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外国人の受け入れに伴う観光業界の課題と、インバウンド回復に向けて今から始めておきたい準備とは

2023年4月29日から、新型コロナウイルス感染症に起因する入国制限を、政府が完全撤廃しました。これは、本来同年の5月8日に予定されていましたが、ゴールデンウィーク期間中は、帰国者で空港が混雑する見込みがあったために、前倒しされたものです。

入国制限解除後、現在では訪日外国人は月間約215万人を超え、コロナ禍前の8割を越えるまでに回復しています。(2023年8月度、9月20日発表の資料による)

今後訪日観光客数が順調に回復すると、感染症拡大前を上回る数の外国人観光客が訪れることが予想されるでしょう。

本記事では、本格的な訪日外国人受け入れ再開に向けた観光業界の課題と、キーポイントとなる受け入れ準備について考えます。

出典:今後の水際措置について(2023年4月29日以降順次適用)

出典:訪日外客数(2023年8月推計値)

★この記事のポイント★
今後FIT(個人旅行)再開の機運が高まると同時に、海外からの来日観光客は爆発的に増加します。そのための受け入れ準備をいち早く進めるためにも、ぜひ今から人手に頼らない現実的な対策に着手しておきましょう。



1.日本の外国人観光客の受け入れ状況は

観光立国をテーマに掲げ、海外観光客の来訪促進を続けてきた日本。その効果もあり海外からの来日観光客数は年々伸長し続け、2019年には訪日外国人数が過去最高の3,188万人を記録するまでに至りました。

しかし、この成長を維持しさらなる観光客の増大をめざしていた最中に突如世界中に巻き起こったのが新型コロナウイルスの感染拡大です。日本でも感染防止のための水際規制の強化によって、観光目的の入国者がゼロとなってしまいました。

その後約3年の時を経た2023年4月29日午前0時、入国規制がすべて解除され、ようやくすべての人が、自由に制限なく日本に入国できる状態に戻りました。

新型コロナウイルス感染症が流行する以前の日本は、年間3,000万人を越える外国人観光客が訪れた人気の旅行先です。

規制解除後から現在までの間に、すでに多くの外国人旅行者が日本を訪れており、8月には月間215万人を越えるペースまで回復しています。

1月からの累計人数は1,500万人を突破しました。

5月以降順調に回復ペースが伸びているため、この先も順調に回復し、感染症拡大前の水準に戻ることも時間の問題と考えられています。

出典:訪日外国人旅行者数の推移
出典:訪日外客統計


2.2023年現在、インバウンドは回復傾向にある

2023年8月の訪日外国人回復率は、コロナ禍前の2019年同月比85.6%を記録しました。

回復率は7月から上昇し、コロナ禍後はじめて8割を超えています。

さらに、円安を背景とした外国人観光客の消費意欲の高さが、一人当たりの支出額を押し上げており、観光業界にとっては円安の恩恵を最大限に受けられているといえるでしょう。

一方、訪日観光客が急速に回復する中、旅行先がゴールデンルートと呼ばれる人気観光地に集中するため、宿泊施設の不足や対応する人手の不足などの問題が起こりはじめています。

今後は急増する訪日観光客を人気観光地に集中させないように、地方の観光資源を海外へ向けて積極的にアピールする取り組みが必要でしょう。

外国人観光客をいかに地方へ誘導できるかがこれからの課題です。

また、現在一人当たりの旅行支出が高いことは円安に大きく影響を受けている側面があります。

今後は、それぞれの観光地においてより高い付加価値を提供し、外国人観光客の旅行支出を増やせられるかがポイントです。

出典:訪日外客数(2023年8月推計値):報道発表


3.まずは東アジア各国への対応強化を課題に

日本のインバウンド状況を振り返ると、日本との距離が近く比較的旅行しやすいという背景もあって、これまでの来日観光客のほぼ7割を東アジアの国々が占めています。この傾向を踏まえると、インバウンド再開に向けてまずは東アジアの方々の受け入れ体制の整備に取り組むことがより現実的な対処となるでしょう。

東アジアの国とひと言で言っても、国や地域ごとに観光客のタイプや志向性、来日動機はそれぞれ異なります。特に来日観光客の多い代表的な国と地域の傾向を下記にまとめました。

●中国
世界最大の人口を誇り、国別に見た訪日外国人旅行者数と消費額はともにトップを占めています。一時の爆買い動向は若干下火にはなっていますが、インバウンド再開後は「中国人リピーターをいかに取り込むか」が依然として大きな課題として挙げられます。

●台湾
親日国でもあることから、特に個人旅行客の割合とリピーター率が高いのが大きな特徴です。インバウンド再開後は、この数年の間に溜まっていた来日へのニーズが開放されて、多くの台湾人が一気に日本に訪問することが予測されることから、今後の旅館ホテルにとっては最も注目すべきターゲットのひとつになるでしょう。

