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半世紀の歴史を持ちながらも中止となっていた伊豆稲取温泉の「どんつく祭」が、令和5年秋に4年ぶりの復活開催を果たしました

 
 
静岡県東伊豆町・稲取地区に古くから伝わる、全国でも珍しい奇祭「どんつく祭」。

男性のシンボルを祀るという全国的にもユニークな祭りとして、地域はもちろん観光客にも広く親しまれてきましたが、集客力の低下や予算の縮小など多くの要因によって、残念ながら4年前を最後に開催が見送られていました。
 
しかしかつて苦渋の決断で中止に至ったこの祭りが、インバウンド向けの新たな観光資源としてピックアップされ、地元有志の皆さんによって令和5年秋に見事に復活開催を果たすこととなりました。

そこにはどのような地元の想いと狙いがあったのか、稲取温泉旅館協同組合の田村事務局長に詳しいお話をお聞きしました。
 



1.かつて中止となったのにはどのような要因があったのでしょうか


どんつく祭は過去には6月の平日・2日間で開催されていて、その当時は土・日なみの大きな集客があったのですが、それが年を追うごとに少しずつ集客に苦労するようになりつつありました。
 
この祭りの集客が期待を下回るようになってきた中で、何らかのテコ入れが必要となり、第50回あたりから平日の開催を週末の開催に移行するなどの方策を取りましたが、それでも期待以上の投資対効果が見込めず、徐々に予算も縮小されていったというのが、これまでの経緯です。
 
祭りを開催しても観光客の来訪が見込めなくなってきた中、1回限りのイベントに予算を使うよりも年間を通じての基盤整備に使ったほうが良いのではないかという声がますます大きくなったことから、第53回の開催を最後に中止となっていたわけです。
 
今振り返ってみると、どんつくならではの御神体を祀った神輿やどん太鼓、芸者衆踊りなどを主体とした、昔ながらの祭りそのものに新鮮な魅力が減ってきていたのではないかと感じます。
 
またこうしたユニークかつセンシティブなコンテンツでもあることから、マスコミ取材や広告など、自主規制も含めてさまざまな縛りが表出してきたのも事実で、来場客からのクレームなどが出たということはありませんでしたが、少しずつ時代の感覚にそぐわなくなってきているという実感もありました。

2.そんな中、祭りの復活にかける地元の気運はどのようなものでしたか


どんつく祭が中止となり、さらに到来したコロナの影響も重なったことで、地元住民が楽しめるお祭りやイベントがほとんど行われなくなり、稲取に何となしの寂しさが広まるようになりました。
 
どんつく祭は地元に根づいて半世紀も続いてきた由緒あるイベントですし、地元の人々の心の中にもこの祭りには子どもの頃のかけがえのない思い出がたくさんあります。
 
そんな気分が少しずつ静かに蔓延する中、若手から「地元を元気にするために、何かやりませんか!」との声が挙がったのが、今回の復活に至る最初のきっかけでした。
 
コロナの終息から再び観光地としての取り組みを本格化させる中で、独自性を持った目玉イベントが必要となるのは、ある意味で必然でもありました。
 
しかしいざイベントの開発を検討し始めると、予算面や集客効果、関係者の労力などの総合的な視点から、新しい催しを一から創造するにはかなりの困難が見込まれることから、やはりどんつく祭を復活させるのがもっとも適切なのではないかとの声が日に日に大きくなっていったんです。
 
男性のシンボルを祀るというイベントのモチーフについても、全国には少ないながらも同様の祭りがあり、そこでは外国人が楽しそうに参加している様子がネット上でさかんに発信され始めていたことからも、これまで自粛のムードが強まりつつあったどんつく祭でも、イベント構成や発信の方法などを工夫すれば、これまでにない魅力を創り出すことができるのではないかという結論に達することとなったんです。


3.多くの方が関わる事業でもあり、関係者の合意形成にはご苦労があったと思いますが


いったん中止を決めた祭りを今になって復活するわけですから、地域内でもさまざまな意見があったのは事実です。
 
どんつく祭では50周年を機に新たな御神体を作ったばかりにもかかわらず、諸処の状況から中止をせざるを得なくなった経緯があります。
 
特にその際に地元のために憎まれ役を買って出て、中止という苦渋の決断をされた方々としては「復活するから賛同してください」と言われても複雑な心境なのは当然のことでしょう。
 
