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アルコールを飲まない私が「お茶でいいです」と言わないメニューについて考えた|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム039

◯旅館ホテル・観光にかかわる、老若男女様々なプランナーによるリレーコラムです。

宿泊施設での食事の楽しみのひとつは「料理に何を合わせて飲むか」ということ。家族には地酒を楽しみにしている者もいて、最近は各地でワインの生産や地ビールの生産も盛んなので、いつもメニューをウキウキしながら見ている。

しかし、私自身と大学生の家族はアルコールを飲まない。飲めないわけではなく、お酒に弱いことを自覚しているので、酔ってしまうことを避けたい、という気持ちに近い。そして多くの場合、飲まない私たちは、ノンアルコールあるいはソフトドリンクのページを見てがっかりする。選べるラインナップがない!

さて、アルコールを飲まない、という選択については、私たちが特殊なのか、というと調べてみるとそうでもなく、時代の流れはどうやらアルコール離れが明らかで、それがデータにも現れている。

2020年度の日本の成人1人あたりの酒類消費数量は75リットル、ピーク時の30年前に比べ約26%減少したそうだ(国税庁調べ、沖縄県を除く)。原因のひとつが、若者のアルコール離れと言われている。厚生労働省が毎年行なっている「飲酒習慣」についての国民健康・栄養調査が上記のグラフだ。

飲酒習慣の定義は「週3日以上、1日1合以上飲酒する」で、1合はビールやチューハイではロング缶1本程度としているが、1996年の調査に比べ、飲酒習慣のある男性の割合は、20代で約3分の1、30代で約2分の1と若い世代ほど激減している。

もちろんコロナ感染を避けるために、接待も飲み会も減り、お酒を飲む機会は減った。だがそれだけではない。

「ソバーキュリアス」という言葉も聞かれる。身体や心の健康を考えて、あえてアルコールを飲まない、飲むとしても少しだけ楽しむライフスタイルのことで、数年前から欧米の若者を中心に広がっているそうだ。日本でもその傾向があり、飲むことがストレス発散やコミュニケーションの機会だった時代とは明らかな違いがある。

そんな時代にもかかわらず、である。

宿泊施設では、価格帯にかかわらず、「昔の宴会のソフトドリンク」だけを用意しているところも少なくない。定番は、ウーロン茶、オレンジジュース、コーラ、サイダー。せっかく旅行しているのに、ワクワク感も何もない。お料理の邪魔にならないように、ウーロン茶が無難か、というチョイスになる。乾杯するのにお茶かお水では具合が悪いからだ。

乾杯をするシチュエーションでなければ、お茶かお水の方がむしろよいとさえ思ってしまう。現場の声を聞くと、「定番のソフトドリンクだけでもコンスタントに出ているし、お酒を飲まないお客様はお茶かお水でいい、と言われることが多いので、見直しが必要とは思わない。」とのこと。「お茶かお水でいいです。」と言ってしまうのは、「お金を払ってでも飲みたくなるようなものがない。」という心の叫びでもある。

これではいけない!お客様に喜びを、私たちに売上を、ではないのか。

定番に加えて、ご当地モノのソフトドリンクを用意しているところも増えてきた。ワクワク感という点では、かなり満足度に貢献している。

例えば静岡では、
みかんサイダー
しずおか茶コーラ
富士山コーラ
うなぎコーラ
富士山サイダー
静岡マスクメロンサイダー
というラインナップになる。旅行中であれば、ちょっと気になるネーミングあり、ボトルをインスタに上げたりしたくなるものあり、である。こうなると、試しに注文したくなる。

さて、私たちが「お茶でいいです。」と言わなかった時に用意されていたものを挙げてみる。

麦茶(冷/温)おかわり自由
・・・お茶と言うのも気が引ける場合には、ウーロン茶と同様に選択肢になる。また、1杯500円で注文するかと言うと悩むが、おかわり自由となると気持ちが動く。係の方に聞くと、多くのかたが2杯の注文、3杯は稀にあるとのこと。

お茶 飲み比べセット
・・・3種1000円。お酒の飲み比べと合わせて掲載されていて、「では私はこちらを。」となった。飲み比べる、というのは楽しいし、食事中の会話にもつながる。

ノンアルコール マリアージュ
・・・3000円程度。アルコールのマリアージュがあるならば、同様に「飲まないお客様」への提案として目を引く。悩まなくても料理に合わせた最良の組み合わせで提供されるのがマリアージュの楽しさであるが、アルコールだけではないことに感激し、飲まない人も大切にされている感じがした。

ノンアルコールスパークリングワイン
・・・ミニボトルやグラス500円からフルボトル4000円程度。乾杯にはスパークリングワインやシャンパンが似合うと思うものの、飲まない人はウーロン茶、では雰囲気が合わない。旅行は、何かの記念やお祝い絡みですることも多く、注文したい理由があるはず。

絵になるボトルのミネラルウォーター/スパークリングウォーター
・・・コンビニやスーパーでは見かけることがないようなボトルであれば、フルボトルサイズ1000円程度。健康的でおしゃれで、気分が上がる。


ところで、メニューのラインナップだけでなく、注文につながるメニューの体裁も大切だと思う。元々「注文しなくてもいいかな。」と思っているところを、「注文してみようかな。」という気分になるには、よく見たくなるようなメニューでなくてはいけない。

文字びっしりのメニュー、居酒屋風パウチ一枚もの、は考えもの。アルコールメニューとノンアルコールメニューの分冊になっていると、飲まない人は選びやすい、と思ったこともある。

ここまで用意しても、決め手はやはりスタッフの声がけだろう。「ノンアルコールのお飲み物は、〇〇県産のものなどもご用意しております。」などと言葉を添得られれば、メニューを見ようという気持ちになる。ラインナップがよければ注文に繋がる。

また、アルコールの場合も同様に、飲んでいる途中で「お選びいただいた〇〇はいかがですか?」と感想を求められると、会話の中から自発的に別のものも試したい気持ちになるものだ。

さぁこれからも、「お茶でいいです。」と言わないメニューを楽しみに、テーブルに着きたいと思う。

※2023/03/30公開の記事を転載しています


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