見出し画像

オール小諸であらたな観光推進体制の再構築へ邁進 -小諸 脇本陣の宿 粂屋(くめや)-

若年層へもアピール。日本の古き良き文化をリノベーション

長野県東部に位置する小諸(こもろ)市は、いにしえより噴煙を上げる浅間山と清流・千曲川に育まれた地勢のなか、小諸城址や北国(ほっこく)街道沿いに広がる小諸宿の懐かしい風景などが美しい、詩情あふれる高原の城下町です。

小諸市は観光資源・地域資源に恵まれ、またかつては島崎藤村をはじめとする小諸にゆかりの文芸家らの発信から、その地名は全国に知られ、日本有数の観光地でした。

しかし現在ではそうした知名度は高齢者層に限定され、若年層への知名度は微々たるものとなっています。

小諸市政としては「人口の減少」も大きな課題です。特に「2025年問題」とした団塊の世代が75歳を迎え、生産人口の減少による地域経済の縮小などを踏まえ、小諸という地域を子ども、孫の世代に引き継ぐために「郷土愛」をベースに住民や事業者、団体、行政がしっかりと連携し、継続的な観光地域づくりを推進し、「住みたい 行きたい 帰ってきたいまち小諸」を実現していくことが急務となりました。

こうした経緯から平成25年に観光業界のみならず、市内20を超える各団体の代表によって、「小諸市観光地域づくりビジョン検討会」が発足、平成28年2月には「小諸市観光地域づくりビジョン」が小諸市へ答申されました。

そして平成28年11月、小諸市・小諸商工会議所・旧小諸市観光協会が発起人となり、小諸市の観光戦略の舵取りを行い、ビジョンを強力に推進する組織として「一般社団法人 こもろ観光局」が設立されました。

こもろ観光局(日本版DMO)は「観光推進体制の再構築」を目指し、様々な業種からなるオール小諸としての理事会組織を持ち、会員事業者を中心に地域観光イベントや観光資源を活かした文化体験プラン、小諸の認知度向上の取り組みなどを行います。

また「観光を軸にした地域づくり(観光地域づくり)」を使命とし、観光を中心とした情報の集約をはじめ、小諸のリピーターを増やすための「滞在プログラム」開発や小諸ならではの「土産品」の発信を中心に、小諸の地域づくりに一人でも多くの人が関われるような取り組みを進めました。

そのなかでもリノベーションされた脇本陣の宿「粂屋(くめや)」を核とする「まちなかホテル構想」はこもろ観光局の根幹をなす事業の一つです。


茶器のように日常的に活用することでその輝きを増す旧脇本陣

「粂屋」は江戸後期に小諸宿の脇本陣(わきほんじん)として建てられました。北国街道を往来する大名行列のなかで、殿様や皇族など特別な地位の人々が本陣に泊まり、藩の家老など家臣や武士、公家や役人などが脇本陣に泊まります。

大名行列がぶつかったときには、格下の大名が脇本陣に泊まりました。また脇本陣はふだん、一般の旅籠としても営業し、町民の宿泊も許されていました。

粂屋は明治になってからも商用の客などに人気の高い宿で、昭和20年代まで営業を続けました。時代の推移に合わせて改修もされてきましたが、全体的には江戸期の旅籠の様式美を今に伝える宿でした。

いまから10年ほど前に空き家となり、取り壊されそうだったところを近隣の方やNPOが保存できないものかと働きかけ、小諸市が買い取りました。旅館およびカフェとしてリノベーションされ、「(一社)こもろ観光局」が指定管理者として運営を行っています。


粂屋を、旅の魅力が点在する高原の城下町・小諸観光の起爆剤に

粂屋は木造2階建て延べ487平方メートル。客室は5部屋で定員は計19名。切り妻造りの屋根や出梁(だしばり)造り、渡り廊下でつながる離れ座敷や漆喰塗りの土蔵、中庭や裏庭など当時の姿を極力残し改修されました。

できる限り歴史を残し、利便性とのバランスを図りながらも本物としての脇本陣本来の格式に重きを置いたリノベーション。それは現代の暮らしから見れば不便と感じられるものかもしれません。