●韓国
韓国内ではこれまでにも日本は最も手軽な海外旅行先の一つとして認知浸透されており、リピーター率も高いレベルを維持しています。ただ気軽に旅行できる分、滞在日数は短めとなっているため、各旅館ホテルでは周遊型ツアーや各種の体験などを通して、この滞在期間を伸ばしてもらえるような工夫がポイントになります。

●香港
香港も親日感情の高い地域のひとつ。また香港人は海外旅行好きで、繰り返し日本を訪れているリピーターも多いことから、つねに多彩な楽しみ方や選択肢を提供できる商品プランの開発などもポイントとなるでしょう。香港では旅の情報収集に際して、今も紙媒体を重視する傾向があることから、香港への情報発信はwebと紙媒体の両方を活用するのが効果的でしょう。

●タイ
およそ100年前に国交が樹立したタイは親日国であり、コロナ禍前の2019年には130万人以上の観光客が日本を訪れています。タイ国民の海外旅行先として日本が4位であり、日本を訪れるタイ人の約8割はリピーターです。
滞在期間は1週間から2週間程度と長く、菓子や化粧品などの購入を目的とした30代の女性が多数を占めるため、ターゲットを絞った施策を立てることがポイントでしょう。

出典:訪日外客数(2023年8月推計値)|報道発表
出典:訪日外国人の消費動向

●フィリピン
赤道付近に位置するフィリピンには冬がないため、フィリピン人は温泉や雪など日本の冬に魅力を感じる傾向があります。
また、桜の季節も人気です。
親日度も高く、日本で暮らす技能実習生は全国籍中4位を占めます。
技能実習生の家族が来日するケースも多いと考えられるため、日本独自のよさをアピールし、再訪日につなげることが重要です。

出典:令和3年度業務統計 | 外国人技能実習機構

●ベトナム
ベトナムも親日国として知られています。
2019年時点では訪日ベトナム人の7割が初来日といわれており、課題はその後のリピートにつながらないというところが挙げられていました。2023年9月現在では、日本への再訪意向は、必ず来たいが72.4%と、他国に比べると低めの数値を取っているもののリピーター育成には成功しているといえるでしょう。
ベトナム人は自国にはない日本の四季や自然、伝統や文化、買い物などを楽しみに日本にやってきます。
これからリピーターを増やすための施策を取る上で、彼らが求める地方資源を活用した「体験型観光が楽しめる商品」を開発できるかが鍵となるでしょう。

出典:訪日外国人旅行者(観光・レジャー目的)の 訪日回数と消費動向の関係について
出典:訪日外国人の消費動向


4.中国人観光客に依存しすぎない対応が求められる

新型コロナウイルス感染症拡大以前の2019年、日本を訪れた中国人観光客は過去最高の年間950万人を超えました。

全国の観光地に多くの中国人観光客が訪れ、いわゆる「爆買い」が話題に上がったことも記憶に新しいところです。

ところが新型コロナウイルス感染症が流行して以降、他の国々と同様に訪日中国人も激減しました。

2023年4月の規制解除以降、多くの国からの訪日観光客が回復に向かっていますが、依然として中国からの観光客は低迷したままです。

背景には中国政府当局による団体旅行の規制があります。

中国政府による規制リスクを鑑みると、これまでのように中国人観光客に依存する形でのインバウンド施策は難しいでしょう。

・中国人観光客数は未だ回復傾向を見せず

2023年8月10日、中国政府は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年1月から停止していた日本への団体旅行をようやく再開しました。

とはいえ、現時点では中国人観光客の訪日がどのように回復するかの見通しは立っていません。

中国人にとって日本は依然として人気の旅行先です。

10月の国慶節に大型連休があるため、その連休にどれだけの中国人観光客が日本を訪れるかが注目されています。

・中国以外のインバウンドに対する受け入れ準備が重要

前述の通り、中国からの観光客回復は未知数といえます。

中国は経済規模も大きく世界トップクラスの人口を誇る一方、同時に政治リスクも抱えているため、これからのインバウンド施策は中国以外の国からの観光客受け入れが成功するかが課題となるでしょう。

