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和倉温泉が「泊食分離」に地域一体でチャレンジ!ナイトタイムエコノミーの新たな取り組みがもたらした展望とは

【今リポ!】今、伝えたい!最前線リポート Vol.004

デジタルの普及や生活スタイルの大きな変化に伴って、旅館・ホテル業界においても「旅というモノ」のあり方を改めて捉え直すべき模索の時代が到来しています。

そんなマーケットを背景として、一般社団法人 ななお・なかのとDMOが起案した“旅館と街の美味しい連携”「七尾&和倉 灯りと食のほっこりナイト」推進事業が、令和2年度 夜間・早朝の活用による新たな時間市場の創出事業に選定されました。

和倉温泉に宿泊し、夜の食事は市街の飲食店を利用するという泊食分離型商品「まち食STAY」を中心に、宿泊客に街での夜間消費を促すためのライトアップやプロジェクションマッピングなど多彩なコンテンツを並行して展開したこのナイトエコノミー事業。

国内有数の温泉観光地である和倉温泉が地域一体となって泊食分離に取り組んだプロジェクトとして観光業界でも大きな注目を集めました。

今回の今リポでは、この「まち食STAY」プロジェクトを推進運営した能登DMC合同会社・業務執行社員の宮田清孝さん(和倉温泉ホテル海望 総務部長・業務管理部長)にお話をお聞きしました。

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和倉温泉が「泊食分離」に挑戦した今回の企画、その背景にはどんな理由があったのでしょうか

個人客が旅の主流となりお客様それぞれに異なる多様なニーズが生まれてきたことに伴って、以前から旅館でのお食事提供に新たな課題の数々が顕在化してきていました。

例えばお客様の好き嫌いや嗜好が多様化する中で、従来のように料理長の考えや想いだけで料理を決めることが難しくなってきたり、また数の揃った食材を使った大ロットの料理を得意とする旅館では、レストランのような小ロット料理への対応が十分に行えないことなどがその代表的なものです。

さらに労務面でも、働き方改革を受けて昔のようにふんだんに時間を使ったきめ細やかな対応も難しくなってきていることなどから、今後どうしたらお客様にご満足いただけるお食事を提供できるだろうかというのが多くの旅館ホテルの共通の悩みでもあったのです。

旅館ホテル側がこうした課題を抱えているその一方で、若手料理人を中心として「能登の産物をもっと美味しく提供しょう」という意欲のある飲食店が、地元にはますます増加してきていました。

近年の和倉温泉を取り巻くこうした状況下にあって「何かを変えていかねば」という気持ちを抱いている関係者は少なくありませんでした。

そんな土壌の中から、旅館ホテルが頑なに自館での食事提供にこだわるのではなく地元の飲食店と協力・連携することができれば和倉温泉にお越しになるお客様にもっと良い食事を、もっと良い旅をご提供できるのではないかという考えが自然に生まれてきたんです。

旅館としては飲食売上げが減るという側面も持つ「泊食分離」は、これまでの和倉温泉の常識を大きく覆すものではありますが、今のお客様のニーズがそこにあるのならチャレンジすべきだという気運が高まり、旅館ホテルのおもてなしと能登ならではの美味しい食事をうまく組み合わせて、能登・和倉地域全体の活性化に結びつけようという今回のプロジェクトに至ったわけです。


プロジェクト立ち上げから事業スタートまで、約半年という短い準備期間でしたが

このプロジェクトは2020年4月前後に構想が生まれ、2020年11月スタートと約半年の期間に一気に進められました。

事業細部のツメから、参画する旅館・ホテルや飲食店への事業説明と理解賛同、またお客様からのご予約とプラン申込みのシステムの整備などまで、この短い期間にやらなければいけないことは本当にたくさんありましたので、期間ギリギリまで粘ってようやく販売開始にこぎ着けたという印象です。

今回の夜間・早朝の活用による新たな時間市場の創出事業は観光庁の通常の補助事業とは異なって有識者の方のコーチングを受けながら進めることが求められましたので、こちらサイドの事情だけで進めるのではなく、有識者の方からのさまざまなアドバイスを受けながら意見をすりあわせていくためのやりとりにも時間が必要でした。

こうした事業運営のすべてを能登DMCがお受けしましたので、実質6名体制でフル稼働でした。メンバーはそれぞれもちろん本業を持っていますので、本業以外の休日をほぼ準備に費やしたというのが実感ですね。

また旅館はもちろん地元の飲食店の皆さまにとっても初めての取り組みでしたので、皆さんにしっかりと説明を行い、相互のコミュニケーションを取ることによってきちんとしたご理解をいただく必要もありました。

お店によっては例えば精算の頻度を月に1度ではなく月に2度にしてほしいなどのご要望もあり、こうした細かな点においてもできる限りご希望に合わせられるよう柔軟に対応しました。

旅館・ホテルはもちろんですが、飲食店さんもさまざまな事情、課題を抱えて頑張っていますから、運営側の事情を押しつけることにはならないよう配慮しながら、こうした方々の課題解決をお手伝いできる取り組みにしていきたいという思いが強かったですね。


地域や業界からの反応、参画した旅館・ホテルや飲食店の皆様の声はいかがでしたか

今回の事業を実施した2020年11月から2021年1月にかけてはちょうどGo To トラベルキャンペーン(以下Go To)の時期にあたり、高単価の宿泊商品がお客様に受け入れられやすい土壌があったというのがプラスに働いたと思います。

また同時に、Go Toが終わっても価格にふさわしいだけの高い安全性や安心品質、他のお客様が気にならないプライバシー性の確保など、お客様それぞれのニーズを満たしてさえいれば高単価商品でも購入してくださるお客様はたくさんいるんだということに気づけたというのも収穫のひとつだったと思っています。

