見出し画像

斬新で自由なアイディアで地域に眠る観光資源を掘り起こし、新たな「旅のコンテンツ」を創造する

Vol.023 旅ナカラボ合同会社 代表 野添幸太さん

かつての団体・グループ旅行から、個人旅行へと主流がシフトし、また従来のモノ消費からコト消費や体験重視へと大きくトレンドが移り変わっている観光業界。

各旅館ホテルにおいてはこうしたお客様の受け入れ体制の整備は進んでいるものの、具体的にどんな旅を企画・提供すれば良いのかについては明確な答えが見つからずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介する野添幸太さんは、旅行会社で新規事業開発担当としてさまざまな旅行・観光の事業企画の開発・運営に携わってきた豊富な経験を活かし、これからの観光に新たなビジネスをもたらす「旅ナカラボ合同会社」を設立。

既存の観光資産に新たな光を当て、魅力的なコンテンツへと結実させることで、『日本の旅をもっと便利に、もっとおもしろく、アップデート』する活動を展開しています。

そんな野添さんに今の観光の課題と、今後展開すべきことなどについて広くお話をお聞きしました。

‐「旅ナカラボ」ではどのような業務を行っているのでしょうか?

今、他業種からの参入も含め、観光に関連した新規事業を立ち上げたいという方は非常に多くなっています。

しかしその一方で、「イメージしていることを絵にしてくれる」人がいないことに困っているというのが実情です。

私は「観光新規事業開発支援プロデューサー」という立場から、ビジネスとして成立できる骨格を組み、企画書にまとめ上げることで、そんなお悩みに応えることを大きな役割の一つとしています。

これまでの「観光」という枠にとらわれず、新しい切り口や他事業とのコラボなどを柔軟に取り入れることで、これからの観光地の魅力を創造する取り組みを支援し「旅をもっとおもしろくアップデート」できる新たなビジネスを生み出したい。それが私たち旅ナカラボの願いです。

‐お客様のイメージを整理し、具現化するための方法論とは?

重要なのは、お客様としっかり話をしてご要望を整理し、どこに課題があってどんな解決策があるのかを見つけ出すこと。

「モヤモヤしていることを聞き取り、カタチにして見せる」こと、それが事業開発支援のスタートです。

特に地方の場合は予算もシビアになるため、現実的なゴールを見定めた企画立案をするとともに、それが実現できるかどうかについての緻密な検証も必要になります。

「お金を出してでも解決したい何かがある」方に、出したお金以上のリターンを得ていただくためも、旅ナカラボでは、お客様からのオファーをいかにして「お金になるビジネスモデル」にまとめあげるかに、特に重きを置いています。

‐具体的なアイディアは、日頃からストックされているのでしょうか?

現在、旅ナカラボのサイトでは、これまで私が考えた100のアイディアを無料公開しています。

これは主として「これからの観光業」に必要なものをピックアップし、半年間かけて立案したものなのですが、このアイディアの数々をご覧になった方から「このアイディアがほしい」「これに近いことをちょうど考えていた」などの声がますます増えてきています。

そのうちのいくつかをご紹介すると、ランニングマシンでの走行と連動して映像が動いていく仕組みを応用して、高齢者向けの運動不足解消に寺社詣で映像を流しながら楽しめるようにしてみてはどうかというアイディアに対して、「ぜひ一緒に進めたい」と声がけをいただき、ビジネスに結びついた事例があります。

また観光地を体験しながら奥深い魅力を学べる企画として「クイズツーリズム」というアイディアも公開しているのですが、新潟県上越市において「鉄道とクイズの旅」という形で実現しました。

そんな風にサイトで公開している100のアイディアをお客様がご覧になることで、よりリアルなイメージを描きやすくなったり、基本のアイディアをベースにお客様とのディスカッションを展開し、アイディアがさらにレベルアップしたりと、より地域の実情にマッチした企画としてブラッシュアップされるケースも少なくありません。

そういう意味でも、地域観光で悩みや課題を持っている方は、ぜひ一度このアイディア集を見ていただければきっと何らかのお役に立つのではないかと思っています。

‐多くの方の声から垣間見える、地域観光の課題とは?

全般的に高齢化が進む日本では、地域振興のための積極的なアクションを起こせない地域がますます増えていきます。

これは確かに逆風ではあるのですが、ひとたび見方を変えれば、意欲はあってもなかなか参入できない若手にとっての大チャンスだと捉えることもできます。

地域観光を支える方々の高齢化によって地域の持つ集客力を低下させてしまうのではなく、今ある基盤の上に若い力をプラスすることによって、地域の魅力をアップデートすることは十分に可能ですし、また今こそそれを行うべきだと思います。

先にクイズツーリズムのお話をしましたが、私がこの企画を実施した経験から改めて感じたことは「頭と身体を使うと日本の旅はもっとおもしろくなる」ということです。この企画は、地域の観光資源そのものには手を付けず、旅行者の「体験」の手法を変えるという、いわばソフト面においての改革となっています。

「体験」は人の記憶をより強化する効果がありますから、観光ガイドに説明されるのではなく自分自身が体験することでその地域の印象がより鮮明になり、また「次はまだ体験していないことに挑戦してみよう」というリピートのモチベーションにもつながります。

