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「送客」から「創客」へ。新たな価値を生み出す持続可能な旅館づくり。

Vol.017 株式会社栄楽館 代表取締役社長 菅野 豊臣さん

東北の南玄関、郡山市の奥座敷として栄えてきた磐梯熱海温泉。株式会社栄楽館は当地を代表する旅館グループであり、「萩姫の湯 栄楽館」、「ホテル華の湯」、「湯のやど楽山」、「浅香荘」の4つのコンセプトの異なるホテル旅館を経営しています。

昨年、同社の社長に就任され、伝統を大事にしながらも時代に即した様々な改革を力強く進めている、菅野豊臣さんにお話をうかがいました。


コロナ禍での新しい価値観に対応した
商品リニューアルについて教えてください。

コロナ前は旅行エージェントからの送客がメインで、直間比率は3対7ぐらいでした。近年、団体旅行から個人旅行へと旅のニーズは変化しつつありましたが、コロナ禍でその流れは加速し、個人客に対応した商品づくりが急務となりました。

リニューアルは、「栄楽館」からスタート。部屋を個人客向けに改装し、ツインルームを主とした和モダン客室18室を、昨年リニューアルオープンさせました。

コロナ禍でのサービスの見直しも行い、客室での呈茶をやめ、ロビーへのセッティングで接触を減らしました。

「栄楽館」に続いて、「華の湯」でも、宴会場から客室への改装を行い、昨年11月に、源泉かけ流し露天風呂付プレミアルーム2室をオープンさせました。改装とあわせて、既存の特別室1室にも、要望の増えているベッドを導入し、商品力の強化を図りました。


さらに、事業再構築補助金を活用し、第2弾のリニューアルを行いました。2名使用の「ジャパニーズツイン松韻」6室、ワーケーションデスクを備えた「ゆったりシングルルーム」11室、プレミアムラウンジ、専用ダイニングを完成させ、プレミアエグゼクティヴフロアとして今年4月オープンしました。

「ジャパニーズツイン松韻」は、和モダンスタイルの客室。セミダブルベッド2台を置き、風呂は設けずシャワールームを設置しました。スマートテレビやワーケーションデスク、高速Wi―Fiも備え、温泉宿への新しいニーズに応える仕様となっています。


プレミアラウンジとダイニングは、プレミアエグゼクティヴフロアの宿泊者が利用できる施設です。ラウンジにはドリンクやスイーツなどを用意し、滞在中自由にご利用いただけます。ダイニングはグループ利用で夕食を共に楽しみたいなどのニーズに対応しています。

リニューアルの成果はいかがでしょうか。

コロナ禍という逆境下でのリニューアルで、時代のニーズに即した商品づくりができ、高単価のお客様にシフトすることができました。コロナがなければ、今も団体客を追いかけていたかもしれません。

「栄楽館」をトライアルにし、「華の湯」での展開に移行できたことも、グループのメリットが生かされたと思います。家族経営で普段からよく話をしていることも、決断の早さにつながりました。


昨年常務から社長に就任されました。
社長としての新しい取り組みについてお聞かせください。

昨年9月の株主総会の一週間前に「社長をやれ」と言われ、一週間で所信表明を考えました。「人気旅館ではなく繁盛旅館を創る」ために、旅館の4つの商品「料理・サービス・施設・環境」の磨き上げを行っています。

まず、「料理」については、持続可能な社会への関心の高まりのなかで、「日本文化」と「地産地消」を柱に、お客様の口に運ばれるまでのプロセスを見直しています。また、旅館業界だけではなく、飲食業全体をライバルとして「脱・お膳料理」を図っています。

次に、「サービス」は、身だしなみの徹底と、お出迎えやお見送り、お客様との会話を大切にしていきます。また、様々なテーマの社内勉強会や研修を行い、スタッフのスキルアップと人間力の向上につなげます。

「施設」は、清潔で日本文化の品格を感じる宿であるために、お客様目線での定期的な館内点検を行っています。また、武器である大浴場のメンテナンスと、新しい温泉の楽しみ方の提供を行っていきます。

「環境」については、当館を取り巻く「熱海町」という場所をよく知り、そしてお客様に話してほしいと思っています。スタッフもサラリーマン感覚になり、この素晴らしい環境がただの通勤路になっています。見慣れた景色の魅力を再認識し、ストーリーを知り、お客様との会話を豊かなものにしていきたいと思います。


今期の経営指針のキーワード
「時短、休日の確保」の取組について教えてください。

持続可能な企業であるためには、働き方を進化させていかなければなりません。そのために、DXの推進と、SDGsへの取り組みを進めています。

例えば、リアルタイムにメッセージのやりとりができるコミュニケーションツール「WowTalk」や、シフト管理ソフト「Opsplot」を導入し、業務プロセス改革、シフト改革を行い、時短化を図っています。

SDGsについては、8番目のテーマ「働きがいも経済成長も」を実現するため、マルチタスク化を進め、労働生産性の向上を図っています。また、13番目のテーマの環境面では、割り箸を塗り箸にするなど、館内備品を環境に配慮したものに更新したり、食器洗浄の業務プロセスの改革を行っています。

食器洗浄はこれまでとても時間のかかる作業でした。コンサルタントの指導を受け、ビュッフェで使用していたの仕切りのついたプラスチック皿を廃止し、丸い陶器皿に変えたところ、2時間の時短が可能となりました。仕事のプロセスを変えれば生産性が上がります。余剰時間を新しい創造的な仕事に振り向けることも可能になります。

菅野社長が今後目指すものや将来の展望についてお話しください。

「人気旅館ではなく繁盛旅館を創る」。私の使命は、栄楽館グループをこの熱海町の地で、永遠に繫栄していく組織にすることです。

長く先の見えないコロナ禍は、旅館の経営環境を大きく変えました。当社の社是である「不易流行」の下、これまで培ってきたものを大事にしながらも、時代に即した旅館の新しいストーリーを、社員と一緒に、また地域と一体となって創っていきたいと思います。

■プロフィール 
株式会社栄楽館 代表取締役社長 菅野 豊臣(かんの とよおみ)
1973年7月17日生まれ 郡山市熱海町出身 
平成9年(株)栄楽館入社
福島県旅館ホテル生活衛生同業組合青年部部長、
全国旅館ホテル生活衛生同業組合青年部副部長や同常任相談役を務めた
令和3年10月、株式会社栄楽館代表取締役社長に就任。

※2022/07/28公開の記事を転載しています


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