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【2022年番外編】困った採用難と定着化…作戦あの手この手|人材開発コンサルタントの「人」にまつわるこぼれ話

私は旅館やホテルスタッフの作法やマナーを中心とした接客のコンサルティングをしております。お客様へのご挨拶は、単なる振る舞いのひとつではなく、おもてなしのスピリットそのものである、との想いを大切にこれまで数多くの皆様と接してきました。

観光業界、特に旅館ホテルをご経営する皆様、また現場を担って奮闘される皆様とのたくさんのお付き合いの中で、この数年話題に上るのは、やはり「ひと」のことです。

2022年は、大きなうねりがありました。春には、どちらかと言えば、明るい話題が多く、良い環境になったと感じられる喜ばしい時期でした。

ブライダル業界や都市ホテル、航空業界への就職を考えていた卒業生を中心に、サービス業への関心の高い人達が、就職先として観光地の旅館ホテルにも目を向けてくれました。例年にない良い人材が入ってきてくれた、とも聞かれました。初めて大卒の新卒を採用できた、という声もありました。

そのような中で、間もなく残念なことが起き始めました。

先輩社員の相次ぐ退職です。相次ぐ、というのは、1人の退職をきっかけに次々とその周りの人が退職願を出す、あるいは、数名が同時に退職願を出すという状況でした。

「2年目の五月病」という言葉を聞かれた事はあるでしょうか。入社して1年目は大事に育てられ、周りから気にかけてもらいながら過ごしていた人が、2年目になると急に放り出されたような気持ちになる、というものです。

確かに、育成については、入社時から半年、長くても1年間のカリキュラムや育成体制をとっていることが多いようです。これは、旅館ホテルに限らず、一般企業も同様です。

そのため、2年目になると育成カリキュラムから外れるかサポートが薄くなり、5月ごろになると、急に居場所を失ったような気分になったり、このままここにいても成長のサポートを受けられないのではないかと考え、不安になったり外の社会に目がいってしまったりする状況を指して、「2年目の5月病」と言うそうです。

成長は、自分自身の取り組み次第だと思うのは上司ばかりで、入社して数年の人たちにしてみれば、それまでの学校教育の影響でしょうか、成長をサポートしてくれることが当然のことのように思えているのも、この「2年目の5月病」の原因の一つです。

5月くらいから始まるこのような社内の不穏な空気が、次第に先輩たちの退職につながっていくことも少なくありません。

「2年目の五月病」だけではなく、各地の旅館ホテルでは、感染の拡大や旅行支援策の動きに影響を受けて、お客様の波が押し寄せたり、ひいてしまったり、現場は翻弄されるような日々を送っていたことと思います。もちろん、それは今でも続いていて、スタッフが充足できないために、やむを得ず休館日を設定して休暇を与えたり、予約を制限したり、苦しい対応を迫られています。

しかし、そのような状況にあってこそ、新たなアイディアが生まれるものです。挑戦的な活動によって、採用難定着難を克服している例も見せていただきました。

まずは、採用のアイデアから。



◎ダブルワークの承認とパート採用の強化

A館ではダブルワークを積極的に承認して、短時間パートの採用を強化しています。また、都合のよい時間だけ働いてもらうために、ワークシェアの考え方を取り入れています。また、正社員だけではなくパート従業員にも福利厚生を充実させることで、パート勤務の働きやすさをアピールしているそうです。


◎大学生のアルバイトの積極的な採用

大学生のアルバイトを積極的に採用している例もあります。

B館の大学生への厚遇には目を見張るものがあります。寮の家賃だけではなく、水道光熱費も無料、食事もまかないを喫食する場合は無料です。さらに、市内の大学学生寮から通う学生のために、通勤用の車を1台貸与していて、これを学生アルバイトに乗り合いで使ってもらっています。また勤務しているアルバイト学生から、その学生寮の仲間を紹介してもらっているそうです。

C館は、電車で20分ほどの距離に大学があるのですが、サークルとの連携をとっていて、サークルの活動費を捻出したい学生さん達にも喜ばれ、会社も助かっています。夜警アルバイトが毎日2名必要なのですが、サークルのメンバー同士で出勤を調整してくれています。

また、週末やお盆正月のアルバイトの確保はどちらも苦労をされていることと思いますが、このC館では、出勤ポイント制度があり、平日は1ポイント、週末や特日は3ポイントを与えています。3ヶ月ごとにポイントを集計して、そのポイント分を手当として上乗せしています。少ない人は5000円ほど、多い人になると30,000円ほどになるそうです。