またクイズツーリズムに家族で参加すると、その知的要素も相まって、観光マーケットでは注目されることの少ない「お父さん」が元気に活躍するシーンもよく目にしたのも、今後につながるヒントの一つになるかもしれません。

さらに「体験」はインバウンドでも注目されていることから、地域をより深く知り味わうことができる企画として、日本の歴史や文化についてあまり情報を持っていない外国人に対してもこのクイズツーリズムは高い効果を発揮するはずです。

一つの効果的なアイディアを基軸に狙いを実現するとともに、さらに広い範囲に効果を及ぼす企画へと昇華させることができれば、費用対効果の高い新たなビジネスへの道が拓けます。

とは言え、アイディアの立案とその事業化、サイトやSNSなどのメディアを活用した広報から、イベント運営まで、新たな取り組みを推進するには幅広いジャンルにまたがったノウハウやスキルが必要になります。

中にはこうした業務を単館で行えているある意味スーパーマンのようにできてしまっている旅館ホテルもありますが、それはごく一部のこと。ほとんどの方はこれらをクリアするために困っています。

「何かをしたい」「新しいことを始めたい」。そんな意欲を持つ方や、若い人たちの可能性に満ちたアイディアをビジネスモデル化する、まさにその時に私たちがきっとお役に立てるのではないかと考えています。

‐これからの地域観光の展望と、それを実現するためのポイントは?

俯瞰で考えてみると、平成の初期までは地域観光はいわゆる「一見さん」をターゲットとして、見る・食べる・遊ぶをテーマとした旅行が主流でした。

このスタイルはいわば「消費型旅行」であり、観光客は一度行った場所に繰り返し訪れるのではなく、次は別の場所、さらに次はまた別の場所と、観光地を遍歴するような通過型の楽しみ方をしていました。

しかしこれからは、自らの地域に何度も繰り返し訪れてくれるリピート旅行者を増やしていくことを目標に掲げ、つねに新たな魅力の発掘と、持続的な情報発信を行っていかねばなりません。

こうした視点で観光地を捉えてみると、多くの地域に共通する課題として、「旅人に対する選択肢が足りない」ことが挙げられます。

これまでのように「ウチだけが良ければいい」ではなく、訪れたお客様に「ここには行きましたか?」「次はあそこを訪ねたらどうですか」と、地域内にあるたくさんの選択肢を提示してあげることが、次の来訪につながるのですが、自らの館内にお客様を囲い込んで、外に出かけるのは湯巡りだけ。今でもそんな運営が行われている地域も多いのが実情です。

観光に携わるあらゆる方々に、地域全体の魅力の発信者として「地域を楽しんでもらう」姿勢が根付いていけば、多くの観光地がきっと一つ上のステージに上がることができるのではないでしょうか。

そのため大切なのは、つねにお客様の目線に立つことです。

せっかく旅行に来たのに周辺のお店が全部休みでは、旅行者も二度と来たくないと思うのは当然です。ナイトタイムについても同様で、働いているスタッフはできるだけ早い時間に店を閉めたいと思うかもしれませんが、観光客のためにはできるだけ店を開けておくことが必要になります。

とは言え高齢化しているスタッフでは、対応にも限りがあります。

そこで若者の出番です。

こうした観光地のビジネスの隙間を活かして、若者が元気あるビジネスをスタートすれば、それが地域振興の突破口になる可能性があります。

まずは地域の観光に関わる方が、昭和の観光の常識から脱すること。現代風にアップデートした目で地域を見直し、今のターゲットに伝わるように地域をデザインしなおすことを目指してみてはいかがでしょう。

古い温泉地の街並みの中に、現代風の新しいゲストハウスが誕生する…。そんなケースを国内のあちこちで散見するようになっていますが、アフターコロナの今は、こうしたアクションに最も適している時期です。

これまでのいわゆる「成り行き旅行」ではなく、旅人が納得し、観光客が満足できる「理由のある旅行」を形作っていくために、私たちも可能な限りのお手伝いをさせていただければと思っています。

■プロフィール
野添 幸太さん
旅ナカラボ合同会社 代表

愛知県名古屋市出身
1985年に株式会社日本交通公社(現JTB)に入社し、渉外営業・店舗マーケティングを経験した後、おみやげやグルメの通販システムや、コールセンターの立ち上げ、観光情報サイトの立ち上げなど、旅行・観光に関わる新規事業の開発を担当。
2021年3月にJTBを退職し、旅ナカラボ合同会社を起業。

▶旅ナカラボ

※2023/07/26公開の記事を転載しています


毎週配信をしているリゾLABのメールマガジン「リゾMAGA」。新着記事の紹介、旅行・観光関連のデータやプレスリリースなど、旅館・ホテル業界に関わる方におすすめの情報を届けます。

▶メルマガ登録はこちらから


記事を最後までお読みくださり、ありがとうございます。励みになりますのでコメントいただくのも嬉しく、今後の参考になります。|また、業務ご相談を随時承っております。リゾLAB編集部を兼ねるエイエイピー観光戦略推進部の事業紹介サイト「伴走支援サイト」をご覧ください。