営業再開に向けて、従業員モチベーション維持への取り組み~山梨県 下部温泉郷「下部ホテル」の取り組み事例~
コロナ対応が続く旅館業界において、休業下の中で、雇用を継続し、再開後に速やかに営業できるようにするための体制づくりが課題となっています。そんな中、休業下において従業員のモチベーションアップを図る、山梨県・下部温泉郷「下部ホテル」の取り組みをご紹介します。
全国の多くの旅館同様に下部ホテルも、4/11~6/11まで休業としています。矢崎道紀社長は、コロナ前とコロナ後では、接客の応対も変化すると判断し、制限のある接客状況の中で、どのように私たちの心を伝えるか、その具体的なスキルを身につける研修が重要と考えました。
特に留意すべきは、再開時の安全安心を担保する取り組みです。そこで、休業期間こそ全社員を集めて研修ができる格好の機会と捉え、全社の一体感と相互への敬意を育むことも視野に入れた研修カリキュラムを組みました。
休業期間中に全社勉強会を開催
・対象は、パート社員を含む全部署全従業員。
・休業1か月を過ぎてから、1週間に1回の出社日を設定。
・再開に向けて心の準備、スキルアップの機会。
-主な研修内容-
①安全安心への取り組み
コロナ後の営業に際しては、今まで以上に厳しく安全安心への対策を実行しなければなりません。そのためには全従業員が感染予防に対して理解を深め、自分の関わることを手順として知るだけでなく、各部署でどのような取り組みが実行されていくのかを理解するようにしました。
②接客基礎トレーニングと映像教材を活用した接客研修
これまでの接客研修は、接客担当部署に限って行ってきていましたが、今回は全部署対象にしました。これは、マルチジョブ化を推進するチャンスでもあると捉えたためです。
しばらくは、お客様の利用が極めて限られる日も予測されるため、出勤するスタッフの人数を絞って運営するためにも、今までしたことのなかった接客も自分の仕事とする場面が出てくることになります。これはむしろ、全社でお客様に関わっていく意識を育むよい機会となりました。
③グループワーク
勉強会では、知識や技術を習得するだけでなく、「考える」「感じる」ことにも取り組みを実施。グループワークのテーマは、仕事を思い出し、仕事への意欲を実感できるようなものをテーマとして勉強会を行いました。グループワークは通常話し合いながら進めるものですが、感染防止の観点からシートへの記入式としました。
取り上げたテーマは、「私の仕事へのこだわり」。本人が記入したシートをグループ内で回し、その人への感謝や励ましのメッセージをグループ全員が順に寄せ書きにするというものです。メッセージに感激し、「自室の壁に貼っておきたい」と言う人や、「今まで言えなかったことが書くことで伝えられたよかった」と言う人もいました。
④再開後の新運営手順に関する実践トレーニング
「新しい生活様式」「宿泊業3団体発信の運営ガイドライン」を運営手順に落とし込むため、数回に渡って経営幹部会議で検討し、不手際なく実行できるように実践トレーニングを計画しました。具体的な距離感やタイミングなどを実感しておくことは、これまでどおりの接客を改める上で、特に重要になります。
また、お客様にご協力をお願いする場面や、ご不自由を承知で制限へのご理解を求めなくてはならないことも多くなります。ことばには十分に注意し、印象よく伝えられるかどうか、一人ひとり確認をしました。さらに、現場で実際に動いてみることで、運営手順の不具合も見つかり、再開前に調整も行うことができました。
このように準備をして再開の当日を迎え、お客様にご満足いただければ、仕事の充実感を取り戻すはずです。その準備をしっかり行っておいたことで、さらにモチベーションも高まるに違いありません。
従業員の願いと社長の想い
実は、この全社勉強会のスタートで、矢崎社長自らが従業員全員に伝えたことがあります。ひとつは、給与支給のことです。休業が続き、私たちの仕事はどうなるのか、それよりも生活はどうなるのか、と従業員が心配になるのは当たり前のことです。
社長は、「一番の願いは、みなさんに安心して働いてほしいということです。そのためにも、当初決めていた支給割合を一律に引き上げ、すでにみなさんのお手元に届けました。」と伝えられました。続けて、「以前から全社で満足度の向上に取り組んできましたが、今回、A社のクチコミの評価が「4.5」まで上がってきました。良い報告ができて本当にうれしいです。それでは勉強会を始めましょう。」と結びました。
社長は「頑張ってください」と言ったわけではなく、自分の思いを語り、報告をしたまでです。それでも、この話を聞いて、みんなの表情は変わりました。みんなで積み上げてきたこの努力を、なんとか止めないようにしたいという想いが共有された瞬間でした。経営者の想い、会社の方向性、それをわかりやすく伝え、全員が同じ方向に向っていることを実感することの大切さをあらためて学びました。
そして、その想いは地域へ
さて、この休業期間中の取り組みがひとつの成果となって現れました。旅館商売は地域と密接な関係がありますが、「時間もあるし身体も動かしたいから、地域の清掃をしよう」と従業員の有志がボランティアで清掃活動をすることになりました。
「数名でも集まれば、その集まった人数でできるところを決めよう」と言っていたのですが、初回から全社の半分以上が集まったのです。近隣の公共観光施設まわりや公園を中心に清掃をし、みんな実に清々しい笑顔を見せていました。働く仲間との一体感が育まれ、一緒に活動したい。そんな気持ちが自然と参加をつながったのだと思います。そして、これが再開後の大きな力になるはずです。
下部温泉郷 下部ホテル(山梨県・下部温泉)
〒409-2947 山梨県南巨摩郡身延町上之平1900(Googleマップ)
旅館・ホテル業界で長年の歴史と実績を持つ株式会社リョケンは、研修やサービス運営改善など貴館の経営改善のお手伝いをしています。
※2020/05/29公開の記事を転載しています
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