しかしそこには他では味わえない、昔日の旅人が覚えた憩いや、どこか懐かしい温もりが感じられます。鳥の声で目覚め、雨の音を飽きることもなく聞くようなのどかな時間が得られる悦びです。粂屋の建物は2020年には国登録有形文化財にも指定されました。

桐と呼ばれる部屋は伝統的な書院造り。その構えを彩る欄間には「竹林の七賢人」の彫り物が施されており、この部屋の格式の高さを物語っています。大名の居室として使われていたものではないか、と言われています。

葵という名の部屋は格式高い奥座敷の一つ。日当たりが良く、中庭に広がる四季折々の花木を眺めながら、のんびりとくつろぐことができます。

蔵という名の部屋は、かつての土蔵をメゾネットタイプにリノベーションしたおしゃれな客室。大きな梁がそのまま残され、2階を寝室として利用できます。

またこのほかにも市民が利用できる「貸しスペース(6畳×2)」。「雅」と名づけられた部屋には炉が切られており、茶室として懸釜(かけがま)などお茶席にも利用されます。

茶は、陶芸や建築、作庭や季節の花、甘味などあらゆる日本文化を内包するもので、脇本陣という本物の舞台で豊かな和の世界に触れていただければ、との思いが込められています。


魅力あふれるアイコンが各地に点在。粂屋からはじめる「まちなかホテル」構想

粂屋のかつての土間を改装したカフェ「茶屋くめや」で供される朝食は「和風御膳」です。地産地消を基本に、白米は1844年、天保年間に創業した地元米店「古久庄 村松商店」の小諸産オリジナルブレンド米。

味噌汁は1674年、宝永2年創業の「山吹味噌」のあっさりした中に深い歴史を感じる旨味を活かして。

地場の高原野菜をたっぷり味わえるサラダにも山吹味噌にマヨネーズを和えた特製マヨドレッシングがよくあい、「出し巻き卵」や信州佐久の名産「小鮒の甘露煮」などが膳を彩ります。一方で粂屋は夕食を提供しません。

観光客が食事や宿泊を1カ所で済ませず、小諸の町全体をひとつの大きな宿泊施設と見立て、それを積極的に利用するよう促す「まちなかホテル」構想の核(拠点)と、粂屋を位置づけているからです。

市内を廻り、触れてほしい小諸の魅力は数多くあります。たとえば

●小諸は城下町であると同時に、北国街道沿いに開けた蔵造りの商家の町並みも、寺社仏閣も趣のある美しい眺めを誇ります。一歩街に出ればたちまち、城下町から宿場町、一大商都への転換の歴史が感じられます。
●コスプレやカメラ好きにはたまらない昭和ノスタルジーの街で最高の一枚をGETすることも。また「あの夏で待ってる」などアニメの聖地巡礼で賑わうポップカルチャーのまち。
●島崎藤村をはじめとする文豪や芸術家に愛された街はどこか懐かしくのんびりとした時の流れ。
●日本唯一の穴城「小諸城址懐古園」や日本唯一の浅間山登山道。断崖の布引観音や氷風穴など見所も多数。
●自然豊かな高峰高原には満天の星空や心おどるアクティビティがたくさん点在します。
●「ワインといえば小諸」と言われるほどの美酒の豊富さも小諸の自慢です。
●八つの源泉の違いを堪能できる温泉郷など。

旅する人は粂屋を拠点にまちなかへ飛び出していきます。この街には古きもの・新しきものが同時に存在し、訪れた人の心をとらえて離しません。そしてそれらは宿泊することで本来の魅力をより高めることができます。


地域から世界へ。新しい需要と観光客を喚起する新企画の数々

行政主導で改築し、(一社)こもろ観光局がリスタートした新生「粂屋」は、脇本陣をリノベーションした宿というトピックスもあり、2019年7月5日にオープン後、古き良き日本のもてなしが受け入れられ、新型コロナウイルス感染症以前には多くの旅行者が小諸を訪れました。

