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びっくり退職…退職願いが出てからでもできることはあるのか 観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた関連コラム048

「びっくり退職には、もう驚きません。」と言う声も聞こえてきそうなくらい、何の前触れもなく退職願いが出されることが多くなっているようだ。現場の管理職は、「なぜ早く手を打たなかったのか」と自問自答していっそう辛さを感じているだろう。
コミュニケーションを取ることも、様子の変化に反応して対処すべきであることも、現場の管理職の多くは理解しているだろうと思う。わかっていても、スタッフのシフトのやりくりと手の足りない現場の応援に追われているのが実情で、一人ひとりのコミュニケーションに十分な時間を取ることは簡単ではないはずだ。
巷には、離職を防ぐための・・・と銘打った話が溢れている。そのどれもが正論で、確かに取り組まねばならないことばかりである。それらを現場任せにしていてはならないとわかっていても、解決はできない。
年明けから4月を迎えるまでの期間は、特に離職が進みやすい。つまり、辞めやすい時期だとも言える。年末年始を過ぎると、多くのところが春までの間は営業がひと段落する傾向にある。辞めても仲間に大きな負担がかからないように、この時期に行動を起こす人が増えるとも考えられる。
突然、退職の話になる前に、手を打ちたいのはもちろんだが、ここでは、びっくり退職に見舞われた時に、「ただ黙って受け止めるしかないのか」「言われてからでも、まだできることがないか」「諦める前にやってみるべきことは」という切実な問いに、向き合ってみたいと思う。

転職サイトの指南を参考に、相手の手の内を知ることはできるか


まず、よく言われる退職の理由を確認しておこう。

【表向きの理由のトップ3】
1. 他のキャリアチャンスの追求
2. 仕事とプライベートのバランスの調整
3. 健康上の理由やライフスタイルの変化

そもそも、転職サイトの中には、「円満退社が実現する退職理由」を、これらの3つのいずれかにするのがよいと指南しているものもある。
例えば、「今の職場では実現できない業種・職種で働きたい」という表向きの理由についての解説は、次のようものだ。
仕事内容や勤務条件などへの不満、会社や上司の評価に対する不満が本音であっても、ネガティブな退職理由は、「改善する」「対処を進める」などと引き止めの材料にされる可能性がある。だから、「自分自身を見直し、よく考えた結果、現在の仕事とは違う業種・職種に挑戦してみたいという気持ちが抑えきれず、退職を決意するに至りました。」と伝えることで、退職のために余分な時間をかけず、精神的なストレスを受けずに済む、とのこと。
確かに、不満が理由であれば、「改善する」「希望の部署に異動させる」など、引き止められる可能性を、こちらは探さねばならない。
本人にとっては、そういうややこしいやり取りは不要で、とにかく辞めたいのだから、表向きの理由は何でもよく、辞めやすい理由こそが重要なのだ。
「病気による退職」は、「「何とか続けたいと思い頑張って参りましたが、持病が悪化し、しばらくは療養するために、一度退職という形をとらせていただくことにしました。」と言われれば、それ以上深く尋ねることは遠慮がいる。「家庭の事情」も然りだ。
これらが、本当の理由である人もいるだろう。しかし、ネット上でこのような情報を得て、退職を願い出てくる人も少なくはない、ということを認識しなくてはならない。こちらとしては、このような状況を前提とした対策が必要だと言える。

転職サイトでは、同時に、本当の退職理由や原因について探っている。

【退職の本当の理由のトップ3】
1. コミュニケーションの不足や誤解からくるモチベーションの低下
2. 組織内での不満やストレス
3. 職場のカルチャーと嗜好のギャップ、価値観の不一致

本音は、会社や上司との認識の違い、コミュニケーション不足、理解されないことへの不満、が原因ということだ。キーワードは、モチベーション・ストレス・価値観である。
宿泊業界においても、報酬面や労務環境は、この数年で確実に改善が進み、上を見ればキリがないもののそれを理由に辞めるケースは減ってきているようだ。ただし、人員不足のために負荷がかかることが原因になることは依然としてある。この場合も、仕事の与え方や声のかけ方などには気を配るべきで、やはり上記の本音とは切り離すことができない。

転職サイトのアドバイスによれば、本音を語ってしまうと引き止められる、としているのだから、それを語ってもらえば、こちらとしては打つ手が見えてくるはずだ。

本音を引き出すためにどうすればよいか


「すみません、お話したいことがあるのですが・・・」と神妙な顔で、声をかけられれば何事かと心中穏やかでなく、さらに退職を切り出してきたら、動揺は隠せない。
カウンセリング技法や心理学にその答えはあるだろうか。

*傾聴
考え直す余地はないかと説得にかかりたい気持ちでいっぱいになるが、話している最中に相手の意見を否定してはいけない。
ここではとにかく、まずは冷静になり、話を聞くことに徹するのがよいらしい。
当然誤解もあれば、知らなかっただけでこれからでも対応はすると言いたい気持ちになるが、こちらの意見を求められていないのに発言すると、「やっぱり、この会社の人は、私の話を聞いてはくれないんだ。」と思ってしまい、心を開いてもらうことができない。となると、本音を引き出すに至らないままとなってしまう。
こちらの意見を言うチャンスを狙うようなことはせず、「今まで、きちんと話ができていなかったようで、申し訳なく思う。」と伝え、話を聞かせてほしい、という気持ちを、姿勢・表情・言葉で表現しながら聞くことに努めるように、ということだ。

