インバウンド&アウトバウンド。どうなってる?|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム041
◯旅館ホテル・観光にかかわる、老若男女様々なプランナーによるリレーコラムです。
さてさて。3月中旬には、マスクの着用も自主的な判断に任されるようになり、世界中を混乱に陥れた新型コロナウィルスも、5月8日から、日本の感染法上は、季節性インフルエンザと同じ第5類に引き下げることが決まった。ようやく、人が動き始めたことを随所で実感する。本稿では、備忘録的に、インバウンドそしてアウトバウンドの現状を書き記しておきたい。
まずはインバウンド。
東京では、大きなキャリーケースを引いた外国人観光客が明らかに増えてきたし、新幹線の中もだいぶ賑やかになってきた。
先日、たまたま、荒川区の日暮里駅に降り立ったが、駅前は、(決して大げさではなく)外国人観光客と思しき人たちでごった返していた。日暮里は、成田空港へのアクセスの要衝ということもあるが、古くから「繊維のまち」として発展してきた背景があり、今でも生地や資材を扱う店が90店舗以上も軒を並べている‘手芸の聖地’として、訪日外国人からもとても人気があるスポットだ。
加えて、これまた国内外を問わず、多くの人が集まる人気エリアの谷中・千駄木・根津(通称:やねせん)も近く、とにかくまぁ、人が多い。日暮里駅前の横断歩道を挟んで、大勢の(しかも多くはノーマスクで賑やかに会話中)の外国人と対峙して、ちょっとビビってしまった。
この辺りは戦禍を逃れた建物が多く残っており、ひと昔前は「谷中と言えば墓地と寺」と、地味なまちの象徴のように言われたものだが、そんなことは、今は昔。お洒落なカフェやショップも多く、完全にイメチェンした。周辺の賃貸住宅の家賃もうなぎのぼりだそうである。
帰社後、そんな光景を思い出しながら、デスクに向かって数字をチェック。日本政府観光局発表の資料によると、2023年3月の訪日外国人客数は、181万7500人。これは、2019年同月と比較すると、65.8%だそうである。現時点での、この数字を多いと見るか、少ないと見るかのご判断はそれぞれかと思うが、これで中国本土からの観光客が戻ってくれば、客数的には、ほとんどインバウンド回復、ということになる。
他方、観光庁が発表した2022年の訪日外国人旅行消費額は8978億円だそうである。これは過去最高を記録した2019年の2割程度に留まった。まぁ、これも客数の回復と比例して上昇グラフを描いていくであろう。
そんな中、政府が3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」を見てみる。基本計画の大きな柱は3つ。
1つは「持続可能な観光地域づくり戦略」。これは文字通り、持続可能な観光地域の整備に取り組んでいる地域を、令和7年までに100地域認定しようとするもの。国からのお墨付きというニンジンで、整備を加速させることが狙いだろう。
2つ目は「インバウンド回復戦略」。消費額の拡大や地方部の滞在日数の延長などが目論まれており、訪日外国人旅行消費額の目標を5兆円に定めている。ちなみに、5兆円とは、日本の防衛費と同じくらい。ビッグなビジネスだと改めて思う。
そして3つ目は「国内交流拡大」。これもやはり地方部にフォーカスされており、令和元年に3億人泊だったものを、7年までに、3.2億人泊まで伸ばそうとするものだ。消費額の目標は、令和7年までに22兆円(!)。
時を同じくして、観光庁は「観光再始動事業」の第一公募で採択された139件の事業を発表した。予算額100億円、最大8000万円の補助金が交付されるビッグな事業とあって、特別感のある魅力的な取り組みがラインナップされたように思う。
「JAXA種子島宇宙センターと連携した初の夜間開催の種子島宇宙芸術祭」ってどんなことをするんだろう?宇宙にも芸術にも深い関心があるわけではないが、なんだかワクワクする。「法隆寺でのオペラフェスティヴァル」なんていうのも、きっとステキだろうな、と想像する。
全体的には、スポーツツーリズム、ガストロノミーなどのトレンドを含んだ事業も複数あり、ちょっと変わったところでは、讃岐うどん店を舞台に香川県の職人と世界のアーティストによるエンターテイメントショーなど内容が容易に想像できない案も採択リスト入りしている。従来のゴールデンルート周遊型観光とは次元が違う、高い体験価値を提供することで、インバウンド回復を図るんだ、という意気込みにあふれている。リストを見ているだけでも楽しいので、ぜひご覧になってみてください。
そして最後にアウトバウンド。
前述のように、インバウンドは回復基調にあるといっていいと思うが、アウトバウンド、つまり邦人による海外旅行はどうか。
同じく、政府観光局の発表によると、2023年3月の出国日本人数は69万4300人。2019年3月の約36%と予想以上の足踏み状態にある。日本人の慎重な気質のせいなのか、円安が急加速したことが原因なのかわからないが、行動制限が解禁されたら、バリ島でパーッと散財してくるぞー、と意気込んでいた筆者自身も、今年の夏季休暇は国内旅行を考えている。
もちろん、マネー問題が大きく影響していることは間違いないが、正直にいうと、なんだか面倒になってしまったのだ。血眼になって見て日本人がいない穴場のホテルを探す、ユーザビリティが高いとは言い難いサイトで格安航空券を探しまくる、空港には2時間前に着く、チェックインの長い列に並ぶ、子供席のごとく狭っまいシートに座って我慢の9時間フライト、もうこういうことを考えるだけで気持ちが萎える。かつてはどれも、海外旅行の楽しみのひとつだったはずなのに。
しばらくアウトバウンド回復には貢献できないなぁ、という気がしてる今日この頃の私です。
▶観光再始動プロジェクト
▶観光立国推進基本計画
※2023/05/31公開の記事を転載しています
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