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Go To トラベルで感じた変化|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム019

5月のある晴れた週末の昼。庭にテーブルを出して家族と他愛もない話をしている時に、何かのきっかけで家族の昔の話になり、それを受けて妻がいく冊かのアルバムを引っ張り出して来た。その中から実家から引き取った古いアルバムを選び、幼い孫を膝に乗せたままゆっくりページを繰る。

写真の多くは家族旅行の時のもので、母の自筆でキャプションが添えられている。私が中学生になるまでは、クーラーも付いてない小さな車で、よく旅行に出かけたのだ。行き先は父の故郷の長野県が圧倒的に多かった。

ある年の夏は、草津、万座、志賀高原辺りを周った。草津の湯畑は岡本太郎デザインの前の形だったし、草津白根山のエメラルドグリーンの湯釜もすぐ近くで見ることができた時代のことだ。

どこもかしこも硫化水素の刺激臭が強烈で、母は何度も「くさいから窓閉めて!」と怒気を含んだ声を後席から発していたが、私はそんなことはお構いなしに助手席の窓を全開にして、身を乗り出すようにして、故郷の町では見たことがないダイナミックな風景を夢中になって眺めた。

シフトチェンジを繰り返しながら右に左にハンドルを切っていく父の横顔も、やけにカッコよく見えた。

途中、「熊の湯温泉」に投宿した。恐ろしげなネーミングとは裏腹に、スキー場を背景にした建物は、いつも泊まっている宿よりずっと大きくて立派に見えた。夕食後に、ホテルの方に促されて外に出て空を見上げると、まるで絵のような満天の星空が拡がっていた。

部屋に戻ると布団が敷いてあった。そんなサービスは初体験だったし、まるでおとぎ話のように分厚くてふかふかの布団に、私は狂喜してはしゃぎ回り、普段は温厚な4つ年上の兄に「いい加減にしろ」とたしなめられた。写真を見ていると、そんな会話の声さえも鮮明に蘇ってくる。

他にも、上高地、白馬、松本、軽井沢、蓼科、木曾、黒部、飛騨高山、伊勢志摩などで撮った写真が残されている。

こうして家族であちこち旅行に出かけたことは、私の‘未知なるものへの憧れや好奇心’を育て、‘困ってもなんとかなるだろう’といった楽天的な気質の礎となり、また、‘家族を大事にする’ということの大切さを思い出せてくれる、プライスレスの経験であり、大げさに言うと、私自身の人生観や職業観を方向づけた、重要な出来事でもあった。

昨夏、Go Toトラベル(以下Go To)に乗っかって、思い出深い長野県内のリゾート地に家族で出かけた。メゾネットタイプが中心の施設を選び、食事は夕食・朝食共にテイクアウトスタイルのミールボックスを選択して、部屋で食べた。

幼い孫は、食事中も1階と2階を激しく行き来し、自動のブラインドを何度も上げたり下げたりし、キングサイズベッドの上でぴょんぴょん跳ね、娘に何度も注意をされていた。

夕食後は広い芝生の庭に出た。孫は「キラキラがいっぱい!」と星がびっしりの夜空に興奮を隠せない様子で、なぜかでんぐり返しを繰り返していた。
DNAとは恐ろしい。案内してくれたホテルスタッフに話を聞くと、Go Toが実行されてからは、ほぼ満室状態が続いており、食事もミールボックスを選ぶゲストが多いという。

当然コロナ対策で導入したサービスだが、存外に好評であると正直に話をしてくれた。

感染防止の観点から、チェックイン・チェックアウト時は、代表者が一人でフロントに行く決まりだったので、私一人で会計フロントに赴くと、私と同年代かそれ以上の男性ばかりであった。

「3世代で来て、支払いはおじいちゃん」というパターンが多いのだろうということは容易に想像がつく。いつも使うOTAサイトの中から、熟慮もせずに選んだ施設であったが、施設の規模、感染防止に対する配慮、必要最小限の適切なサービス、調度品のセンスなど、どれも私個人的には満足のいくものだったし、Go Toのおかげでプライスダウンされていたこともあり、帰りにはちょっと贅沢な土産を買った。

1泊2日という短い滞在ではあったが、結果的には非常に満足度の高い旅行であった。「これからの旅行は、こういうスタイルにしよう」と率直に感じると共に、時世をつぶさに観察し、適切な対応をしていくことの大切さを、改めて思い知らされた思いがした。

先行きは不透明なままであるが、beforeコロナであろうと、afterコロナであろうと、きっと旅をすることの意義は本質的には変わらないと信じている。そしてきっともう夜明けはすぐそこまで来ている。再び陽が昇ったら、子や孫をどこに連れて行こうか、どんな経験をさせてやろうか、近頃はそんなことばかりを考えている。

※2021/06/30公開の記事を転載しています


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