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さらなる、おもてなしのいただきへ。 大型温泉ホテルから上質な日本旅館へと生まれ変わった美ヶ原温泉 翔峰のリブランディング。

時代の変化を先取りした、これからの大型ホテルの姿を創造したい

長野県第2の都市、松本市中心部から車で約15分に位置する美ヶ原温泉は、奈良時代からの歴史を誇る信州の風光明媚な温泉地。この地を舞台に昭和34年に温泉ホテルとして開業し、95室(最大収容人員500名)の大型旅館として今日まで脈々と歴史を刻んできた温泉ホテル。それが翔峰です。

北アルプスの峰々と松本市内を望める美しい景観や、上高地や国宝松本城を始めとする豊富な観光資源に恵まれ、今後は大きなインバウンド需要も見込めるという有望な背景を有する一方で、翔峰の経営陣は今後も大型ホテルとして成長しつづけるためには、時流の変化に合わせた抜本的な商品づくりをしていかなければやがて収益を上げることが困難になっていくだろうという大きな危機感を抱いていました。

日々移り変わる時代の中でこれからのあるべき姿を具体化することは必須。これまでの団体向け大型温泉ホテルから、地域を名実ともに代表する日本旅館へと生まれ変わることをめざそうと、大型のリニューアル・リブランディングに乗り出すことを決意しました。

その第一歩として翔峰が着手したのは、既存施設における現実的な課題を一つひとつ抽出し、そこから改善すべきポイントを見つけ出すことでした。
経営陣には、優れた立地背景を生かした施設と上質なおもてなしを実現することができれば、必ずこれまで以上に儲かる施設をつくりあげることができるという確信があったのです。


<利益体質の創造のために>

STEP.1 内部課題の抽出

●労務負担の軽減。人材不足、働き方改革の潮流の中、従来の労務負担を軽減できる施設・組織づくり。
●満足度は総じて高いが、強いて言えば食事に対して改善の余地あり。メリハリのある感動演出が必要。
●客単価の向上と、労務効率アップによる人件費や原価率の減少の双方のアプローチで、利益率をアップ

STEP.2 改善すべきポイントを具体化

●大型旅館ならではの動線の長さを簡略化し、オペレーション効率を向上
●温泉浴場商品の強化によって、温泉(浴場)の魅力度をアップ
●画一的だった客室タイプのバリエーションを増加。多彩な顧客ニーズに応え、付加価値を高める
●個人客向けの食事会場と提供形態を再検討。「食べる楽しみと感動」を創出
●活用率の低い婚礼関連施設の空間を、おもてなし向上のために有効活用
●玄関ロビー周りを始め、館内の総合的なリニューアルによって、和風旅館としてのイメージアップを実現


こうして課題抽出と具体的改善点の絞り込みを経て、新たな時代の旅館を創造すべく全体像を創りあげていった翔峰のリニューアル・リブランディング計画は、総投資額・約9億円、2期にわたる設備投資によって現実化することとなりました。
(第1期改装:2017年4月7日竣工・第2期改装:2018年5月14日竣工)


リブランディングを語る、4つのキーワード。
「店格」「戦略マッチング」「2度の目玉づくり」「商品とブランドの総合戦略」

翔峰のリニューアル・リブランディングのテーマとして通底するのは「団体中心からの脱却、個人客の満足度向上」。

団体旅行から個人旅行へ。現在のお客様の実情にマッチした商品をつくりあげ、同時に企業としての成長を叶えるためには、まず「既存施設の運用効率アップ」と「客単価のアップ」という2つの課題をクリアしなければなりません。いわば「もっと高く売れる施設をどう実現するか」です。

これを可能にするために翔峰が注目したのは「バランス」でした。
数値面においては、客単価・客数・粗利率・人件費率などを横断して視野に入れ、「 収益性を高めるための最適バランス」をどう実現するかを基本方針とする。また設備投資に当たっては「店格のグレードアップ」「商品戦略と営業戦略のマッチング」「2度のオープンによる2度の目玉づくり」「実体商品とブランド表現の総合的戦略展開」によって、商品力から市場コミュニケート力までを網羅した『新たな翔峰のアイデンティティを構築』し、『ブランド価値を高める』というのが、今回の翔峰の「リブランディング」です。

