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ベランピングや補助金の活用など精力的なチャレンジを通して、新たな旅館像の確立と地域の魅力づくりに取り組む

Vol.020 おごと温泉 びわこ緑水亭
株式会社緑水亭 代表取締役社長 金子憲之さん

比叡山延暦寺を開創した最澄によって開かれたと伝えられるおごと温泉は、1200年もの歴史を誇る琵琶湖西岸の温泉郷。目の前一面に広がる静かな湖面の眺望を楽しめる絶景の宿「びわこ緑水亭」は、限りなく上質なおもてなし空間から醸し出される「寛ぎの時」を大切にしています。

伝統を大切にしながらも従来の旅館の枠組みに囚われず、より魅力に満ちた旅をおとどけする新たな挑戦の数々を繰り広げている代表取締役社長の金子憲之さんに、こうした取り組みに通底する想いについてお聞きしました。
 

-旅館としてはユニークな「ベランピング」の企画が大きな話題となりましたが、これはどのような発想から生まれたのでしょうか?

そもそもはコロナとそれに伴う事業再構築補助金が、きっかけでした。

補助金の6千万という金額は旅館としてとても魅力的で、できるだけ早い段階で申請を行いたいと考えていました。特に実施したかったのは露天風呂付き客室への改装だったのですが、補助金の意図や要項を確認すると単なる改装や増室計画では採択に至るのは難しいことから、どんな企画なら採択されるのかを繰り返し検討しました。

そこで注目したのがグランピングです。

全国で新たなアクティビティとしてグランピングが注目され始めた時期で、ここ滋賀でも施設が誕生するなどの追い風の中、当館の庭や敷地内でグランピング環境を整備できないかを多くの関係者と相談したのですが、主にスペース的な要因からグランピングは難しいものの、まだ目新しい「ベランピング」であれば実現可能ではないかとの展望が見えてきました。

▲ベランピング特別フロア「湖游」

ただベランピングはまだ新しい概念であり、これまでに取り組んだ旅館や事例も多くはありませんでしたので、アウトドア関係の雑誌や情報などから広く情報を収集しながら、旅館でのベランピングの実現性を探っていきました。

客室のベランダを活用することから火類は使用できませんし、また家庭的なベランピングを再現するだけでは緑水亭が企画する意味もありません。限られたスペースと既存の事業計画を踏まえながら、旅館ならではの魅力的なコンテンツとして仕上げるにはどうしたらいいかを模索する中で、評判の良い夕食はこれまで通り提供し、朝食にキャンプ要素のあるベランピングのお食事を用意するなどの工夫を盛り込んで、今の完成形に至ったわけです。


-そのベランピングが6月にスタートを迎えました。実際にご利用になられたお客様からの反応はいかがですか?

今回の事業では6室の客室を改装しましたが、新たな付加価値を加えることによって従来よりも高い客室単価を設定し、売上の10%という補助金の要件をクリアしています。

オープン後に実際にお泊まりになられた方はこれまでの当館のリピーターがメインで、これまでの緑水亭とは異なる新たな宿泊体験を求めている方が多いという印象です。

特に初めてベランピングを体験した方からの評判は良く、例えばチーズフォンデュの朝食が楽しめたり、近江牛や近江鴨など地元ならではの魅力ある食を味わえたりと、緑水亭ならではのラグジュアリーなもてなし感を損なうことなくベランピングのムードを満喫できたとのお声も頂き、中には貴重な体験としてSNSに投稿してくださる方も少なくありませんでした。

▲ベランピング朝食


-緑水亭は旅館としてはいち早く自動精算機を導入するなど、DXを始めとする新たな取り組みに積極的な印象がありますが

自動精算機の導入は8年前のことで、メーカーさんの話では旅館では初めての導入事例だったとお聞きしています。

当時すでにゴルフ場や病院などでも自動精算システムが普及していたので、旅館でも問題なく受け入れてもらえると思っていたのですが、正直なところ導入からしばらくの間はなかなかお客様から積極的にご利用いただけませんでした。

そんな中で巻き起こったのがコロナ。密回避や非接触が社会的に推奨されてお客様側の考え方や視点もそれまでとは大きく変わり、さらにGoToトラベルで精算時に長蛇の列ができることも追い風になったことで、自動精算機の使用率が格段に向上することとなりました。

