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京都のインバウンド事情から展望する、旅行産業活性化への道

長きに渡ったコロナがいよいよ収束を迎えるに伴って、旅行業界が待ちに待ったインバウンドの回復も現実のものとなり、各地に海外観光客によるにぎわいが戻り始めています。

そんな中で今回は、訪日客の集客力において国内でもトップを誇る京都の中心地に位置する旅館こうろの北原会長に、現地の方の目から見た京都のインバウンド事情についてお話をお聞きし、全国の観光地の明日のにぎわいへの道を展望してみたいと思います。

北原会長

-訪日観光客の受け入れが解禁されてから現在までの京都のインバウンドの状況はいかがでしょうか


3月現在での京都のインバウンドの状況は、回復の途上ではなくすでに最盛期に近い活況を呈しています。

京都駅を見てみればひと目でわかりますが、すでに駅周辺は海外からの観光客で溢れかえっていて、少なくともコロナ前の80%以上、もしかすると100%に近い数にまで回復しているのではないかというのが私個人の実感です。

3年前のコロナ以前の訪日観光客の上位は中国・韓国・台湾、次いでアメリカでしたが、京都はもともと欧米からの人気が高い都市のため、今もアジア圏の方より欧米の方の方が目立っています。

-まだ回復に至っていない中国の影響についてはいかがでしょう


ご存知の通り、国内の観光産業に大きな影響を与える中国に関しては、現在も回復してはいません。欧米からの観光客が増えてはいるとは言え、日本との距離感の問題などから多くの観光地にとっては欧米がそのまま中国の代わりとはならないというのも事実です。

日本までの旅程に5時間以上かかる遠地の国々からの来日数は、総ボリュームで見て200万人ほどというのが今の現実的な期待ラインなのではないでしょうか。その視点で国内全体を見れば、今後大きな注目点となるのが、中国の観光客の回帰、加えてその他のアジア圏、特に東南アジアからの訪日客をどれだけ増やせるかという2点になるかと思います。

アジア圏からの訪日客の増加についてはそれぞれの国の経済状況が大きなカギを握りますが、現在の日本の円高の状況は直接的と言えずともけっして小さくはない好影響を与えていることに間違いはありません。海外の人々の目には、今の日本の商品やサービスの価格帯は自国の物価と比べて驚異的な安さとして映るようですから、この機会を最大限に活かして、コロナからの完全回復を果たしていければと思っています。

-そんなチャンスを活かすために、注目すべきこととは


京都に関して言えば、2025年に控えた大阪万博が近々での大きなチャンスとなります。その他の地域に関しても、こうした大きなイベントなどを軸に、地域や業界が力を結集して魅力的なコンテンツの数々を開発し、それをどれだけ効果的にアピールできるかが、今後の展望を占うカギとなるのではないでしょうか。

国内の観光需要に飛躍的な拡大がなかなか見込めない中、観光業・宿泊業としては外貨の獲得によって経営基盤の強化を図り、それを土台としてさらなる宿の魅力アップ、お客様満足度の向上、そして従業員満足度の向上と年収の増加へと続く好スパイラルを形成していくことが理想です。

近い将来に「宿泊業で働くことがステータスになる」、そんな未来への可能性が感じられる産業を形作っていくことこそが、私たち旅館ホテル経営者に課せられた命題なのだと私は考えています。

-京都という人気観光地ならではの課題は


京都や大阪ではコロナ以前から、インバウンド客を対象とした新しい宿泊施設が急激に増加してきています。特に中国資本の施設が多いのですが、今はこうした施設がコロナからの回復に伴ってどんな動きをしていくのかを注視している状況です。

もちろんインバウンド客の増加は歓迎すべきことですが、同時に宿どうしの競争が激化していくことも考慮しなければならないなど、コロナからの回復にあたってはプラス面とマイナス面が同時に進行しているというのが正直なところではないでしょうか。