距離的に欧米よりも近い中国以外のアジア圏からの訪日観光客を増やさなくてはなりません。

そのためには、人気観光地を巡り都心部でショッピングを楽しむ従来型の旅行だけでなく、地方の特色を活かしたソフト面での魅力を体感できる旅行商品が求められています。


5.これからのインバウンドを受け入れるために重要なこと

中国人観光客による「爆買い」がピークとなった2015年、消費の主役はモノでした。

2016年以降の外国人観光客を見ると「買い物」消費の需要は減少傾向にあります。

理由としては、中国政府による自国消費減少の懸念から、関税を引き上げたことが一因として考えられます。

その他、その旅行先でしか得られない体験を重視する観光客が増えたことも原因といえるでしょう。

新型コロナウイルス感染症の流行以降、欧米からの観光客はモノ消費額よりもコト消費額の方が上回っています。

全体を通した、インバウンドの回復率を見ても、モノ消費よりもコト消費の回復率の方が圧倒的に高いのです。

例えば東京の浅草では、外国人観光客が浴衣を着て記念撮影する様子を見かけることがあります。これも、コト消費を楽しんでいるといえます。

外国人観光客の消費傾向がコト消費に向かう状況は、今後もある程度の期間続くでしょう。


6.インバウンドの受け入れ準備が重要な理由

2011年に約620万人であった訪日観光客は、2019年には3,100万人を突破しました。

同じく2011年にはインバウンド消費は8,000億円程度でしたが、2019年には4兆8,000億円にまで達しています。

インバウンドは宿泊や飲食、買い物やサービス、その他移動する際の交通費など、わが国に大きな経済効果を生み出します。

具体的なメリットとしては、海外から多くの観光客が日本全国を訪れることで、地域の活性化と観光業の発展が期待できるでしょう。

また、観光客増加は地域雇用の活性化にもつながります。そのため、地域の魅力をアピールするための案内板や外国語が堪能なガイドスタッフの整備など、各地域毎の受け入れ準備は喫緊の課題です。

受け入れ態勢の充実が観光客の満足度を上げ、その後リピーターやクチコミの獲得につながります。

さらなるインバウンドの誘致には、受け入れ態勢を充実させることが重要です。

出典:訪日外国人消費動向調査|観光庁


7.着手すべきは多言語での接客対応と、DX化の推進

インバウンド再開にあたっては、観光庁から「外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン」が示されています。ガイドラインの中では、各宿泊事業者におけるコロナ感染防止対策が適切に実施されるよう、ロビーや食堂等の目立つ場所のほか、更衣室や浴場等でも外国語のリーフレット掲示等を行うことなどが具体的に求められています。

さらに旅館ホテルの現場では、外国人旅行客に不便を感じさせることのないように、適切でスムーズなコミュニケーションをとるための工夫も求められます。現状こうした接客対策がまだ十分でない旅館ホテルも多いことと思われます。

インバウンド再開後は、言語や文化の違いなどによるトラブルを回避し、外国人観光客に十分に日本を楽しんでもらえるようなおもてなし対策が必要です。

具体的な課題のひとつとして、公式サイトや館内案内など案内ツールの多言語化が挙げられます。

基本的な接客姿勢としては、これまで国内旅行者に対して充分な対策を行なってきた実績をベースとして対応することが可能だと思われますが、接する相手が外国人ということになりますので、各言語への対応とコミュニケーション上の工夫は必須です。

とはいえ宿泊業界の慢性的な人手不足の状況を考慮すると、多言語に対応できるスタッフを新たに拡充するのはなかなかハードルが高いと思われます。
そこで現実的な対策として挙げられるのが、多言語対応の客室タブレットや、スマホを活用した外国人接客サービスなどの積極的な導入・活用です。

各旅館ホテルの現状に合わせて多彩な接客ツールやシステムが選べますので、人手に頼らずにスムーズな外国人観光客への対応を実現できる方策として、ぜひ各種デジタル機器を業務内に組み込んでみてはいかがでしょうか。

またこうした個々のデジタル機器の積極活用に留まらず、さらに踏み込んで旅館ホテルのDX化を推進することもインバウンド再開を視野に入れた対応としてお勧めできる取り組みです。

PMS(ホテル管理システム)やキャッシュレス決済などもインバウンド需要の獲得には特に効果の高いDXツールです。またこれらのDXツールはインバウンド対応と同時に、旅館ホテルの経営改革や事業の効率化にも大きく寄与しますので、中長期的な視点からこのインバウンド再開を大きなチャンスと捉えて、ぜひ前向きに導入を検討してみることをお勧めします。

約3年の空白期間を経てようやく訪日観光客が戻り、新型コロナウイルス感染症拡大前の水準まで迫ってきました。

訪日する観光客は今後も引き続き急速に回復し、以前を上回る状況に達すると考えられます。

円安に伴う外国人観光客の旺盛な需要を取りこぼさないような、対応策の策定が重要です。

このビッグウェーブを逃さないよういち早いインバウンド対策を整備するためには、デジタル化による業務の自動化や省人化システムの構築はもはや必須の課題だと言えるでしょう。

株式会社エイエイピーでは、各種デジタル機器はもちろん、PMSを主体としたサービスシステムの構築まで、貴館の早急なインバウンド対策に役立つDX対策を幅広くご提案し、現場への導入のサポートを承っています。今後の対策についてのお悩みやご相談があれば、どんなことでもぜひお気軽にお声がけください。

※2023/10/19公開の記事を転載しています


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