*言語化
傾聴だけでは、相手の話したいこと、話せることだけに留まってしまい、私たちが本当に知りたいことにまで話が至らないことになりかねない。
そこで、「辞める理由は、本人も十分に言語化できていない。」という姿勢で、話を展開することを試みることになる。
転職活動の際に相手企業に「なぜ、前職を辞めたのか」について聞かれることも多いため、退職理由をそれなりに述べてはいるものの、これさえも転職に有利な理由を建前として用意し、本音を語ることが得策ではないと考えている可能性が大きい。転職サポート会社からも、転職活動の中で述べている退職理由と本当に自分が感じていたことが一致していない人も多い、という声が聞かれる。
退職に至る本音を語ってもらうというよりは、少しずつ紐解いていくような気持ちで、本人が感じていたことや考えていたことを言葉にするための質問が役立つ。
話の展開は、現在から過去にさかのぼることで、話しやすくなるそうだ。
「退職を考えながら、今はどのような気持ちで、仕事に当たってくれているのか?」
「いつ頃から、考え始めたのか?」
「以前はどのような気持ちで仕事をしていたのか?」
「いつ気持ちの変化があったのか?」
「それは何かきっかけがあったのか?」
立て続けに質問責めにするのではなく、これらの質問の答えを一つずつ丁寧に受け止めながら、言語化をサポートできれば、本人も私たちも退職の理由の元にあるものが見えてくる。

*事実と意見
例えば、「私は、〇〇さんに嫌われているみたいで、一人で会場を担当させられることが多かったんです。」と言う場合、一人で会場を担当することが多かったと感じたことが事実であり、実際に多かったかどうかは確認する必要があると考えられるだろうか。ましてや、〇〇さんに嫌われていると感じているのは事実だが、〇〇さん自身がどう考えていたかは定かではない。
傾聴の表現として、話の要約や伝え返し、と言われるものがあるが、「〇〇さんに嫌われていたんですか・・・」とか、「一人で会場を担当することが多かったんですね」と表現してはいけないということである。
ここでは、「〇〇さんに嫌われているように思っていたんですね。」とか、「一人で会場を担当させられることが多い、と感じていたんですね。」と述べて、意見に対して寄り添う気持ちを示すことは十分にできる、ということだ。

*きっかけと決め手
傾聴と理解そして言語化を進めると、次第に、本人にも私たちにも本音が見えてくる。
その話の中で、辞めたいと思った「きっかけ」と、辞めることを決

きっかけとなったことは、職場の雰囲気や会社の方針など、自分には解決できそうにない問題として捉えられていることが多く、だからこそ本人は解決できずにその悩みを抱え続けていたのだろう。本来であれば、その時点で、1オン1ミーティングなどの場で共有し、解決の方向を探ることを話し合っていればよかったのだろうが、それが放置されていたと言うことでもある。
遅ればせながらではあるが、それが「わかってよかった。それはよい方向に改善したいと思う。」と伝えることはできる。また、実際にそのきっかけとなった状況に目を向けて、離職防止に繋げなくてはもったいない。

決め手となったことは、多くの場合、誰かのひと言である。ひどく嫌な気分になったことや退職を後押しするようなひと言であったかもしれない。
これに対しては、違う意見や考え方を伝えることができる。
「その時に、いつも間違えてばかりだ、と言われて悲しくなった。」と発言があれば、「間違えは同じように続いているのですか?そうでなければ、いつも、ではなかったと思います。」とか、「努力していたからこそ、悲しい気持ちになったのだと思います。」などの受け止め方の表現もあるだろう。
そうすることで、誰かのひと言で人生の歩み方を決めなくてもよいのではないか、と考え始めてもらいたい。

本音を念頭にアプローチする
このようにして本音が聞こえ始めたら、その本音を念頭に置いて相談を持ちかけることになるが、現在の状況によってアプローチは変わる。
いずれにしても、未来の話は仮定であって、ストーリーをイメージしてみる作業がアプローチである。

*辞めたいと言っているが決心が固まっていない
退職の理由を言語化したり、本音を引き出すことによって、本人の気持ちに変化が見えることもある。
・仮に退職の理由としたことが改善されるのであれば、勤務を続けることはできるかどうか。
・仮に業務内容や職場が変われば、勤務を続けることはできるかどうか。
・仮に勤務を続けられるとすれば、どのような条件が必要か。
あくまでも仮定の話であって、希望のとおりにできるかどうかは確定ではないが、その方向でこちらも前向きに検討してみたい、と意向を伝え、あらためて相談の場を持ちたいと伝えておく。

*とにかく辞めることが先で、転職はまだこれから考える
やめて少しゆっくりしたい、と考えている場合もあり、これからどのような生活になるのかをイメージしてもらう。それは今すぐ完全に辞めなくては実現しないのかどうか、と投げかけて、時間的な問題が解決し、雇用と就業条件が変われば働ける余地があるかどうか、アプローチする。

*すでに転職に動き出している、転職先が決まっている
この場合は、転職先に勝る魅力がここにあるか、一緒に語り合ってみるアプローチがある。
すでに動いている以上、その動きを覆すことはたいへん難しいが、いつか、繁忙日の応援アルバイトや勤務体制を変えての再雇用などの道があることを伝え、それらをイメージしておいてもらうことは有効だ。
実際、このような取り組みを丁寧にしてきたことが、ここへ来て功を奏している宿泊施設も出てきている。柔軟な勤務を受け入れられる体制が整ってきたことで、ようやく実現に至ったが、双方のイメージがあったからこそだと思われる。大切なことは、つなぎをつけておくことだ。

・・・せっかく縁があって働いている人が、この先も関わってもらえる職場、この先いつか戻ってきたいと思える職場であるように願っている。


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