新型コロナウイルス感染症の蔓延以降は、他の観光地と同じように、小諸も宿泊客の大幅な減少に見舞われました。ただそうした中でも、近隣の方々に気軽に楽しんでいただける当地ならではの地域再発見プランも多数誕生しました。

コンセプトは粂屋に泊まることでしか味わえない新企画の提案。それはたとえば

●城下町・小諸を人力車ガイドとともに巡る「人力車プラン」。人力車へは、かつて身分の高い人だけに使用が許された、式台と言われる特別な玄関からそのまま乗り込め、お殿様・お姫様気分で江戸情緒あふれる界隈を軽妙なガイドとともに散策できます。
●ガイド付きプランには「こもろ観光ガイド協会」所属のベテランガイドさんと巡るプランもあります。
●レンタサイクルで小諸を軽快に巡る「レンタサイクルプラン(電動アシスト付き)」。
●テレワークを活用した「ワーケーション」プランは、静寂の空間で仕事と休暇を存分に両立できます。
●「あなたなら脇本陣で何をする?」をテーマに、「粂屋一棟貸切プラン」では様々なグループを対象に建物丸ごとを提供し、宿泊はもちろん、合宿や結婚式、記念日など自由に活用できるプランを展開。

などなど、粂屋は常に目新し企画を次々に打ち出していきます。そして、今後の社会の状況などで、またインバウンドにも挑戦し、小諸の新たな魅力の発信に向け、着々と準備を続けています。


地域資源を磨き、観光交流に活かすストーリーづくりと旅行滞在プログラムの造成

かつての小諸の観光推進体制は、市の商工観光課、商工会議所観光委員会、観光協会、その他数々の民間団体がなんとなく繋がっているだけの状況でした。情報の共有が希薄で、外部に向けての情報提供も少なく、事業活動、宣伝活動、ニーズや動向変化への対応にも限界がありました。

この体制を打破すべく、これまでバラバラに活動をしてきた様々な団体・組織はもちろん、一人ひとりの住民も含めしっかり連携し、明確な役割分担のもと、観光を切り口に、観光資源・地域資源による「オール小諸」での地域づくりに取り組み始めました。

その中心で、日本版DMO「こもろ観光局」が観光事業の発展と、観光をツールとした商工業、農業、交通機関、金融、教育、行政などの各種団体も含め、観光戦略の総合プロデュース役として、活力ある地域形成の維持と発展の推進を担います。

今後は地域観光イベントのサポートをはじめ、歴史の物語がある登山プログラム、味噌仕込み体験、流星群観望会や弓道体験など小諸らしい年間50回以上の体験プランの実施に加え、新しい着地型旅行商品を開発・販売し、近隣市町村の魅力も繋げた「点から面」での広域的な周遊ルートを今後も設定し、さらなる観光誘客を進めていきます。

また「滞在プログラム」「インバウンド」「土産品」「観光まちづくり」「次世代育成」の5つのワーキンググループを始動させ、小諸の事業者や団体が様々な人や形態、地域資源を活かしながら協働することで、結果的になんらかの形で自らにも利益が出る活動を進めています。

一人ひとりがこの街を愛せるように、地域が持つ資源を最大限に活用し、全く新しい需要を喚起し、地域はもとより世界から多くの観光客の来訪を願う城下町の新しい試み。そのチャレンジはまだ、はじまったばかりです。

脇本陣の宿・粂屋(長野県・小諸市)
〒384-0033 長野県小諸市市町1-2-24(Googleマップ
公式サイトはこちら 

※2021/04/30公開の記事を転載しています


毎週配信をしているリゾLABのメールマガジン「リゾMAGA」。新着記事の紹介、旅行・観光関連のデータやプレスリリースなど、旅館・ホテル業界に関わる方におすすめの情報を届けます。

▶▶メルマガ登録はこちらから


記事を最後までお読みくださり、ありがとうございます。励みになりますのでコメントいただくのも嬉しく、今後の参考になります。|また、業務ご相談を随時承っております。リゾLAB編集部を兼ねるエイエイピー観光戦略推進部の事業紹介サイト「伴走支援サイト」をご覧ください。