若手主導で顧客満足の向上を実現。稲取銀水荘・新ラウンジサービス「濤のむこう」プロジェクト秘話
【今リポ!】今、伝えたい!最前線レポート Vol.012
伊豆稲取温泉の老舗、稲取銀水荘では海の絶景を楽しめる6階ラウンジ「濤の音」を舞台に、1月10日より新たなラウンジサービス「濤のむこう」をスタートさせました。
※「濤(なみ)のむこう」はラウンジ濤の音でご利用いただける新サービスの名称です。
このサービスはラウンジを24時間開放し、チェックイン後やアフタヌーンのくつろぎタイム、夕食後のナイトタイム、出発前のひとときなど、お客様の旅のシーンやシチュエーションに合わせて、時間ごとに異なるサービスをご提供するもの。お食事や温泉、お部屋でのくつろぎに加えて、ゆっくりと絶景を眺めるひとときやラウンジでの語らいを、季節感やストーリーとともに新たな旅の魅力としてクローズアップする斬新な取り組みです。
この開発プロジェクトは昨年5月に立ち上げられましたが、注目すべきはそのメンバーが入社2年目の女性接客スタッフや4年目・5年目の若手男性スタッフ、中堅マネージャーなど若手中心に構成されていること。従来の固定観念を取り払い、若い社員の視点で稲取銀水荘の強みや優位点をいかにお客様の満足度向上に結び付けられるかを練り上げた企画となっています。
今回はそのプロジェクトメンバーのお一人である、マネージャーの森泰子さんにお話をお聞きしました。
▶稲取銀水荘公式サイト「濤のむこう」
-今回の新プロジェクトの背景には、どのようなお考えがあったのでしょうか?
露天風呂付きの高級客室や上質な料理をはじめ、これまで稲取銀水荘は、何よりもお客様のおもてなしに重点をおいてきました。しかしお客様の志向や時代の変化、また労働環境の改善などによって、従来から得意としてきたこのマンツーマンのおもてなしというスタイルから、変化に柔軟に対応できる新たなスタイルへと改革していく必要を感じるようになってきていました。
その解決策のひとつとして、館内の絶景スポットでもあるラウンジを活用できないかと考えたことが始まりです。
-プロジェクトの立ち上げはオープンの約半年前、昨年5月のことでした
今回のプロジェクトの大きな特徴は、もちろん支配人を始めとする多くのスタッフやコンサルタント会社の㈱リョケン(以下リョケン)などからのサポートをいただいたものの、基本的には企画立案から具体的な提供サービスの内容、運営体制までのすべてを若手を中心としたプロジェクトチームによって進めたことにあります。
計画の進め方についても、従来のように先輩社員がリードするのではなく、チーム内ではリーダーを決めずスタッフ全員がフラットな立場で参加することを重視していました。
私自身はこのメンバーの中では先輩に当たるので、都度のミーティングや課題への対応に際しても、できるだけ自分の意見だけで決めてしまわないようつねに配慮していました。
若手中心ですからもちろんこうしたプロジェクトの経験がない人も多く、まず何から手を付けるべきなのかなどの戸惑いもありましたが、2.3ヶ月経って計画の輪郭がだんだん見え始めてくると、こうした若手メンバーが目に見えて積極的になり、具体的なメニューの選定などもほとんど若手が行うようになりました。
-自分たちで進めた企画が形になった、その時の想いはどんなものでしたか
私もメンバーの中では先輩にあたるとはいえ、こうした大きなプロジェクトに参加したことはありませんでしたので、「生みの苦しみ」というものを初めて自分の体験として味わったというのが正直な感想です。
しかしその一方で、ダイレクトに自分自身のスキルアップや成長につながる貴重な経験だったという確かな手応えも感じています。
何かあればまず真っ先に身体を動かすスタッフや、声は小さくても自発的に課題に取り組んで着実に計画を進めるスタッフなどなど、個性は多種多様ながらも前向きなメンバーが集まり、それぞれの個性がうまく噛み合ったプロジェクトでしたから、今振り返っても、メンバーの誰一人が欠けても実現できなかったプロジェクトだったなと実感しています。
