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100年企業の「高付加価値戦略」 ―既存のイメージからの脱却を目指して

vol.001  株式会社聚楽 社長 加藤 治

大正時代に神田須田町の食堂経営から始まった聚楽は、レストランはもちろん、リゾートホテルやシティホテル、観光事業などを多角的に経営する老舗企業です。

戦前に外食産業の一大チェーン展開の確立を目指し、昭和30年代に日本のレジャー時代の幕開けとともにリゾートホテルをオープンした聚楽の先見性は、時代を見据え、また先駆者となり各業界をリードする存在であることは周知のとおりです。今回は、創業100周年を目前に控えた「これからの聚楽」について、加藤治氏に話を伺いました。


既存のイメージを一新!リゾートホテル事業の新戦略展開

—聚楽グループのコンセプトを教えてください

当社は飲食と宿泊の2つを柱に成長してきました。非日常で特別だった外食や温泉旅行を、誰にでも手が届くレジャーにすること。ですので、お客さまに一番近い、身近なポジションに聚楽があるように、その時代に合わせたサービスを提供することが重要だと考えます。

—ホテル聚楽のイメージを一新することになった経緯

聚楽のリゾートホテルは4館あり、客室数が一番少ない「万座ホテル聚楽」で60室、他は100室前後の大型ホテルです。80年代のバブル期までは団体のお客さまに多くご利用いただいたことから団体客のための設備やサービスが中心だったので、その時代に当ホテルをご利用いただいた方には、聚楽は団体向きのホテルというイメージが強いと思います。

1970年から1980年代に放映されたTVコマーシャルの効果もあってホテル聚楽の認知度は上がり、その頃は遠方からのお客さまが増えましたが、バブルの崩壊後、特に団体客が激減しました。それでも、個人や地元のお客さまに多くご利用いただき起死回生を図りましたが、なかなか客単価が上がらない現状がありました。

この客単価が上がらない要因のひとつは、客室の画一化です。主に団体向けに造られたホテルなので仕方がありませんが、今の時代には全くそぐわない状態でした。その後、客室の差別化を計画していく上で施設の老朽化、耐震補強の問題もあり、部分的な改装では解決に至らないことが明確になりました。これらの問題から、ホテル聚楽の施設だけでなくサービス、さらにイメージを一新するプロジェクトを行なうことにしました。


聚楽が目指す「高付加価値戦略」の推進

—時代とともに変化するマーケットへの対応

今は「個」の時代です。個人、グループ、ファミリーなど、多様化する旅のスタイルに合わせたサービスを目指し、改善します。今後さらに増加するアクティブシニア層の満足度を高めることも必須です。また、リピーターの獲得やインバウンド需要に合わせたサービスの提供など、地域の宿泊施設との差別化とホテル聚楽の品質を強化します。

—ホテル聚楽の高付加価値戦略を具体的に教えてください

まず、「みなかみホテルジュラク」の大規模リニューアルを行いました。みなかみ温泉エリアでは、当ホテルの規模をもつ宿泊施設が少ないこともあり、他の旅館と被らないポジションの確立を念頭に改革を行いました。

新しくなった「みなかみホテルジュラク」のダイニングブッフェでは「飯坂ホテル聚楽」で好評のライブキッチンをベースに、さらに「食」のエンターテインメントを楽しんでいただけるようになりました。また、客室は和モダンに改装し、どなたにもくつろげる空間を提供。コンベンションホールや売店などホテル内施設の活性化を推進しています。

また、施設のリニューアルとあわせて、館内エンターテインメントの充実や周辺観光の旬の情報提供など、お客様さまにとって常に新しい付加価値、すなわち「ホスピタリティ」の質を高めてリピーターの増幅を図ります。これを機に、多世代や外国のお客様をターゲットとしたブランディングの見直しを行ない、ホテルの名称表記を新しくしました。