D館ではOB、OGとの退職後の関係を重要視しています。忙しい時だけ声をかけても断られてしまうことが多かったので、考え方を改め、日ごろから情報発信を行ったり、コミニケーションを取り続けることで、いざと言う時に手伝ってもらえる関係を作っています。

以前から地元の学校とは関係を作ってきたところもあると思いますが、最近はこれをさらに進め、地元の高校や専門学校での出張講義を申し出たり、テーブルマナー体験教室を請け負ったりしながら、学生たちの関心を集めているところもあります。

E館では、この方法で2名の調理配属の採用ができました。和食を学ぶ学生も和食調理を志望する人も減っているとの声が聞かれますが、このような地道な方法が効果的だと感じられた話でした。


◎基本給を上げる

F館の話はシンプルです。基本給を20,000円アップしたら、昨年は1人もなかった応募が、今年は5名あったとのことです。金額は採用に響いたという実例です。

定着については、採用よりも打つ手がないと頭を抱えそうな昨今ですが、闇雲に戦うのではなく作戦を立てる必要もありそうです。


◎外国人スタッフの積極的な採用

G館では、外国人スタッフの採用と定着にも目を向けています。長く勤めることができる仕組みとして、管理職への登用や、家族寮の拡充を図っています。特に家族寮は、就職してから社内結婚をする人もいて、このメリットを生かしたいという考えです。


◎企業内保育所の設立

企業内保育所の魅力が採用と定着に貢献している例もあります。H館では、短時間パートの場合に、保育園に預けることが難しいという理由でやめてしまう人もありましたが、企業内保育所であれば、短時間パートも休日のパートも勤務してもらいやすくなり、採用と定着が進みました。

企業内保育所が難しい場合に、地域で開設できないかを検討していく時代ではないかと思います。


◎勤務形態の見直し

定着の問題を考えるときに、よく話題に上がるのが旅館ホテル特有の勤務形態、中抜けの問題があります。

I館では、昼間にできる仕事を増やして、2交代制(2部制)に移行をしました。作業は合理化を追求しても、接客の合理化は限界があると考えたからです。

接客は商品の方針次第ではありますが、品質を維持しようと思えば、それなりの接客人員が必要となり、これまでは派遣社員で補ってきたものの、一人当たり月30万円代後半の費用がかかるのであれば、二交代制も選択肢に入ると、計算をした結果です。


◎調理部門の労働環境の見直し

調理部門の定着に悩んでいるところも少なくないと思います。限られた人数で調理を賄うために、かなりの長時間労働や加工品の増加がやむを得ない状況になっているかもしれません。働いても技術が身に付かないことを憂う声も聞かれます。

また、旅館の調理の場合は、上に立つまでに時間がかかりすぎる印象も軽視できません。外では、30歳を過ぎると調理長になったり、店を出したりすることも目にする時代です。

今の調理場が悪循環に陥っていないか、会社全体の問題として取り組んでいかなければならないと思われます。

J館では、調理長だけではなく、若手リーダーたちに会議に参加してもらったり、職場改善のアイディアを出してもらったりする機会を増やしました。また、育成についても現場任せにせず、サポート面談の機会を定期的に持つことを組織的に進めたり、調理の若手社員が他部署のメンバーと交流する機会や共に学ぶ機会を作っています。


◎各種手当の充実

K館では、各種手当制度の充実を図り、家族の大学進学に合わせて支援をするための進学支援貸出制度も作りました。また、介護や育児など、必要に応じて働きやすい時間を選べるようにしています。

家族の状況に合わせて会社がサポートできることを提示することで、勤務を続けられる安心感を生み出しています。


◎残業時間の見直し

残業時間に目を向けているところもあります。

L館では、みなし残業があるからといって、残業を容認してきたことを反省したそうです。若い世代には、みなし残業が理解されにくい面もあり、また残業前提の長時間労働が重なると、体力も気力も下がってしまい、モチベーションの維持が難しくなるからです。

本来の勤務シフトでは間に合わない仕事や終わらない仕事は、これまで早出や残業としてあらかじめシフトを調整して設定してきましたが、勤務時間の中でどのように効率よく仕事を進められるかを徹底して検討し直しました。

みなし残業の制度はそのまま残していますが、決められた時間の中で集中して生産性を上げることが、若い世代のモチベーションを支えています。

いかがでしょうか。

どれも難しそうに思うかもしれません。逆に、どれもできるように思うかもしれません。他社の挑戦を眺めて、何かを始めるきっかけにしていただければ幸いです。

遠くない将来、「ひと」の話題が明るい話題となるような業界になっていくことを願い、リゾLABはこれからもご一緒させていただきます。

※2022/12/28公開の記事を転載しています


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