何かを突出させるのではなく、総合力そのものを高める…。
口にするのは簡単ですが、これは言ってみれば旅館運営のあらゆる面にわたって検証と改善を行い、同時に新たな市場戦略をも確立すること。
今回の翔峰のリニューアル・リブランディングプロジェクトは、企業の根幹にも関わる非常に大きな挑戦だったのです。


一人ひとりの旅への思い入れに、きめ細やかな気配りで応えるハイクオリティな滞在空間へ

社員旅行など団体客が大幅に減少し、その反面、個人客が増加していったことにより、客室一室あたりの平均利用人数が減少していた翔峰では、その対策として一室の利用人数を増加させるのではなく、個人客の満足度をより向上させるための方策を採りました。

それが、少人数がゆったりと寛げる付加価値の高い客室、中央殿「嶺雲(りょううん)」と東の館「蒼昊(そうてん)」です。

「北アルプスの山々と松本平の雄大な景色を望む客室」をコンセプトとする中央殿では、4・5階に露天風呂付和洋室、6階にはデラックスツインルームを新設。
また東の館は「北アルプスの山々を一望できる絶景の客室」をコンセプトに、窓際にフローリングのリビングコーナーを用意。また7階客室には天然温泉の展望風呂も設えるなど、よりクオリティの高い旅時間を演出することのできる施設・環境を整えました。

また客室内にはコーヒーミルを置き、窓からの絶景を楽しみながらゆったりとしたコーヒーブレークを楽しんでいただけるなど、きめ細かな数々の工夫も凝らしています。
こうしてリニューアルされた客室は、個人客をターゲットとするためWeb販売の比率を従来以上に高め、高品質な客室ならではの高単価販売を実現。具体的には中価格帯の顧客層の消費額を大幅に底上げすることへと結び付きました。

2度のオープン、2度の目玉づくり。第一期オープンのテーマは、「うまし旅へ」

先にふれたように、総合的な満足度では高評価を得ていた翔峰。しかしさらに上をめざすためには、「食」の充実が不可欠でした。
そこで第一期オープンは、「食」を切り口として、これまで以上にお客様に感動を与えられる施設・おもてなしの創出にこだわりました。
テーマフレーズは「うまし旅へ」。

信州ならではの味覚を五感で味わうライブキッチン、旬菜ダイニング「信州」の誕生がそれを物語ります。
従来からあったダイニングを全面改装し、旬菜ダイニング「信州」としてデビューを飾りました。48卓・142席のダイニングは、それぞれの席を衝立で仕切り、開放感とともに個人客のプライベート感をも大切にした空間に生まれ変わりました。
また本格的な石窯を持ったオープンキッチンも用意し、信州産の食材をふんだんに使いながら、ライブ感とともに「信州を味わい尽くす」空間の演出が強く意識されています。

そして、第二期オープンのテーマは「もっと美しい旅へ」。中宴会場が北アルプスを望む展望風呂に生まれ変わり

景観へのこだわりは客室はもちろん、お風呂にも反映されています。
翔峰ではそれまで、大小宴会場やコンベンションホールの他に4つの中宴会場も備えていましたが、団体客の宴会ニーズの減少によって稼働が少なかった中宴会場のスペースを、個人客向けの施設として積極的に活用しようと、展望風呂への転換をプランしました。

それが新設された展望風呂「美しの湯」です。翔峰ならではの素晴らしい景観を楽しみながら自慢の温泉を満喫できるこの施設は、スペースの有効転換活用と、個人客への上質なくつろぎ提供という2つの目的をともに満たす妙案でした。

浴場内には「内湯のゾーン」と「半露天風呂のゾーン」が備えられ、天然温泉の他、シルクバスや炭酸風呂なども用意されています。
この施設の誕生によって、翔峰は、かねてより人気の大浴場「束間の湯」とともに、もう一つの顔となる魅力的な浴場施設という武器を手に入れたのです。


