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昇龍道の事例にみる広域連携・産学連携による新たな着地型ツアー商品、「現代によみがえる大伴家持・万葉の旅」の開発事例

越中および能登(越中国)は、万葉集撰者の大伴家持が国司として赴任したことで、万葉集に多くの歌が収められている地域であり、万葉集が「令和」元号の由来になったことも契機となって近年注目度が高まり続けています。

今回の記事では、観光誘客拡大のための資源の掘起しや企画立案を担当する自治体・DMOの観光担当者の皆様にとっての貴重な参考事例として、(一社)昇龍道ドラゴンルート推進協議会が実施した「現代によみがえる大伴家持・万葉の旅」の企画背景や実施概要についてご紹介します。


1.アフターコロナの観光誘客拡大策の柱として

全国の観光地にとって、アフターコロナにおける国内外からの誘客に向けた商品造成が喫緊の課題となっていた中で、(一社)昇龍道ドラゴンルート推進協議会では、令和4年度 観光庁 地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出事業として、既存の地域資源であり、また近年注目の高まっている万葉集をモチーフに掲げた「現代によみがえる大伴家持・万葉の旅」を企画開発することとなりました。

万葉集編纂の第一人者である大伴家持は、746年(天正18年)29歳のときから5年間に渡って越中守(国司)に任ぜられて現在の富山県高岡市に在し、万葉集に収録された計473首の家持の歌のうち、223首を越中国の赴任中の歌が占めています。

また748年(天正20年)には能登巡行を行いましたが、この旅のハイライトは香嶋津(現在の七尾港)から熊来(現在の七尾市中島町)へと至る船旅で、その折に歌に描かれた能登半島の東岸のたたずまいや当時の食などは、今も往時と大きく変わらない風情を残しています。

また万葉研究の第一人者であり、大阪大学名誉教授、甲南女子大学名誉教授、高岡市万葉歴史館名誉館⾧などを歴任された故・犬養孝先生の教え子が和倉温泉・大観荘の女将を務めているなど、万葉集に深い見識を持つ人材が地域内にいることも、事業推進への大きな足がかりとなりました。

※本事業は、地域団体である「昇龍道ドラゴンルート推進協議会」が、富山県高岡市、石川県七尾市の行政団体・観光協会等の観光団体の連携を受けて、観光庁の事業公募に採用された事業です。

万葉の歌が詠われた場所のひとつ・雨晴海岸

2.「万葉の地」という、地域の価値ある歴史資源を再発掘

「令和」命名や超訳・現代語訳でブームとなった万葉集。越中国司時代の大伴家持が多くの歌を残した高岡・能登エリアはまさに万葉の地と言うことができますが、しかしこれまではその価値ある歴史資源がツアーテーマとして十分に活用されているとは言えませんでした。

その歴史資源を観光資源として再発掘するために注目したのが大伴家持の「能登巡行」です。

国府である伏木を出発し、氷見から志雄に抜け、羽咋から七尾へと進み、七尾からは中島へ舟で渡り、さらに陸路を輪島を経由して珠洲まで。そして珠洲から伏木へは富山湾を舟を使って帰り着いたという行程で行われたこの旅を現代に再現。

香嶋津(現在の七尾港)から熊来(現在の七尾市中島町)への船旅をハイライトとして位置づけるとともに、家持の居所付近の一部にある高岡市万葉歴史館と歌を詠んだとされる二上山やゆかりの地を訪れ、その随所で家持一行の巡行風景に現在の風景を重ねることで、家持が詠じた歌への想いを体験できる旅として「現代によみがえる大伴家持」を地域の新たな観光商品として確立することをめざしました。

3.大伴家持が体験した奈良時代の海の旅を、ヨットで再現したツアー

万葉集に関心のあるグループ・個人を主なターゲットとした「現代によみがえる大伴家持」は、家持の船旅の一部をヨット(大型双胴艇)で再現し、家持が訪れたとされる七尾市中島町の神社と資料館をガイド付きで見学する1泊2日ツアー及び旅ナカプランの構成となっています。

