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地域の魅力に光をあて、編集し、世界に伝える。

Vol.015 株式会社インアウトバウンド 仙台・松島
      代表取締役 西谷 雷佐さん

青森で起業し、「短命県ツアー」「津軽ひろさき雪かき検定」など、地域の暮らしぶりに着目したユニークな観光体験商品を多数生み出してきた西谷雷佐さん。

現在は仙台に拠点を移し、講演やコンサルティングで全国を飛び回りながら、オール東北での観光地域づくりに取り組んでいます。

東北のインバウンド事業を牽引する西谷さんの経歴や、これまでの取組み、今後の想いについてお話しをうかがいました。


旅への想いを表現したコンテスト応募が起業のきっかけに。

アメリカの大学を卒業して、最初は旅行代理店に入社し、添乗員として世界中を巡っていました。その後、専門学校で観光について教える講師をし、その会社では役員にもなりましたが、「本当にやりたい仕事なのか?」という思いが、いつもありました。

そんな中、「日本商工会議所青年部第8回ビジネスプランコンテスト」が開催され応募することにしました。企画書を書き起こすことで、初めて自分の胸の内にあった旅や観光についての想いや考えを引っ張り出し、整理する機会になりました。

結果、グランプリを受賞することができ、そのプランを具現化するべく、2012年着地型観光に特化した「たびすけ合同会社西谷」を創業しました。


青森をもっと楽しんでほしい。暮らし目線での着地型観光。

当時の旅行商品はほぼ発地型で、例えば、東京で販売されている青森旅行の商品に載っているのはお決まりのコースだけ。

「ちょっと待てよ」と。ほかにもっといい場所、いいものがある。それが伝わっていない。「私の故郷をもっと楽しんでほしい」と思いました。

私は青森に生まれ育ち、アメリカの大学を出ていて英語が話せる。旅行代理店勤務の経験があり、添乗員の資格がある。介護に関心があり介護士の資格もある。普通自動車第二種運転免許も持っている。

それらを掛け合わせれば、例えば「車椅子のアメリカ人が青森を旅する」という商品になります。すでに「あるもの」を掛け算することで、新しい旅行商品を作ることができると考えました。

地元である青森県弘前市を拠点に、平均寿命が全国ワーストとなった県の特徴を逆手に取った「短命県ツアー~青森県がお前をKILL~」「津軽ひろさき雪かき検定」など、地域の「暮らしぶり」に密着したツアー商品をいくつも開発しました。

青森を舞台に、自ら商品を作り、販売し、添乗ガイドもする「つくって・売って・受け入れる」というスタイルで事業としてやっていくことはできました。でも旅は青森だけで完結するものではありません。もっと旅を広げたい。

そこで、東北の中心である仙台市に軸足を置いて、「東北」全体を売ろうと決意しました。


住んでよし訪れてよし、豊かで「持続可能」な地域づくり。

活動の拠点を仙台市に移し、2018年に東北の仲間たちと「株式会社インアウトバウンド 仙台・松島」を創立しました。

私たちの経営理念は、地域の魅力に光をあて、新しい観光の価値を創出し、世界へ発信して、双方向の経済・文化交流を通して、住んでよし訪れてよしの、豊かで「持続可能」な地域づくりを行うことです。

地域にはまだまだポテンシャルがあります。地域ポテンシャルの「エンタメ化」が旅行商品になります。「地域ならではの暮らしぶり」こそが、極上の観光コンテンツになります。

けれども地域に暮らす人が、実は一番その価値に気づいていません。何気ない地域の暮らしにふれる「暮らしぶりツーリズム」には、まだ多くの可能性があります。


東北と各地を接続させ、旅を編集する。

DMO法人としては、仙台圏の6市3町というエリアが対象です。しかし、そのようなエリア区分は、全国からくる旅行者にとって、まして外国からの旅行者にとってはあまり意味のないことです。

観光客の多くは周遊します。仙台・松島を訪れる人が、山寺にも行きたいし、平泉にも行きたい。東北6県というスケールで地域を編集し、旅行者の想像力を刺激する商品造成をする必要があります。

仙台圏と東北を接続させ、さらに北海道とも接続させる。これからは、日本全域にその範囲を広げていきます。すると結果的に仙台圏にもたくさんの人が訪れるようになります。

外国の旅行者は、仙台から近いからという理由で他の目的地を選ぶのではなく、興味・関心で選びます。ルートではなく、テーマで地域を接続させ、周遊する楽しさを示し、旅を編集します。