こうした事情に充分に配慮して、お一人お一人のお気持ちを汲みながら、復活すべき理由についてのご説明を繰り返すことで少しずつ合意をいただける方が増えていったことで復活開催への筋道が見えてきたわけですが、稲取の将来を担う若い世代の熱い声とエネルギーが復活実現への最大の原動力となったのは間違いありませんでした。
 

4.今回の復活開催には、インバウンドの補助金が活用されました


稲取のインバウンドの状況は、コロナ前とは大きく様変わりしてきています。

例えばこの2月の河津桜関係での入り込み状況を見ると、コロナ以前にはインバウンドの集客が期待できるコンテンツとしてあまり注目されてはいませんでしたが、今年はインバウンド客の入り込みが従来よりもかなり増加しているなど、伊豆ではインバウンド客が半島の先端エリアにまで足を延ばすようになっていることがわかります。
 
稲取エリアのインバウンド集客の土壌が育ち始めていることを背景に、今回活用した「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」への補助金申請にあたっては、どんつく祭というコンテンツをインバウンド対策の中にどのように組み込みむかを大きなポイントとしました。
 
おかげさまで関係各社の助力もあって申請もスムーズに行うことができ、無事に補助金の採択に至ることができましたが、地元としてもこの補助金だけに頼るのではなく、町や旅館組合による別建てのインバウンド対策予算を組み、台湾をターゲットとした誘客キャンペーンなども積極的に展開することとしました。
 

5.どんつく祭開催当日の様子はいかがでしたか


第54回のどんつく祭は、「どん太鼓」と「ばかばやし」「芸者衆踊り」をステージで披露するなど、従来の催しをさらに発展させた新たなスタイルでの開催にトライしました。
 
この実施についてもなかなか苦労は多く、いったん解散したどん太鼓のチームをもう一度新しく結成する必要があったため、地域の方にお願いして参加と協力を募りました。人数の面もそうですが練習期間も充分とは言えなかったのですが、直近までどん太鼓に参加していた方が中心になってくださって、何とか形にすることができました。
 
特に「ばかばやし」は、どんつく祭で披露するのは初めての試み。これは明治期から地元のお祭りで行われていた無言劇のような伝統芸能で、言葉が通じなくても誰にもわかることからインバウンドを意識して盛り込んだコンテンツです。

実はこれもまた今は実施されておらず、ばかばやしの保存会が学校などで教えているだけ。こちらも手探りでの実施でしたが、保存会の皆さんは今も身体が覚えているようで、結果的には見ごたえのある演目となりました。

ばかばやしの様子

 
「芸者衆踊り」についても同様に、地元保存会の方の協力や稲取以外の地区から参加してくださる方もあり、苦労はありましたがいずれも大成功だったと言える結果になったと思います。 

またインバウンド視点でも好まれる祭りにすることを意識した結果、一旦は歴史が途絶えていた「どん太鼓」や「ばかばやし」という観光資源を改めて今に蘇らせることができたという点で、望外の成果にもつながりました。 

その他にも、神輿では途中で降雨もありましたし、神輿の参加者を当日募集したものの思うように集まらなかったりと、来年の開催に向けての反省点も見つかりました。

また先にお話した新しい御神体のお披露目もしましたが、特に外国の方に向けては御神体の説明が必要なこともわかりましたので、来年はそのための看板を製作することも決定しています。 

次回に向けての課題もありましたが、当日の最終的な来場者数は宿泊客が1000名を超え、それに日帰りの観光客もおよそ1000名以上と、概算ですがおよそ2000~3000名ほどの来場者だったとカウントしています。 

外国人観光客も参加


中でも外国人観光客は、台湾のコーディネイター経由によるツアー客と個人旅行の方を合計すると126名ほどに達しました。東伊豆で開催された単体のイベントで外国人観光客を100名以上も集められたことは、地元稲取としても今後のインバウンド施策にさらに弾みを付けられるような大きな成果だったのではないかと思います。

今回の開催を通じて、関係者の間にはこうした取り組みを途絶えさせず継続していくことが大切だという共通の認識が芽生えています。

来年も今年と同じ秋季での開催を想定してはいますが、来年のメイン会場をどこに設定するか、また今回活用した補助金なしでの予算組で開催できるようなコンテンツや音響など、細部を詰めていく必要もあります。

まずは来年のお祭りの骨格づくりから徐々に固めつつ、より素晴らしい観光資源を作り上げていきたいと考えています。
 
 
稲取温泉旅館協同組合

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■実施/運営主体/一般社団法人稲取温泉旅館協同組合
■委託先/㈱エイエイピー三島支店:事業企画支援・補助金申請支援伴走、イベント、プロモーション関連手配実施


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