インバウンド・需要・回復・いつ・・・|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム037
◯旅館ホテル・観光にかかわる、老若男女様々なプランナーによるリレーコラムです。
このタイトルにあるようなワードを含む文章は、当サイト「リゾLAB」でも読まれる回数が多いと、編集担当の女性から聞いた。なるほど。それでは本稿は、インバウンドに関係する内容にしようと思い立つが、インもアウトも、海外旅行ということに対するアンテナの感度が極端に鈍ってしまっていたことに、我ながら愕然する。
コロナ前であれば、今くらいの時期からせっせと情報を集めて、秋にはアジアのビーチリゾートでのんびりするのが常であったし、仕事上もインバウンド客への対応やオーバーツーリズムに関する事柄が日常的に含まれていたのだが、そんなことは遠い遠い昔のことのように感じてしまう。
ともあれ、小手調べに、検索サイトで「インバウンド」と検索してみる。すると、確かに予測ワードに「回復」「再開」「需要」といった言葉が並ぶ。観光業界の皆さんに限らず、広くインバウンド客の回復に関心と期待を寄せているのだな、ということに改めて気づかされる。
本稿を書いている1月中旬の段階では、中国が日本人に対する査証(ビザ)の発給を停止するなど、依然として先行きの不透明感が漂うが、世界的には徐々に規制が緩和され、真っ暗闇のトンネルの先の方に、わずかな希望の光が見えててきた気もするので、このタイミングで、インバウンドに関する2つの事柄を思い返してみたい。
1つは、何ゆえに、それほどインバウンド客の獲得が重要であるか、ということだ。
これは比較的簡単に模範的な解答を見つけることができる。それは、シンプルに経済的な波及効果が大きいからだろう。
2019年には、3,200万人のインバウンド客が訪れ、4兆8,000億円もの大金を落としてくれた。言うまでもなく、これは大きな金額だ。これが2021年には、1,200億円程度にまで落ち込んでしまったのだから、そのダメージは計り知れない。
ちなみに、日本に普通に暮らしている、いわゆる定住人口の、1人当たりの年間消費額は130万円前後と言われている。これは、インバウンド客のわずか8人分の滞在中の消費額と同等だ。
日本の人口は減少傾向にあり、ローカルエリアの多くも人口流出という課題を抱えている。一般論として、人口が減れば、経済規模も縮小する。しかし仮に人口が1人減ったとしても、インバウンド客を年間に8人呼び込むことができればトントン、という単純計算が成り立つ。こういうことも含めて、インバウンド誘客は大事。
もう1つは、日本の観光業界は、このコロナ禍を経験したことで、何がどう変わったか、ということだ。
例えば、インバウンドが回復してきた時のために、どのような準備と対策を講じてきただろうか、ということを知りたかった。しかし、この解答を見つけるのはなかなか難しかった。
「そんな悠長なことは言ってられない。生き残るだけで精一杯だ」。これはもちろん正しいご意見と思う。国としても観光業界の維持には最大級の関心を寄せ、決して少なくないお金を投入してくれていることは事実だし、国外向けのPRを継続的に実施してきた自治体や団体があることは、承知している。
しかし、なんとなくそういうことじゃないんだよなー、とモヤモヤしながら、世界の主要都市の状況もネットでチェックしてみたが、コロナ禍の惨状とツーリストのニーズの変化を伝える記事が多く、あまり前向きなメッセージを見つけられずに数日が過ぎた。
そんな折、友人たちとゴルフに興じている時に、その中の1人が、12月上旬に家族でハワイに行って来たという。おお、そうだった。ハワイがあったじゃないか!昼食を取りながら、コロナ禍前との変化を聞き出してみたが、物価が異常に高く感じたとか、丸亀製麺がものすごい人気だったとか、ホテルの近くで銃撃戦があったとか、どうでもいいような話ばかりで、これといった収穫はなかったが、念のため、帰宅後にネットを開いてみた。
豊かな自然環境と独自の文化がハワイの最大の魅力ではあるが、大勢の観光客が訪れることによって、それらが棄損される面もあるというジレンマを抱えていた。そんな折に、コロナの波が島にも押し寄せてきた。渡航者数がピーク時の4分の1程度にまで落ち込んでしまい、観光地ハワイにとっては死活問題だということは容易に想像できる。
しかし、ハワイは、この苦難の時を「(コロナで観光客が減ったおかげで)ハワイ本来の純度を取り戻すことができました。だからまた来てください」とポジティブな方向に変換し、来訪を促すメッセージを発している、ということを知った。
それだけではなく、取り戻した豊かな自然環境や文化を維持していくために、「レスポンシブルツーリズム(責任ある観光)」という概念を強く打ち出し、訪れる人々に責任ある自律した行動をするよう呼び掛けている。これらの取り組みは「ラマラ・ハワイ(ハワイを思いやる心)」というスローガンのもとに展開されており、具体的な行動のサジェスチョンがなされている(ご存知でない方は、是非下部のリンク先のサイトをご覧いただきたい)。
さすがハワイ。期待は裏切らない。私は、こういうことを知りたかったのだ。
一連の取り組みの中に「ポノトラベラー」という言葉があることも知った。「ポノ」はハワイ語で、善良や道徳的な正しさを意味するそうである。良い言葉だと思う。
インバウンドに限らず、観光が復活するにつれ、日本のあちこちで、またゴミ問題だの騒音だの環境破壊だの景観悪化だのという、オーバーツーリズムの弊害が表面化してくるに違いない。やれやれ。どなたか、ポノトラベラーを、うまいこと日本語で表して発信していただけないだろうか。
こちらもご覧ください▶ハワイ州 レスポンシブルツーリズム情報サイト
※2023/01/26公開の記事を転載しています
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