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きめ細かな気配りと優しさでどんなお客様にも満足度の高い宿泊サービスを提供、伊香保温泉ホテル松本楼 の「心のバリアフリー」の取り組み

ご存知のように現在の日本では高齢者や障がいをもつ方の割合がすでに人口の3割を超え、その同行者までを考慮すると旅館ホテルにとってこのマーケットは決して見過ごせない大きな存在となってきています。

そんな社会背景を受けて、観光庁では「観光施設における心のバリアフリー認定制度」を制定し、一般化しはじめているハード面でのバリアフリー化にとどまらず、さらにサービスなどのソフト面におけるバリアフリーの導入・普及を後押ししています。

さらに、滞在価値の向上や再訪促進、持続可能性などの実現を目的に、新たに「宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドラインに基づく登録制度」が創設されたことから、「心のバリアフリー」は今後の補助金制度での加点対象としての期待も高まっています。

心のバリアフリー制度の詳細については前回記事にてご紹介しましたが、今回はそれに続いて、心のバリアフリー制度を紹介する観光庁のYouTube動画にも登場された群馬県伊香保温泉ホテル松本楼の取り組みをご紹介します。


観光庁「宿泊業の高付加価値化のための経営ガイドラインに基づく登録制度」


1.1991年の改装を機に、「心のバリアフリー」の取り組みをスタート

ホテル松本楼が「心のバリアフリー」の取り組みを始めたきっかけは、1991年に行った施設の改装時に遡ります。

改装に合わせて女将の発案で新たに車椅子用のトイレを設えたのですが、リニューアルオープンを迎えて以降「車椅子のトイレがある」という理由でホテル松本楼を選ぶお客様が急に増え始めたのだそうです。

この状況を目の当たりにしたことで「バリアフリー環境を求めているお客様は自分たちの想像以上に多い」と気づいたホテル松本楼では、こうした方々に向けて宿泊施設として何ができるかを真剣に考え、さらなる具体的な取り組みを拡充していくこととなりました。

ハードを新たに整備するには多大な費用が必要になることから、その取り組みは既存の施設をいかにして活用するかに重きを置き、人的サービスやソフト面でのアイディアや行動の変革をもたらすことが主眼となりました。

研修の様子


2.どんなお客様にも、それぞれ多種多様なバリアがある

バリアフリーと言われると、館内の段差解消、手すりや車椅子の方のためのスロープの設置などがすぐに思い浮かびますが、実は多種多様なお客様が不便さを感じるバリアはそれ以外にも多岐にわたります。

例に上げた高齢者や車椅子の方に加えて、視覚が不自由な方、聴覚に不自由を持つ方、咀嚼・嚥下に不安を持つシニアや病後の回復期の方、さらには乳幼児、アレルギー、外国人客への言語対応、ハラールへの対処など、極論を言えばすべてのお客様ごとにそれぞれのバリアがあると言っても過言ではないかもしれません。

こうした状況をしっかりと把握した上で、ホテル松本楼では「あらゆる人に優しい宿」という目標を設定し、障がい者や高齢者、乳幼児連れのご家族、アレルギーの方、乳がん手術後の患者などまでを含め、誰もが旅行を楽しめるホテルとしてハード面・サービス面・従業員の心のバリアフリーを推進。

以下のように「心のバリアフリー」に対する取り組み・サービスを実施しています。

<ハード面の対応>
●車いすで洗い場まで入れるバリアフリー貸切風呂や、温泉付きバリアフリールーム、キッズルームなど、ハード面でのバリアフリーを充実化。
●また入浴に際して入浴介助が必要なお客様のオーダーにも対応可能。

<ソフト面の対応>
●ロビーチェックインの際、耳が不自由な方にはご説明事項を書いたカードを使用して手続き
●同じく視覚に不自由のある方には、スタッフが確認事項を口頭で読み上げ、サインの際には手を添えてサポート
●食事面では、ハラルやベジタリアン、ヴィーガン、精進料理、刻み食、ミキサー食、低カロリー食、離乳食など幅広く対応
●お子様連れのお客様の要望に合わせて、子どもの発育段階に合わせた4種類の離乳食や、通常のお子様ランチでは量が多い1歳半~3歳児程度に向けた「年少さんランチ」などの幅広い対応を実施
●目の不自由な方には献立の説明と同時に、「クロックポジション」を使って料理の配置をご案内
※クロックポジション:時計の短針が指している時間を伝えることで、視覚障がい者などと位置情報を共有できる手段
●朝食バイキングではカロリー表示だけではなく、ヴィーガン向けや、7大アレルギーなどについてもわかりやすく表示
●また朝食バイキング時には、会場内での料理の位置を記したバイキングマップを配布。

ハーフポーション例


3.「意識の共有」が、スタッフの自発的な取り組みへと結実

大切なのは、特別なお客様に対して特別な対応をすることではなく、「一律的でない多様な価値観を踏まえ、お客様の必要に際して適切に対応する」という前提のもとに、あらゆるお客様を受け入れる柔軟なサービスを提供できるよう、全スタッフに意識の向上と共有を図ることです。

そのためにホテル松本楼では、下記のようなスタッフ教育や勉強会などを積極的に開催し、「旅行者が不便と感じる事への気づき」を新入社員研修の段階から徹底的に学び身につけています。

先に挙げたロビーチェックインの説明カードも、実は入社3年目の若手社員が自ら発案して導入したもの。この事例に限らずスタッフ一人ひとりが自らの仕事をより良くするために「自分ごと」として自発的なアイディアを活かしているのが、ホテル松本楼の大きな特徴です。

<スタッフ研修の一例>
●従業員の幸福度を重視した「幸せセミナー」や、外部の旅館や取引先企業とゲーム感覚で経営を学ぶ「マネジメントゲーム研修」、「ハラルおもてなしセミナー」や「手話・筆談のポイント実習」などの多彩な研修を実施
●SDGsの考え方をベースとし、「食品ロス」「環境」「水資源」「廃棄物」「顧客満足度」の5つのテーマについて、職域を横断したグループごとに顧客の声を検討・分析。サービスの改善や新しいサービスの開発を行う
●新入社員1人に対して先輩社員1人を付ける「エルダー制」を導入。人材スキルの育成とともに離職率の低減に取り組む

こうした取り組みによって培われたスタッフの高い意識は、各種サービスの提供にとどまらず、接客全般のクオリティ向上につながり、宿泊客からも「優しいスタッフが多い」との声が聞かれるなど、どんなお客様に対しても温かな気持ちが伝わるような社風が生み出されています。

「心のバリアフリー」の認定マークを掲げる以上、今に満足することなくさらにお客様に喜んでいただけるよう努めていきたいというホテル松本楼。全国の多くの旅館ホテルにもこうした取り組みの輪が広がっていけば、「障がいのある方を特別に扱うのではなく、あらゆるお客様が楽しく安心して過ごせる宿」を実現するという「心のバリアフリー」の考えがさらに浸透していくこととなるでしょう。

顧客の多様性への対応は、グローバルなビジネスを展開する上で避けては通れない課題。

どんな顧客も取り残さず優しく迎え入れるためにも、今こそ旅館ホテルの運営に「多様な価値共創の仕組み」を取り込んだサービスイノベーションの検討をスタートしてみてはいかがでしょうか。

観光庁「心のバリアフリー」動画

▶ホテル松本楼 公式サイト

※2023/07/13公開の記事を転載しています


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