さらに、ファミリーユースに向けた優しい配慮も

ファミリーで旅に出かけるお客様にとって、館内でお子様が自由に遊べる空間の有無は、最重要項目のひとつです。
今回の設備投資では、売店横にお子様も楽しめる「キッズコーナー」を新たに設置しました。
東急ハンズのプロデュースにより、檜の玉のプールや木の玩具など、自然素材を用いたグッズをふんだんにセレクト。子を持つ親の気持ちに寄り添って「ぜひ積極的に子どもを遊ばせたい」と思わせるナチュラル感あふれる空間を創りあげています。さらに親御さんに向けては、子どもを安心して遊ばせられるよう、くつろぎながら子どもを見守れるソファやテーブルも用意されています。


上質な「おもてなし」をすみずみまで行き渡らせるためにより重視される、「人」の育て方、創り方

毎年、新卒社員を複数名採用し、人員の充実を図っている翔峰では、新入社員をはじめ人材育成にも大きな力を注いでいます。新入社員研修や先輩社員研修など各種の社員研修はもちろん、各職場に応じた接客研修やeラーニングなども日常的に活用。

従業員には、経営理念や基本マナーを掲載した「翔峰の心得」を入社時に配布し、理念や考え方の共有に努めています。また基本マナーのマニュアルに加えて、例えば客室ご案内マニュアルや料理提供シートなど、業務ごとに必要となる業務メニューも作成され、スタッフの経験によってサービスの質が変わってしまうことのないよう、サービス標準化への細かな対策が施されてます。そしてかれからは、従業員の高い就業意識そのものを醸成することにも役立っています。


新たな施設をどう売るか、新たな売り方の立案が、施設に命を吹き込む。

リニューアルによってグレードアップを果たした店格。そしてさらなるおもてなしのクオリティアップ。
新生した「翔峰」を、誰にどう売っていくのかという販売戦略は、リニューアルを「リブランディング」へと結実させるための仕上げとして位置づけられます。
いかに魅力的な商品があっても、販売ターゲットの選定や販売方法にしっかりマッチングしていなければ、狙ったインパクトを与えることはできません。

翔峰ではリブランディングに際し、あらためてドメイン分析を行い、今後進むべき方向をポジショニング、また売上や客数など主要な指標をKPIとして数値化し、スタッフにこれを周知徹底することで、企業の進むべき道を明確に示しました。

営業活動においてもそれはしっかりとシンクロナイズされ、例えば従来の販売ルートからWebを活用した個人客へのピンポイントな営業アプローチへの転換や、ファミリー客との接点を拡大するためのチャネルの開拓などが日々工夫されました。商品をどう売るかという点に、設備投資と同等の熱意が注ぎ込まれているのです。
「誰に、どう売り、どう実績を伸ばしていくのか」。明確な目標のもと、経営陣と社員がつねに同じものを見ている。これが翔峰のリブランディング計画の大きな特徴のひとつだと言えるでしょう。


「さらなるおもてなしのいただきへ」和風旅館・翔峰が、見すえているもの

ほかでもないお客様の声によって、信州ならではの「豊かな自然・癒し・寛ぎ」に満ちた地域を代表する温泉宿として高く評価されること。
翔峰のリブランディングの目指すところは、そこにあります。

これまでの名称から「ホテル」の記載をはずし、「信州松本 美ヶ原温泉 翔峰」へ。やわらかでやさしく上質感のある日本旅館にふさわしく、テーマカラーやロゴも刷新しました。

新たなテーマカラーは日本の伝統色「花浅葱色」。ロゴデザインは「飛翔と高峰」「水と波紋」などをモチーフに、信州の澄みきった空と水、かけがえのない自然環境を表現し、その中で過ごす時のクオリティの高さを期待させるものとなっています。

団体客から個人客への大きな軸足のシフト。翔峰が出したそこへの答えは、いたずらに人数の増加を追いかけるのではなく、一人ひとりのお客様が心から満足できる「付加価値の高い時間」を提供することにありました。

「感動の温泉宿」という経営ビジョンを掲げる翔峰のリブランディングは、その言にふさわしく、ハードとソフトの双方によってお客様の期待を超える感動を創造することであり、同時にそれをつねに実践し続けることにあったのです。



信州松本 美ヶ原温泉 翔峰(長野県・美ヶ原温泉)
〒390-0221 長野県松本市大字里山辺527 (Googleマップ
公式サイトはコチラ

※2019/11/14公開の記事を転載しています


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