非接触のライフスタイルにとってこうしたIT機器はとても親和性が高いのが特徴で、ある意味ではコロナがデジタル化を普及させるための大きなターニングポイントになったのではないかと思います。

▲自動精算機

旅館の業務は特にアナログな部分が多いのが特徴なのですが、デジタルが得意な分野はそれに任せ、旅館として拡充すべきサービスに人的資源を集中させるなど双方の特性を活かすことができれば、生産性の向上とお客様満足度の向上を両立させることができると考えています。

現在も配膳ロボットの導入計画を進めている最中なのですが、ペーパーレス化などまだまだ解決していきたい課題も数々ありますので、この歩みを止めることなく「表はアナログ・裏はデジタル」というスタイルをより積極的に推進していきたいと思います。


-その他にも人材教育や生産性の向上にも力を入れていらっしゃいますね

人にしかできない業務に人材を集中させることでサービスの向上を図ることを企図すると、旅館にとってはこれまで以上に人の質の向上が不可欠な要素となります。

働き方改革をする前は、私自身が講師となって訓練を実施し、日頃から人の資質の向上に尽力してきましたが、今は講師の先生を招き年2~3回研修していただいています。

▲接客サービス訓練の様子

旅館特有の労務課題となっている中抜けの問題も、サービスの提供方法の変更やシフトの改善などによって解消の方向に向かっていましたが、イレギュラーなコロナの影響によって市場も現場も大混乱し、お客様の動向も読めない状況に直面したことで、当初の予定通りにシフトを組むことも困難になってしまっているなど長年の懸案が一時棚上げになってしまっていたのも事実です。

しかし、今はいよいよリスタートの時期。改めて今後、自館の人材経営のスタンダードなスタイルを固めていきたいと考えています。

-金子社長は、今後どのような旅館像の確立を目指しているのでしょうか

観光業界を取り巻く状況はこれまで以上に大きく様変わりしています。

特に国の政策として「観光立国」が掲げられたことによって、日本には急激に多くの外国人が来訪するようになりました。またこの外国人の来訪によって、観光業・旅館業というものに対する国からの見方も大きく変化し、今回の事業再構築補助金の扱いなども含め、国の基幹産業、成長産業として注目されるようになってきています。

そんな国を支える産業に携わる者としては、毎年少しでも成長していかないと、国に貢献していると胸を張ることはできません。その意味でも将来に向けて日々成長するための具体的な努力を欠かさないことが、私たち旅館業の最大の使命だと考えています。

おごと温泉の各旅館・ホテルはそれぞれがこのエリア内でどのポジションをめざすのかを明確にし、各館ごとの個性やスタイルを活かした成長を図ることで、地域全体の総合的な繁栄を目指していこうという考えが根付いています。

自館の強みを生かした戦略によって個々が成長していけば、エリアとしての「共創」も加速し、より魅力的な地域づくりが実現していくはずです。

先にもお話しましたが、海外からの観光客が大きなウェイトを占めるようになれば、当然のことながら今後は国内だけでなく世界のリゾート地やホテルを相手に競うこととなります。

目の前のこと、自館のことだけという狭い視野ではなく、これからの日本の観光・旅館というマクロな視点で捉えることで、地域と自館がともに真の成長拡大を図っていけるようにしていきたいと思っています。

現在の滋賀県の旅館のメイン顧客はシニア層ですが、こうした考えのもとに将来を描いていくためには、現在のお客様だけに頼るのではなく、これまで以上に若いマーケットに向けて旅館の魅力をどう伝えていくかが最大の課題になります。

そんな中で私が特に注目し、大きな可能性を見出しているのがSNSです。「これからの旅館のあり方」という大きなテーマを常に念頭に置きつつ、SNSでバズるような若者向けの施策を日々展開していくことで、将来の旅行マーケットを担うお客様を育て、また拡大していきたいと思っています。

▲公式Instagram

■プロフィール
おごと温泉 びわこ緑水亭
株式会社緑水亭 代表取締役社長 金子 憲之さん

1997年21歳で株式会社緑水亭に入社。
フロント部門や経理部門などを歴任し、専務取締役を経て、2018年に代表取締役社長に就任。
旅館の新たな可能性を拓くことを主眼として、観光DXや人材経営など従来の枠に囚われない多彩なチャレンジを展開している。

▶びわこ緑水亭公式サイト

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※2023/01/25公開の記事を転載しています


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