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コロナ禍の中、歴史を築いた先人の想いを受け継いで誕生した「かたくらシルクホテル」が目指すもの

vol.011 かたくらシルクホテル ゼネラルマネージャー 雨宮清隆

新型コロナウイルス感染症が大きな社会問題となっているさなか、本年2021年4月22日にグランドオープンを迎えたのが長野県諏訪市上諏訪温泉にある「湖畔の洋館かたくらシルクホテル」。

経営母体の片倉興産株式会社は古くから製糸業を通じて長野の産業経済の振興に大きく寄与し、さらには日本の絹産業の隆盛を牽引してきた日本有数の企業体です。

長年にわたって社会に貢献してきた先人たちの想いを大切に織り込んで、「シルクのように五感を満たすおもてなし」をコンセプトに、お客様に上質なくつろぎをおとどけするホテルが誕生しました。

コロナという未曽有のできごとの渦中、新たな船出を迎えた「かたくらシルクホテル」ゼネラルマネージャーの雨宮清隆さんにお話を伺いました。


このホテル創設のプロジェクトはどんな経緯から始まったのでしょうか

諏訪市の道路整備計画によって旧ホテルの敷地の一部を市に譲渡することが決定しており、プロジェクト始動以前までにこの跡地をどう活用するかなど、ホテル以外の可能性も含めてさまざまな議論が繰り返されていました。

しかしこの地が日本の近代産業史の一翼を担ってきた片倉一族の本拠地であること。そして国の重要文化財の「片倉館」や同じく登録有形文化財の「菊の間」、「迎賓館」(旧片倉別邸)などの歴史的資産をより有用に活かして、これからも地域の隆盛に貢献していきたいという社長片倉康行の熱い想いもあって、21世紀の今ならではの新たなホテルを創造しようという結論を見たのが今から3年ほど前、2018年のことでした。

この方針のもと、旧ホテルの解体と同時に新たなホテルの具体的な設計がスタートすることとなったのですが、より上質なホテルの実現に向けて計画の細部までを何度も見直しながらの進行でしたので、全体計画が固まるまでにはかなりの時間を要しましたね。


「かたくら」「シルク」という企業アイデンティティについてのお考えは

養蚕・製糸業を生業として財をなした片倉興産は、その富を自社だけでなく地域の発展のためにも惜しみなく費やしてきました。

古くから長野県の産業・経済の隆盛はもとより日本の絹産業までを牽引しつづけ、「シルクエンペラー」とも称えられた「片倉」の名にはそれだけの貴重な歴史と重さが込められています。

この価値あるブランドを大切に受け継ぐとともに、そこに込められた想いをホテルの空間やマインドの中にどのように表現していくか、それが新ホテル開発の最大のポイントであり、その背景には先にもふれたように「かたくら」「シルク」という企業アイデンティティを活かして地域ブランドを再確立したいという社長の考えがありました。

2019年9月に旧ホテルを休館し、10月から3月までの解体工事の期間に新たなホテルのコンセプト立案を進めていったわけですが、その中で特に大きな焦点となったのが、「シルク」の要素をどう具体的な表現に落とし込むかという課題でした。

単にシルク製品を散りばめることでは私たちがめざすホテルを実現することはなかなか難しい。そこで私たちが注目したのは「シルク」の持つマインドそのものをホテルのホスピタリティとして取り込むことでした。

自然素材であるシルクの持つ独特の風合いや肌ざわりの良さ、その滑らかさや暖かさ、さらには絹ひと筋に打ち込んできた片倉の歴史そのものをホテルとしての上質なホスピタリティに結びつけられないかと考えたのです。

この考えが結実したのが、シルクと歴史を活かしてここにしかない特別な時間をご提供するという旨の新ホテルのコンセプトであり、私どものクレドとも言える「ビジョン」「ミッション」「バリュー」の3カ条なのです。


先人の歴史と想いを、新たなホテルで表現するために

片倉興産が今日まで連綿と受け継いできた企業理念には、「地域貢献」と「教育」という2つの大きな柱があります。

かたくらシルクホテルでもこの2つの理念を継承し、例えばカトラリーや精密機械など、諏訪地域を中心とした長野県産の物品の数々を積極的にホテルの備品として導入。

また海外の製品についても、かつてフランスのリヨンに片倉が出張所を置いていたつながりからフランス産のオーガニックタオルを採用するなど、可能な限り片倉の歴史と繋がりの深いものをチョイスしています。