ツアー初日は高岡駅への集合でスタート。高岡市万葉歴史館で学芸員のガイドによる見学を経て、昼食後は和倉温泉ヨットハーバーより約2時間半のヨット乗船を体験。

2日目は、家持が訪問した七尾市能登中島の神社とお祭り資料館を案内人によるガイド付で見学するというコースが基本となっています。

このツアーの立ち上げのために、昇龍道ドラゴンルート推進協議会では下記のような事前準備や取り組みを実施しました。

①旅行商品確立調査(探訪予定地の現地調査・商品構築に向けての関係者ヒアリング)

大伴家持巡行ルートなどを含んだツアー行程を確定のために事前に探訪候補地・施設を実際に踏査し、細かな留意点のピックアップととりまとめを実施。
併せて船旅再現の安全性についても関係者との間で十全の協議を行いました。

②旅マエweb提供「万葉集と越中守時代の大伴家持」学習コンテンツプログラムの整備 

 一般のツアー参加者に提供する旅行商品付帯サービスとしてはもちろん、本事業は修学旅行、教育旅行等のコンテンツとしても有望であることから、青山学院大学経営学部・玉木欽也教授が代表を務める青山ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社が持つ産学連携ノウハウを活用して「事前学習プログラム」を構築し、提供のための環境を整備しました。
                                           

③ガイド研修を実施

和倉温泉大観荘大井女将によるレクチャーを行い、ツアーのハイライトである七尾市内の船旅をガイドするための人材を複数名育成しました。

④モニターツアー実施

一般客向けの実施に先立って、旅行会社の企画担当者等を招き、1泊2日の日程で実際のコースを体験していただくモニターツアーを実施しました。

⑤確立したツアーの広報

印刷物とHPを併用したツアー広報を展開するためのツール作成・整備を行いました。

ガイド研修風景


モニターツアーでのヨット体験風景

4.事業実施によって得られた大きな成果

地域の看板旅行商品のひとつとして成立させることをめざしたこの事業。「現代によみがえる大伴家持・万葉の旅」の実施によって、当初の目的どおりに大手旅行会社によって令和5年夏季に商品化が実現されました。

またこれまで活用が不十分だった能登の万葉資源に光を当てた新たな魅力の創出が実現できたこと。観光資源として地域の海のさらなる活用を目指す和倉温泉にとってもヨットクルーズを組み込んだ商品化が地域振興につながるとしてこの事業を歓迎していること。さらには高岡から七尾にかけての能登半島の東側を舞台として、富山県と石川県の県境を跨いだ広域観光連携の実現に結びついたことなど、得られた効果は大きなものとなりました。

「昇龍道」をより多くの方々に知ってもらうためには、ルートの終着地(目的地)である「能登半島」の素晴らしさを伝える必要があります。

日本の原風景が楽しめる日本で初めて世界農業遺産に認定された「能登の里山・里海」と、長い歴史の中で育まれた伝統的技術、文化や祭礼の真の魅力を伝えるためにも、関係者・関係団体が広いエリアを横断して連帯感を強め、体験を通じた新しい観光コンテンツなどを充実させていくことが重要です。

この「現代によみがえる大伴家持・万葉の旅」は、セントレア(中部国際空港)から北陸へと至る日本の新たな観光ルート「昇龍道」を盛り上げていくため、推進者である昇龍道ドラゴンルート推進協議会が、地域とともに考え、汗をかき、実行し、喜びをわかち合った最新の観光商品開発プロジェクトとなりました。

モニターツアー(高岡駅にて)

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■実施企画・主体/(一社)昇龍道ドラゴンルート推進協議会
■連携団体/富山県高岡市、石川県七尾市、(公社)高岡市観光協会、(一社)ななお・なかのとDMO
      和倉温泉観光協会、青山ヒューマン・イノベーション・コンサルティング(株)、金城交通(株)
■委託先/㈱エイエイピー名古屋営業所:旅行商品確立調査、WEBサイト制作、動画制作、ガイド研修運営、モニターツアー運営等
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※2023/11/09公開の記事を転載しています


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