんから発売していただいています。

オリジナルのお酒造りについては能登だけに留まらずその他の地域でも計画が進行しており、近い将来には個性豊かな数々の銘柄の魅力を結集して、日本酒というものを昇龍道を代表する魅力の一つに育て上げていきたいと考えています。

今後の展開についてのお考えは?

観光業という枠を超え、ルート沿線のさまざまな業種・企業などの力を結集。10年をかけて少しずつ昇龍道ドラゴンルートの魅力と認知を向上させてきたところで、ちょうどこの世界的なコロナ騒動が発生してしまいました。

ここからより本格的な活動を展開していこうと考えていた私たちにとっては、本当にタイミングの悪い状況でしたが、しかしこのコロナ禍が終息したらすぐにでも現実的な動きを再開できるよう、今は着々とその準備と足元固めを進めているところです。


■プロフィール
多田邦彦(ただ くにひこ)
一般社団法人 昇龍道ドラゴンルート推進協議会 理事長
和倉温泉 多田屋会長 
歴史・文化・食・景観などの魅力が揃い、「日本」が凝縮された観光ルートとして中部日本を南北に横断する「昇龍道-ドラゴンルート」を発案。
国や県を含む各方面に働きかけ、国の事業としても認定される。
「昇龍道」の商標を有した(一社)昇龍道ドラゴンルート推進協議会を組織し、民間連携によって多方面での活動を展開している。

■昇龍道ドラゴンルート推進協議会
公式サイト 
昇龍道ブログ 

※2021/09/22公開の記事を転載しています


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