東北を「訪れるべき場所」に。
魅力を伝え続けブランド力強化へ。

これからは「東北」を「訪れるべき場所」にする必要があると思っています。外国人観光客に人気の北海道と比べても遜色ない魅力が東北にはある。それでも北海道が選ばれるのは「ブランド力」があるからです。

東北に目を向けてもらうためには、訪れる理由が明確になるようなテーマを設定し、地域をブランド化していかなければなりません。

東北は、実は東京からも近い。都会に住む人にとって「通い続ける第2の故郷」にもなり得ます。東北のファンになってもらえるよう、わかりやすく魅力を伝え続けています。


コロナ禍で変わったこと、変わらないこと。

コロナだから「何か新しいことをしなくてはならない」という同調圧力で、国も社会も迷っている気がします。私は、「時代の流れに乗らなきゃ」と振り回されず、「こうしなければならない」と決めすぎないようにしています。

コロナ前も、今も、コロナ後も「人が旅に求めるもの」は変わりません。それはワクワク、ドキドキであったり、自己の成長だったり。本質は一緒です。

変化したこととして、オンラインツアーの需要が増えており、最近「オラツー東北」という取り組みをしました。一般的な有料のオンラインツアーならば、参加して終わりですが、そこにライブコマース、リアルツアーを組み合わせ、商品の魅力と可能性を広げました。

例えば、弘前のシードル作りについて、生産者の想いや物語を伝えるオンラインツアーに参加いただく。参加費は無料です。オンラインツアー自体は無料でも、ライブコマースでオンラインショップに誘導でき、さらにその生産者に会いに行くリアルツアーにつなげます。これはもちろん日本酒やワイン、食べ物や伝統工芸品などでも応用できます。

オンラインツアーはコロナ禍だから始めた新しい事ですが、根底にある「面白い・ワクワクする」はかわらない事です。また、「旅行に行きたいけど行けない人」、例えば身体に障害のある人にも旅を楽しんでもらうこともできます。コロナ終息後も、ひとつの旅の形として継続していくでしょう。


アフターコロナに向け、
高価値・高単価・高満足な商品づくりの準備を。

日本は物価も安く、それで海外からの人気を集めていた面もありますが、これからは、高価値、高単価、高満足、高収益にもっていくべきです。いいものなら、高くても買う人がいます。

「外国人」と「日本人」もシームレスになってきています。「日本人向け」「外国人向け」という発想は、もういらないでしょう。

例えば欧米ではラーメン一杯が2千円もしたりしますが、日本人にも普段からラーメン2千円という選択肢があっていい。そういうマインドセットが必要です。

まだしばらく続くであろうコロナ禍は、高価値、高単価で経済効果を出すための、準備をする期間だと考えています。


「編集者」として旅を編み、「指揮者」として旅を奏でる。

地域の旅のコンテンツを発掘するだけなら簡単です。発掘したものを、ほかの要素と掛け算し、編集することで、地域資源のエンタメ化が可能になります。価値を高め、単価を上げるイメージで発想を広げていきます。想定するターゲットごとにコンテンツを掛け合わせることで、地域資源の可能性は無限に広がります。コンテンツを「目利きする力」とともに、「編集力」が必要です。

また、それぞれの地域に優れたプレイヤーはいますが、「指揮者」がいません。地域の「演奏者」というべき人材を活かし、時代のリズムを感じながら、指揮棒を振って旅を奏でる。そういう役割を担っていきたいと思っています。

そのためには、地域からの信頼が大事です。だから、仕事は丁寧でありたい。人生すべてにおいて「ていねい」をテーマにしています。
深呼吸して、丁寧に。

これからも、つながりを大切に、信頼できる仲間たちと手を取り合って前に進んでいきたいと思います。


■プロフィール
株式会社インアウトバウンド 仙台・松島 代表取締役
たびすけ合同会社西谷 代表
西谷 雷佐

青森県弘前市出身、宮城県仙台市在住。
ミネソタ州立大学マンケイト校で産業心理学とスピーチコミュニケーションを学ぶ。
2011年「日本商工会議所青年部第8回ビジネスプランコンテスト」でグランプリを受賞。
2012年着地型観光に特化した「たびすけ合同会社西谷」を創立。
2016年「一般社団法人東北インアウトバウンド連合」を創立し理事長に就任。
2018年「株式会社インアウトバウンド仙台・松島」を創立し代表取締役に就任。

※2022/03/23公開の記事を転載しています


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