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温泉神社|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム033

以前のコラムで一度触れたかもしれないが、私は初めての温泉地に立ち寄った時、最初にその土地の「温泉神社」をお参りする。

温泉地の生業は何で成り立っているかと言えば、「温泉」に他ならない。その温泉に対して、その温泉地に住む人たちがどういう気持ちを表して大切にしているかが、温泉神社の境内や本殿ににじみ出ているからだ。

温泉を神とすれば、日参とまではゆかずとも毎月境内を整え、参道の雑草を取り、本殿を掃除し、お供えを交わす。幕や鈴緒やのぼりの日焼けをチェックして朽ちていたら新調する手はずも取れれば。・・・これら一連の所作は、ほんの1時間にも満たないものだ。なのに、訪れた温泉神社の多くは荒れていることが多い。

境内の草はボウボウ、参道もゴミが落ちており本堂は埃がたまり、お供えも枯れて、幕や鈴緒も朽ちている。さらに本堂の裏には祭事に使う道具や幟が山積みになっていることもある。ザンネンの一言である。

まちおこしのお題をいただき、その地を訪ねた時には、真っ先にそのお話をすることにしている。それは前文にある「気持ちや姿勢」だけでなく、個人のお客様にもおおいに影響のあることだからだ。

個人のお客様が温泉地に停留して街歩きをするとき、必ずマップの中心に温泉神社があることが多い。スタートはここからということになるのだが、最初に荒れた神社を観て、お客様はなんと思うだろうか?「え?ここは温泉地よね?なのになんで?」と思わせてしまってはおおいによろしくないのでは?

以前、街おこしのワークショップの番外活動として当地の温泉神社を地元の方々と一緒に清掃していたことがある。ほんの2時間程の作業中にも、3組ほどのご夫婦や一人旅らしい方々が50段もあろう長い階段を登っていらした。そこに居合せた温泉地の方々が「いやあ、きれいにしてるとこを観て頂いてよかった!」と胸をなでおろしていた。来訪された方々も「いい街だね」と思っていただいたにちがいない。

温泉神社のしつらいを整えたら、次はその周りの道すがらとなる。荒れはてた空地や、朽ちた看板はないか?橋や道路の手摺が錆びてボロボロになっていないか?路地に汚いものが置き去りになっていないか?廃屋の壁に蔦が蔓延っていないか?・・・など、気になる処は諸々考えずにとにかく整える。そうやって、少しずつでもよいから整えるエリアを広げてゆけば数年後には素晴らしい温泉地に生まれ変わる。私はそう信じている。

街おこしのワークショップでよく出るお話が「清掃に対する費用はでるのか?」というオハナシ。住人と行政側がそれでやりとりする。だが、ほんとにそれにお金がいるだろうか?確かに公共物の破損や、廃屋などはお金の問題もあるが、ほとんどの街の乱れは、ボウボウの雑草や見栄えの悪い諸々がそのままの状態にあることで、雑草は刈ればいいし、見栄えの悪いものはかたずければいいだけなのでは?と思ってしまう。

組織作りも大切、仕組みづくりも大切だが、そういうことを無意識にできる人達をより多く育てるのが街おこしの一番の課題になるかと。

九州の黒川温泉では、「黒川温泉 一旅館」を旗印にあげている。黒川温泉の30軒の「旅館は客室であり、道路は廊下です」ということだ。様々なお部屋(宿と湯)が愉しめて、それをつなぐ廊下(道のしつらい)にも心配りの景色づくりをするために年間で数百万円を道路の植栽にあてている。

勿論手入れも自分たちで行う。もう半世紀もそれを続けているのだ。人気のある温泉地には、見えないところできちん続けてきた蓄積があり、それをやり通す人達がいるものだ。

黒川式に例えれば、温泉神社はお家の「神棚」となる。これはおろそかにできませんね。さて、皆さんの温泉地の「神棚」と「客室」と「廊下」はどうなっていますか?チェックですね!

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※2022/08/31公開の記事を転載しています


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