平仮名とカタカナ、英文字で表現し、柔和なイメージにブランドチェンジしました。「みなかみ」は当館がある自治体名も平仮名ですので同様に、「ジュラク」はカタカナに変えても「あの聚楽ね」とイメージしていただけると思います。ロゴも新しくし、どなたにもリラックスしていただけるリゾートホテルとして、新たな決意を表現しています。


—他のリゾートホテルの高付加価値戦略について

現在、「飯坂ホテル聚楽」の大規模リニューアル工事を行っており、2020年3月に新たなる温泉リゾートとして生まれ変わります。さらに、「伊東ホテル聚楽」「万座ホテル聚楽」も高付加価値戦略を見据えたリニューアルを検討しています。「みなかみホテルジュラク」同様、グループやファミリーなどの個人客を主なターゲットに、客室の差別化をはじめとした新たな取り組みで、さらにお客様の満足度を上げられるように進めていきます。


聚楽グループのこれから

—聚楽グループが描く未来

聚楽は5年後に創業100周年を迎えます。このタイミングをよい区切りと考え、さらに新しい聚楽を、スタッフと共に創っていこうと考えています。現在決定しているプロジェクトとしては、2021年に神戸駅前にシティホテルを開業予定です。聚楽グループのホテルとしては初めての西日本出店となり、これを契機に全国へ展開しようと考えています。

リゾートホテル事業では将来的に、山岳や湖畔に位置する小規模なホテル、今までのホテル聚楽とはまったく異なる高品質なホテルを創りたいと構想しています。

もうひとつの柱であるレストラン事業については、ホテル事業とは違うサイクルで運営をしています。流行を先取りしたり、追いかけたりするだけでは中々上手くいかないでしょう。現在、聚楽ブランドとフランチャイズの二つの事業形態でレストランを運営していますが、ゆくゆくは聚楽ブランドのみ運営・拡大していくことを考えています。また、聚楽ブラントのレストランでは、スペイン料理に力を入れています。これらの料理関連のノウハウをホテル事業に活かしていくことも今後の課題です。


—3代目から4代目へのバトン

聚楽は祖父が創業し、私で3代目です。4代目となる息子はこの夏アメリカから帰国し、ホテル経営を学ぶために関西方面のホテルでお世話になっています。私も、聚楽の仕事に就く前、他のホテルで学んだことが現在に生きていますので、しっかりと学んできてほしいと思います。


—経営のヒントはどこにでもある

昭和40年代にいち早く取り入れたホテルレストランのビュッフェスタイルは、先代が海外から持ち帰ったアイデアのひとつです。私自身も年に一度くらい海外旅行をしており、昨年は東南ヨーロッパにあるバルカン半島を訪れました。先代のように、各国の文化を体感することはもちろんのこと、その経験が経営に生かされることも多々あります。
もちろん、国内にだってそれはあると思います。以前、3頭の愛犬と一緒に宿泊したホテルでも、小さな発見がたくさんあったと思います。そしてその時には気づかないことでも経験値として蓄積されていき、そういった経験から経営のヒントが生まれるのだと確信しています。


—激動の時代も平和な時代も、常に人々の生活に寄り添い発展してきた聚楽グループ。経営者、そして老舗3代目としての重圧を感じさせない加藤氏の温厚な人柄は、代々受け継がれてきたものを体現されているのではと思いました。創業100年を超えて次の100年へ。一歩ずつ確実に歩みを進める新しい聚楽に期待が高まります。本日はありがとうございました。

【プロフィール】

東京都生まれ
4年間アメリカで経営学を学ぶ。その後、ホテルオークラ東京(現:The Okura Tokyo)にてホテル経営を学んだのち、株式会社聚楽入社。

【会社情報】
株式会社 聚楽
設立 1924年(大正13年)
資本金 1億円
従業員数 正社員570人 パートタイマ―450人
事業内容 都市ホテル・リゾートホテル・各種レストラン
URL http://juraku.com/(公式サイト)

※2019/10/25公開の記事を転載しています


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