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事業再構築補助金を活用したリニューアルで、長年の課題を解決【長野県湯田中温泉 和風の宿 ますや】

長野県の北部にあって開湯1350年の歴史を誇る湯田中温泉は、自然と調和したどこか懐かしい温泉街の風情を色濃く感じられる人気の温泉地。この湯田中温泉に明治時代に創業して以来、名湯と四季の料理で高い評判を保ち続けているのが、今回ご紹介する「和風の宿 ますや」です。

日本旅館としての美質を今に伝えるこの宿では、今年4月に客室をリニューアルオープン。続けて秋からもレストラン、ロビー周りの改装リニューアルなどを順次進めています。



1. スタッフ動線の改善と顧客対応の向上、長年の懸案だった2つの課題

和風の宿 ますやではこれまで、お客様へのお食事を1階と2階の個室食事処、2階の宴会場、3階客室への部屋出しというさまざまな方法でご提供してきました。

しかし、料理を作る厨房が地下に位置し、できあがった料理の数々を計4フロアにまたがってエレベーターで運ぶ必要があることから、このスタッフの動線面での不都合をどのように解消するかが長年の懸案となっていました。

また、これと同じ要因によってお客様の料理に対する声が厨房に伝わりにくいなどコミュニケーション面での改善の必要もあったことから、従来の施設のままでは今後ますやがめざすおもてなしのスタイルを実現することが難しいと感じていました。

また、旅行マーケットというより大きな視点から見ても、団体主体から個人客主体へと旅行のスタイルが大きく様変わりする中で、現有施設のままでは将来的な顧客の拡大に対応しきれないと判断。2019年頃から具体的な改装の検討を始めていたそうです。

2.コロナ禍の中で、事業再構築補助金を貴重なチャンスに

そんなますやが、このほどリニューアルを決意し、実施するに至ったのは、事業再構築補助金の存在が決めてでした。

若手経営者の宮崎社長は、公的な各種補助金の存在に早くから注目し、かねてから自館の運営に活用可能な補助金についての調べを進めていたと言います。

そんなさなかに訪れたのがコロナ。お客さまの激減や営業への制限などに際して今どんな有効手段があるのか、様々な方策を模索しつづけました。しかし、このコロナ禍にあっても唯一のメリットと言えるものがありました。それは日々多忙な旅館業ではことに稀有な「じっくりと経営を振り返るための時間」が手に入ったという点です。

宮崎社長はこの貴重な時間を有効に活用し、以前のリゾLABの記事で紹介した地域農業とのコラボ事業を始め、将来の成長に役立つ新事業の開発や、これまでやりたくてもできなかった前向きな取り組みの数々を現実化しようと、積極的に計画を立案し補助金への申請を行っていきました。

その取り組みの結果が、今年4月の客室改装オープンと、秋から着実に進めているレストラン・ロビー周りのリニューアル計画です。

▲提案時のパースと改装後

3.旅館のノウハウを持つパートナーを求めて

客室数20室の小規模旅館であるますやでは、これまで大型のリニューアルを行った経験が少なく、そのノウハウも豊富ではなかったことから、補助金の採択が決まった後に宿の狙いを的確に反映できる業者の選定に取り掛かりました。

地域の建築会社をはじめとする数々の業者を自ら探し出しアプローチを行いましたが、そこで社長が直面したのが、宿側の意図を伝えるためのやりとりがスムーズに進まないという現実。一般的な建築業者には旅館に対するノウハウがなく、スタッフの動線改善ひとつを取っても宿側の狙いがうまく伝わらないというもどかしさを感じる中で、煩雑なやり取りもスムーズに行える株式会社エイエイピーを改装計画のパートナーに選びました。

観光・旅館業界で長年の実績を持ち、他施設の事例や情報などにも通じているエイエイピーでは、先のスタッフの動線改善を始めとして多方面での事業進捗サポートやご提案の数々を行わせていただくとともに、リニューアル後の広報計画までをワンストップで承りました。

▲ファサード改装の提案イメージ

計画を進行する中でご苦労された点について社長にお聞きすると、補助金を活用する際には「交付決定から施工・報告までのスパンが短いことに特に留意すべき」とのご意見が。

実際にますやでも、申請が採択されてからわずか3ヶ月後には事業をスタートしないと期限に間に合わなかったと言います。この短いスパンに対応するためには、事業計画を細部に至るまでしっかりと固めておくことが何よりも重要とのサジェストをいただきました。