-多くの観光地では人手不足が顕在化してきていますが


それは京都でも同じです。京都の場合は近隣に大学が多いため、他地域と比べると学生のアルバイトでまかなえる環境があるだけ恵まれていると言えますが、それでも必要な人材を実際に確保するのはそうそう簡単なことではありません。

実際に求人を出していない宿はないと言ってもいいほど、あらゆる宿が人手の確保に向けて全面的に取り組んでいますが、そこでネックになるのが人件費と教育です。京都では時給1000円以上が現在のアルバイト募集の最低ラインで、日々この金額も高騰し、また競争も激化しているというのが現状。また人手が確保できたとしてもすぐには戦力化できませんので、その訓練期間をどう回していくかという問題もつきまといます。

またコロナは、旅館ホテルにとって「人材の断絶」という点でも大きな影を落としています。それは新人を指導できるベテラン社員が、このコロナの3年の間にいなくなってしまっているという点に顕著に現れています。

新人を確保する苦労、戦力化までの期間の問題、そして指導する従業員がいないという課題。この3つが複層的に絡み合っているため、インバウンドを中心として客数そのものが回復してもそれを受け止められる体制がまだ整っておらず、お客様がいるのに全客室を稼働することができないという宿もかなりの数に上っています。地域内に若者の数が多い京都ですらこうした状況ですから、若手の人材が少ない地方ではなおさらなのではないでしょうか。

こうした課題のすべてを一気に解決することはできませんので、まずは自らの宿の体質を固めて、回復する市場を可能な限り取り込むことに専心し、課題をひとつひとつ解決しながらある程度の時間をかけて経営環境を整えていくことになるでしょう。市場そのものが追い風に転じた今、コロナ禍の中でも国からのサポートがあったように、自らの行うべきことをきちんと行っていけば金融機関からの力強い支援も必ずや期待できるはずです。

-インバウンドをチャンスとして、これからの旅行市場を活性化するためには


私はこれまで長年にわたって旅館の経営者として日本の観光や旅の現状にアンテナを張ってきましたが、日本国内にはそんな自分でさえまだ知らない魅力的な場所がたくさんあります。たとえ毎日旅行しても一生のうちに訪れきれないほどの豊かな観光資源が眠っている日本。それは真の意味での観光大国だと思っています。

インバウンドは今後さらに地方へと波及していきますが、その隆盛は、日本の若者にも必ず大きな影響を及ぼすはずです。私の住む京都という街は、主要な観光ポイントを中心としてそれぞれの各エリアが長い歴史の中で多彩な魅力を培ってきた土地です。

そんな京都で学生時代を過ごした若者が、自分の地域に戻って京都の情報をフィードバックし、故郷の魅力や文化度を向上させようとする動きも各所で活発に展開されています。こうした動きを地域振興・観光振興にしっかりと結びつけ、インバウンドを日本の若者に日本の良さを再確認してもらうための大きなチャンスとして活かすことで、国内旅行の気運を高めていくことが、各地域や観光業界が一丸となって取り組むべきテーマでしょう。

現在シニア層が下支えしている国内旅行をより活性化していくために不可欠なのは、若い世代への旅行マーケットの拡大です。そのためにもお客様と同じ価値観を持つ若手のキーマンが、新しく柔軟な発想とアイディア、若い顧客層に訴求できる魅力的なコンテンツの開発、そしてデジタルマーケティングの縦横な活用など、従来のワクや常識にとらわれない「これからの旅行業界」を形作っていくことに、私は期待しています。

時代の中で山あり・谷ありは、当然のこと。

確かにコロナはこれまでに出会ったことのない大きな衝撃ではありましたが、これを次の世代への有用な試練として捉え、豊富な経験とノウハウという資産を活かして、これからの旅行業界を側面支援していくことが、私たち世代の役割ではないかと思っています。

※2023/04/13公開の記事をを転載しています


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