ホテルのパブリックスペースや客室で、実際にお客様が手でふれ、お使いになる体験を通してその製品の価値を発見していただく…。それが私どもの考える地域との協業です。ただ売店に地元製品を置くだけではなく、私たちのホテルをギャラリーやショーケースのように活用していくことでこれまでなかなか実現できなかった本当の意味での横の繋がりが形づくられていくのだと信じています。


「教育」という面ではどのような取り組みをされていますか

もう一つの「教育」についてですが、片倉は長野県内外で高校を始めとする数多くの学校を設立・運営してきた歴史があります。

その歴史と想いをホテルの舞台にどう受け継ぎ、反映していくか。私たちがそのために取り組んだのが従業員のユニフォームの選定でした。松本市にある衣料専門学校の学生さんから新ホテルのユニフォームのデザインを応募いただき、最終決定したデザインをホテルのユニフォームとして正式採用したのです。

地域の教育に情熱を注いできた「かたくら」の想いをホテルという形の中に紡ぎ、織り込んだ、私たちのひとつの答えだと言っていいのではないでしょうか。


グランドオープンがちょうどコロナ禍にあたるという、逆風のタイミングとなってしまいましたが

そうですね。新型コロナウイルスの蔓延が世界的な問題になり始めたのがちょうど旧ホテル解体の時期でしたから、やはり大きな影響は避けられませんでした。

ホテルの着工から竣工に至るまでには数え切れないほどの工程や点検・確認事項が積み重なっているのですが、そのステップごとに確認処理の遅れや素材の入荷の遅れなどが数多く発生して、結果的に全体の工期も予定より遅れてしまいましたし、また予算面でも仕入れ価格が想定以上に高騰するなどの問題が日々発生し、正直なところ全体計画を一度見直した方が良いのでは?という気持ちが生じたことも事実です。

しかしそんな影響を受けながらも今回のグランドオープンに際しては、総合的に追い風でもあったとプラスに評価するようにしています。


プラスとして前向きに受け止めたというのは、例えばどんな点でしょう

具体的に言うと、まずは休館のタイミングです。旧ホテルの解体から新ホテルの竣工までの期間はホテルを休業せざるを得ませんが、当館の場合はそれが2019年10月から2021年4月の時期に当たります。

まさにコロナの影響が出始めた頃と時を同じくしているのですね。結果論ではありますがこのことで「書き入れ時に休館せざるを得ない」という事態は避けられたわけです。確かに予算面やオープン時期の面でマイナス影響はありましたが、総合的には今回のことはプラスに働いたものと納得しています。

それともう一つ。コロナ感染防止に「3密」の回避が原則なのは周知の通りですが、根本的には建物の換気を高めることが重要となります。

通常のホテルの場合は既存空間の中でできる限り換気性を高める努力が求められますが、私たちの場合、従来の建物よりも換気性能の高い構造体を建設することができたというのが大きなメリットでした。

通常のホテルの1.5倍もの換気性能を持ったホテル空間が完成したことで、例えばお客様やスタッフの消毒殺菌の取り組み、パブリックや客室などにおける衛生管理といった日々の最善の努力が、従来以上の効果を発揮できるようになったわけです。

もしも建物が既に完成した中でこのコロナ禍が発生していたとすれば、この根本的な対策は間に合いませんでしたから、これはまさに不幸中の幸い。先人たちの積み重ねてきた努力や社会貢献のおかげではないかと、深く感じ入る部分も大きいです。

片倉という一族が一丸となって長い時間をかけて紡ぎ続けてきた想い。それをしっかりと受け継いでスタッフに共感の輪を広げ、周囲の方々とも力を合わせながら、オープン後も倦まず弛まずより多くのお客様にご満足いただけるホテルを創り上げていくことが今の私の使命だと思っています。


■プロフィール
雨宮清隆(あめみや きよたか)
大手グループホテル・ブライダル業界での豊富な経験を活かして
2018年よりかたくらシルクホテルの前身、かたくら諏訪湖ホテルの統括支配人に着任。
新ホテルがめざすマインドの形成、コンセプトメイクから建設工程の進行、
スタッフ教育に至るまでのオープンプロジェクト全体を精力的に主導・推進。
グランドオープン後は、より上質なおもてなしと、ホテルとしての価値の
さらなる向上に向けて多方面にわたって日々積極的な取り組みを展開している。
■会社情報
湖畔の洋館 かたくらシルクホテル
2021年4月22日グランドオープン
公式サイトはこちら 
片倉興産株式会社
代表者 代表取締役 片倉 康行
従業員数 13名
事業内容 不動産・ホテル運営

※2021/07/21公開の記事を転載しています


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