事業再構築補助金は宿の改装を目的としたものではなく、あくまでも新たなチャレンジによって新しい収益を獲得することにその狙いがあります。ですから申請が採択されるためには、初期投資をいつ・どのように回収するのかといった収益予測を含めてシビアな計画を準備することが重要です。

旅館にとってこの補助金は、宿が抱えている課題の数々を解消できる大きなチャンス。有効に活用するためにも公募があってから計画を立案するのではなく、普段から「次の一手」を具体的に考えておくことがポイントだと言えそうです。

4.課題解決にとどまらず、高付加価値化をも実現

こうして補助金の採択を得て進んでいるレストラン・ロビー周りのリニューアル計画。既にリニューアルオープン済みの客室も含めて、今年の改装に通底する共通のテーマは「高付加価値化」です。補助金申請にあたってもこのテーマに沿った緻密な申請計画が立案されました。

まず。お部屋については、団体向けに利用していた客室を個室化するとともにその品質をグレードアップ。旧来の施設では団体向けか、新規客室かの2つの選択肢しかなく価格も二極化していましたが、このリニューアルを経て、ちょうどその間に位置する価格帯の客室が見晴らしの良い4階フロア「せせらぎ亭」に新たに誕生しました。

新客室は「世界のベッド」として知られるシモンズのベッドなど、利用客目線でのやさしい気配りが施されています。さらに、照明には組子の意匠を採用するなど、現代の和風旅館としての新たな立ち位置を表現しています。

また、スタッフ動線を改善するためのレストラン周りは、半オープンタイプのキッチン兼食事処を新設。お客様の目の届くところで作られた料理を、温かいまま味わっていただけるよう配慮されるなど、スタッフの配膳の手間を改善するだけでなく料理の質の向上をも実現しました。

さらに宿の食事時間のライブ感あふれる演出にも効果を表しています。

また、宮崎社長はこのレストランを単に宿の食事会場としてだけでなく、通し営業を行うことで観光地・湯田中温泉の新たな食事処として活用することも視野に入れているそうです。

宿泊客がチェックアウトした後の昼間は、外来のお客様に街のレストランとして気軽に立ち寄ってもらうことで、宿泊客以外の新規マーケットを開拓。また地域の他の宿とも連携し、連泊客やインバウンド客の新たな食事の選択肢とするなど、地域全体の活性化にも寄与したいと考えています。

5.お客様からの声と、これからの旅館像と

4月にオープンした新客室をご利用になったお客様からは、概ね高い満足度と評価の声が挙がっており、リニューアルから半年あまりで早くもリピートでのご利用客も現れはじめているそうです。

一方のスタッフ視点でも、ベッド化によって布団の上げ下ろし作業がなくなったことから、客室を準備するための作業効率が大きくアップしていると言います。

レストランのお披露目はまだ少し先となりますが、すでにスタッフからは動線が楽になったこと、これまでと比べてお客様に接する時間が取りやすい設計・レイアウトになっているとの声があるそう。

リニューアルによってスタッフの作業効率がアップするのはもちろん、業務連絡やお客様の声などがスムーズに伝わることで、これまで以上に相互のヘルプがしやすくなったレストラン。グランドオープンした後のお客様からのリアルな反応が、今から楽しみになります。

今の時代は、「旅館として何をすべきか」という選択が難しくなっているという宮崎社長。

今回のコロナのようにいつか有事があるということを前提として考えると、どんな時にも企業として成立していられるだけの収益を確保しておくことが何よりも重要だと考えているそうです。

またその一方で、和風の宿として日本旅館ならではの美質や魅力をしっかりと守っていきたいという思いも強く、日々大きく変わっていく観光マーケットの中で、その想いを「今のやり方」でどのように表現していくかが課題だと言います。

「旅館らしさ」とは何か。従来の思い込みから脱却し、改めて今の時代の旅館像を考えていくことはまた、恒常的に人手不足に悩まされている旅館の働く場としての魅力改善にもつながります。旅館とその文化を未来に継承していくためには、その担い手を作り育てることが何よりも大切。

今回のリニューアルが、お客様やスタッフの満足度に貢献するだけでなく、これからの旅館業を担う若者に「ここで働いてみたい」と感じてもらうひとつのきっかけになれば望外の喜びだと語ってくれました。

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※2022/12/27公開の記事を転載しています


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