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日本の音楽シーンからオーバーツーリズムへ

SNSが普及して以降、多くのビジネスモデルがその形を変容させている昨今だが、個人的に非常にポジティブな印象を持っている業種がある。それが音楽業界だ。

一昔前までは、CDの売上がアーティストの人気や知名度を測る指標になっていたが、TikTokやYouTubeなど、消費者とのタッチポイントが広がったことで、今やたとえCDが売れなくても、アーティスト自身やその曲を知ってもらい、聴いてもらう機会が格段に増えている。

それにより日の目を浴びて音楽活動を続けることができるアーティスト、採算が取れる所属レーベル、多様な音楽を楽しむことができる消費者…とてもいい循環が生まれていると思う。

2023年はYOASOBIの『アイドル』が史上最速でストリーミング再生4億回を突破したことが話題になった。日本どころかとてつもない世界記録を樹立したYOASOBIだが、だれもが認める日本No.1のアーティストかと聞かれると難しい。

勘違いして欲しくないのは、私自身YOASOBIの曲をよく聴くし、好きなアーティストだ。日本屈指のアーティストなのは間違いないが、先述した通り、現代は多くのタッチポイントや楽しみ方があり、絶対的なNo.1を決められる時代ではなくなっていると思う。

ライブパフォーマンスが凄まじいアーティストもいれば、テレビ番組のバラエティで活躍するアーティストもいる。若者に特化した楽曲が広く受け入れられているアーティストもいる。改めて、多様性が重んじられ、認められる世の中なのだと思う。そして音楽に限らず、日本全体でその土壌は十分に育ってきているだろう。

一方で、日本の音楽シーンとは全く関係が無さそうな「オーバーツーリズム」について言及したい。

オーバーツーリズムとは、特定の観光地が過度な観光客の流入により、環境や地元社会に悪影響を及ぼす現象のこと。観光地の急激な人気上昇が、美しい自然や歴史的な遺産の荒廃、さらには地元文化の崩壊、はては生態系にまで影響を引き起こしている…らしい。深刻すぎる問題だ。とても観光地人気が事の発端だとは思えない。

また、観光客の大量流入により地元住民の生活に負担がかかり、景観や環境が損なわれることも問題の一つ。持続可能な観光の実践が喫緊の課題となっており、新たなアプローチや協力が求められている。

一見、日本の音楽シーンって好調だよね、という話とオーバーツーリズムは全く関係がないように感じられるが、実はこの二つ、根底にある本質的な部分は類似していると思う。

では、オーバーツーリズムの問題の本質とは何か、その個人的な見解を簡単に述べたい。とどのつまり、特定の観光地が人気すぎるのに対して、その他の観光地の人気がなさすぎるのだ。

私事になるが、私は年に数回、日本のロックフェスに参加する。通常フェスには会場内に大・中・小規模に分かれた複数のステージが設営されている。

参加するアーティストはその知名度・実力に応じてステージごとに振り分けられていくのだが、その振り分け方は平等ではなく、むしろアーティストの人気順だ。大ステージには人気のアーティスト。小ステージには世間的にはほぼ無名のアーティストばかりが配置される。

時間割によっては大ステージと小ステージのアーティストの出演時間が被ることもあるが、全員が全員、大ステージのアーティストを見に行くわけではない。仮に数万人規模の参加者が一つのステージに集まるとフェスは破綻してしまう。

一定数は小ステージのアーティストを見に行く人がいるから成り立っているともいえる。それを見て思うのは、仮に世間的には知られていなくても、そのアーティストを好きになるタッチポイントはいくつもあり、日本のロックフェスはなんやかんやで絶妙なバランスの上に成り立っている素晴らしいイベントだということだ。。

さて、この話をオーバーツーリズムの観光地に置き換えてみよう。「何となく流行りだから」「この土地に来たらとりあえず行っときたいから」こういう人が一定数いて、そのような観光地の“虚像”が、オーバーツーリズムの問題に拍車をかけているのだろう。

しかし、そのようなムーブメントがいい方向に働くことも多々あり、個人的にも気持ちは分かるので否定をする気は全くない。どんな動機であれその場所に行ってみたいという気持ち自体が悪いなんてことはないだろう。

問題は、人々をそういう気持ちにさせる観光地が少ないことではないか。もちろん口で言うほど簡単じゃないことも分かっている。しかし先の日本の音楽シーンの話に立ち返ってみると、SNSやライブなど、今はアーティストを好きになってもらうタッチポイントが多くあり、そのどれか一つをもって消費者の心を掴めばいい。それはどの観光地に置き換えて考えても同じではないか。

多くの観光客が押し寄せるオーバーツーリズム。その意思決定の主導権は消費者にあり、観光地に“来させないようにする”のは難しく、双方にとっても得策ではないだろう。

近隣の他の観光地が負けじと声を上げ、“行ってみたい”と思わせる。そうすることで結果的に地域全体にいい影響を与え、日本の音楽シーンにみるような業界の活性化に繋がっていくのではないか。

YOASOBIの『アイドル』はYouTubeのMVや人気アニメのタイアップ起用など、巧妙なプロモーションを駆使して最速で新記録を樹立した。

オーバーツーリズム問題を抱える近隣の観光地も、あらゆるタッチポイントを主体的に活用して試行錯誤で観光プロモーションを行えば、人々を誘致することは不可能ではないと考える。たとえそれが、意図的に作られた虚像だとしても。


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