メンバーも「良い体験をさせてもらった」という思いは同様です。すべてを自分たちに任せてもらい、いわゆる「自分ごと」として自発的・能動的に取り組めたおかげで自分の成長を実感できましたし、つねに「自分たちがやりたいこと」を実現しようという考え方が一貫していたことが、今の結果につながっているのだと思います。
-スタートして約3ヶ月、お客様からの反応はいかがですか
「濤のむこう」はラウンジが24時間開放され、いつでもお客様が自由に利用できるのが最大の特徴で、お客様がいつでも気兼ねなく自由にくつろぎの時間を楽しんでいただけることが最大のセールスポイントです。
24時間のうち14時間はスタッフが常駐していますが、従来のようにスタッフがお客様にぴったり寄り添うのではなく、お客様の必要に合わせてスタッフがきめ細かなサポートを行える、いわば「見守る」スタイルでのサービスへと考え方を変えています。
お客様からも自社アンケートとOTAを問わず、おかげさまで非常に高い評価を頂戴しています。特にリピートの方からは「これまでの銀水から、良い方向に大きく変わりましたね」とお褒めいただくことが多く、また初めてお越しの方には「これまでの旅行ではこういうサービスや体験をしたことがない」と喜んでいただいています。
旅館ホテルにとって「高付加価値化」はこれからますます重要になっていきますが、このサービスがスタートしてからお客様の単価が順調にアップしてきていて、その好評を裏切らないようさらにサービスをブラッシュアップさせる努力を重ねているというのが実情です。
こうしたお客様の動向を見ていて感じるのは、「お客様が嬉しいと感じるサービスのあり方」が確実に変わっているということです。お客様はこれまでのように「高級なものを数多く」ではなく、「自分が大切にするものを自分で選べること」「自分らしい時間を過ごせること」、また「ここでしかできない体験」を求めています。
このセルフ化した新たなラウンジサービスによって、私たちスタッフはお客様が本当に求めているおもてなしに集中することができるようになりました。例えば、お客様の目の前でみかんを絞ってジュースをご提供するなどのサービスは、きっと「濤のむこう」でなければ実現することができなかったでしょう。
「今のお客様のニーズにフィットした、新たな価値の創造」というテーマは概ね実現できたと思います。
-プロジェクトの目的と成果という面で、手応えはいかがでしょう?
このプロジェクトは、①新しい取り組みをスタートし、②お客様に喜ばれ、③スタッフも成長するという、欲張りな狙いを持ったものでしたが、現時点では自己採点で95点をつけて良いのではないかと思っています。
若手がプロジェクトを推進したという実績は、「若手先輩が大きなことにチャレンジできる」会社として採用面でも大きなアピールになると思いますし、他のスタッフについても「今度は自分が」とモチベーションが向上するなど、多方面に波及するものだと思います。
ただしこのプロジェクトはまだようやく形になったばかり。これからが真のスタートだと思っています。リピートのお客様が次にお越しになった時に「また新しくなったね」と感じてもらえるよう、つねにサービスのあり方を見直し、また磨き続けることが重要ですし、コロナ後の3年ぶりとなる繁忙期に向けて新しい企画も準備していく必要があります。
思いがけないトラブルやアクシデントもあるとは思いますが、このプロジェクトで得た貴重な経験をしっかりと糧にしていけるように、今後も取り組んでいけたらと考えています。
このプロジェクトで私たちは他の旅館ホテルの取り組み事例の数々を参考にさせていただきました。その中で感じたのは、今回の私たちのような取り組みは、どんな宿でもきっと実施することができるということです。
私たちの事例がもしも参考になるのでしたら、ぜひ多くの方につぶさにご覧になっていただき、少しでも刺激としてお役立ていただけたらプロジェクトメンバーの一人として光栄に思います。
※2023/04/21公開の記事を転載しています
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