数字的にはコロナ禍というイレギュラーな時期での実施だったため、正確な比較こそ出せませんでしたが、新企画商品の売上げとしては非常に手応えのある実績を残すことができました。

これも今後引き続いてこの事業を展開していくための大きな力と自信になったと思います。

また、ありがたいことにこの事業は飲食店さんにもかなり積極的にご参画いただくことができました。

和倉温泉エリア内にとどまらずエリア外の飲食店からも多くのご参画をいただいたことで、和倉温泉に泊まったお客さまが温泉街のエリアを越えてお食事を楽しみに出かけるという新たな流れも実現できたと思います。


プロジェクトの運営を通して気づいたこと、発見したことなどはありますか

今回の事業は、エリア外の飲食店にとっては和倉温泉の宿泊客という新しい顧客の獲得を、そして宿泊されたお客様にとってはこれまでになかった旅の食事の楽しみを、とそれぞれに大きなメリットを提供できる機会となりました。

私たちはこれまでお客様をエリアというワクの中で捉えることが多かったのですが、今回の経験を通してお客様は必ずしもエリアという条件だけに固執しているわけではないのだということを、驚きとともに気づかされたというのが正直なところです。

またフタを開けてみて初めて分かったことなのですが、実は参画された飲食店にもそれぞれのお店のお客様からのニーズがあり、和倉温泉の旅館・ホテルとより深く連携・交流できる枠組みを求めていたということも大きな発見でした。

宿泊されるお客様というのは、いったんお宿の中に入った後は各施設ごとに工夫された個性的なストーリーに沿って旅を楽しんでいくことになります。

しかしお客様本位で考え直してみると、それぞれの旅行者にとっての旅はお宿にチェックインする前からすでに始まっていますし、またお宿を出た後にも続いているわけです。

私たち旅館・ホテルはどうしても宿という視点だけでお客様を見てしまいがちですが、お客様の旅行行程全体の中におけるお宿の位置づけやそのあり方を客観的に見直すことが重要なのだと、改めて認識しなおす必要を強く感じました。

例えば和倉温泉はお客さまがそぞろ歩きできるような街並みや風情があるだろうか、見て歩いて楽しめるお店があるだろうか、もしないのならエリアをもっと広く捉え直して、お客さまが能登の美味しいものをタクシーで食べに行く…そんな非日常の楽しみを味わえるような受け皿をご提供できる体制が、これからますます重要になってくると思っています。


インバウンド客を含めた次なる展開についてお教えいただけますか

海外からの訪日客についてはコロナの状況下、残念ながら対象から外さざるを得なかったのですが、本来このような趣旨のプロジェクトは国内以上に日本の旅への感度が高いインバウンド客にこそ、最も反響が得られる企画だと考えています。

しかし逆に言えば今回、国内限定企画として実施した経験から見出された課題や改善点は、今後インバウンド客を含めたより大きなプロジェクトを成功に導くための貴重な資産になったとも思っています。

現在は引き続きより快適でユーザビリティの高いシステムの拡充と整備を進めている最中ですが、インバウンドを視野に入れた場合は特にこのシステムの充実や発信の方法がポイントになってきますので、幅広い対応力のあるシステムを1日も早く完成させることに尽力しています。

またおかげさまで今回参画いただいた旅館や飲食店からは、システムの準備が整い次第ぜひまた参画したいという嬉しいお声もいただいていますし、能登DMCのメンバーを始め、意を同じくする商工会議所や青年会議所などの方々からも「次はこんな企画はどうか?」「こんなアイディアを盛り込みたい!」などの積極的な意見が行き交うなど、プロジェクト実施前に比べても地域全体の意欲は非常に高まってきていることが実感できます。

もうひとつ今回残念だったのが、コロナ禍のさなかでの実施となったため対前年同時期比などの客観的な成果比較ができなかったことです。しかしお客様はもちろん関係者や地域の方々の反応や熱意など、先にお話ししたように十分以上の手応えを感じさせてくださっていますので、今後の取り組みをますます楽しみにしているところです。


この貴重な取り組みを経て、今後の展望に悩んでいる皆様にお伝えできることがあれば

観光業界にとって大きな時代の変遷の中にあり、さらに今回のコロナの影響も加わって世の中がつねに二転三転している今、旅館の経営者から街づくりを推進している方々まで観光に携わる多くの方がどう対処したら良いのかを迷い、悩んでいる状況にあります。

しかしマイナス面だけを見て悲観するのではなく、いったん見方を変えてみれば、従来の囲い込みの時代から地域共創の時代へと向かう新たなチャレンジを行うことのできる貴重なチャンスだと捉えることもできるはずです。

何かを変えたり、これまでになかった取り組みを行う時にすべての方の賛同を得るのはなかなか難しいことです。そんな中で私が新たなチャレンジのためのポイントだと感じるのは、何よりもまず同じ危機感や目的を持った仲間・同士を集めること。そしてそんな仲間を集められる仕組みや枠組みを考えることではないかと思っています。

そしてもうひとつのポイントが、数字・売上げ面でしっかりと利益が出せる企画を立案することです。ただ「考え方を変えましょう」と提唱するだけではなかなか人は動きません。

しかし「このチャレンジをすれば、数字面でもこれだけのメリットが生まれる」という裏付けが提供できれば、賛同してくれる方は飛躍的に増大するはずです。

この点をしっかりと押さえた上で、地域ならではのオリジナルな企画を練り込んでいけば、きっと大きく成功に近づくことができるのではないでしょうか。

能登DMC合同会社
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※2021/06/29公開の記事を転載しています


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