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ここに生かせ!デジタル・マーケティング考|観光マーケティングプランナーのちょっと視点を変えた連載コラム047

学問として経済に関することを学んだことがあれば一度は聞いたことがある「マーケティング」。

どうもカタカナにすると難しいが、要するに「売れるための仕組み」にほかならない。世の中にデジタルが広がる昨今、マーケティングにも「デジタル」の特性を生かすことが増えてきている。

いやむしろ、今や「マーケティング」からデジタルを抜く方が難しいかもしれない。つまり現代のマーケティングとデジタル・マーケティングは、ほとんど同義と言っても過言ではない。

デジタル・マーケティングの時代となり、以前ではかなりのコストや手間、時間を要していた「調査分析」は非常にスピーディーに手軽に行える時代となった。

『デジタル・マーケティングを生かせ!』と言われるとどうしても身構えてしまう方も少なくないが、最初から100%を目指すよりも身近な部分からチャレンジしてみては如何だろうか。すでに多くのホテル・旅館では当たり前になっているものと思うが、その最も簡単で効果的な方法は、自館・自ホテルの公式サイトに関する利用状況、特に「自社サイト経由の予約導線」を今一度ウェブサイトのアクセス解析画面等でつぶさに確認してみることだ。

例えば『時代を考慮した新しい企画を考える』『映えるスイーツメニューを考える』といった華々しさは皆無だが、まず当たる企画へのアイディア出しよりも、今誰が、どのページを中心にどれくらい閲覧してくれ、どのページで離脱しているのか?また憚りなく申し上げるのであれば最も理想的な自社サイト経由での宿泊予約のために、何が障害になっているのか?そういったデータをリアルタイムで見て、変化を目で確認し、認識しておくことが非常に重要なのである。


自社サイトにおける改善課題は何なのか、その中でまず「何をすべきか?」といった課題解決の優先順位づけを、新しいアイディア出しの前に、しっかり把握しておきたい。

例えば予約ボタンは見やすい位置にあるか、宿泊プランや滞在中の体験の写真等、ターゲットの心が動くコンテンツがサイト内の目立つ位置に配置できているか、予約システムは使いやすいかなど、特別なことではなく小さなことからコツコツと継続して改善していくことが実はとても重要だ。

自社内でそうした自社サイト分析を仕事とするセクションを持つ宿泊施設も多々あり、考えてみれば至極当たり前のことなのだが、ある程度繁盛されているホテル・旅館ほど自社サイトを大切に考え、またその動向を注視し、日頃より「きちんと手入れしている」印象が強い。

そうした検討の中でどうしても「数」、つまり数を増やす部分に目が行きがちなもの。

「数」はもっとも如実に結果を語ってくれるし、反応も確認しやすい。しかしながら今一度、そこで少し立ち止まって考えたいことがある。それは「受け入れ」の問題である。
 
ご存じの通り、アフターコロナで経済が再び動き出し、さらに人手不足はあらゆる業種業態で大きな課題となっている。

2024年問題と言われる物流・運送業にスポットが当たることも多いが、相変わらず日銀が発表する雇用人員判断指数で他の産業よりもダントツで人手不足状況となっているのが「宿泊・飲食サービス」従事者。売上を上げようと目論んでも、人材キャパシティを超える集客は出来ないし、また今すぐにそれを改善できる状況でもない。

とすると件の「デジタル・マーケティング」で出た分析結果をどう生かすのか、はとても重要なポイントとなる。

デジタル・マーケティングを、いかに自館にプラスをもたらすものに生かすか。その答えは「質の向上」、分かりやすく言えば高単価客の獲得による客単価アップへのチャレンジ、にある。

現状提供しているサービスで料金格差に関する部分は客室や提供される食材をメインとする料理に起因するものが多く、よくよく考えてみると、実は「儲かるお客様」にも「数で勝負」のお客様にも、一組辺りに要する労力はそれほど大きな差は無い。

明確にフロントやフロアを区分して同じ建物の中で「ハイクラス向け客室階」を持ちオペレーションしている宿泊施設もあるが、ほとんどのお客様は同じフロントでチェックインされ、同じ大浴場や露天風呂をご利用され、朝食はほとんどどのお客様も同列でバイキング対応、というケースが多いと思われる。そうした中で、「デジタル・マーケティング」を、数(=宿泊客数の増)ではなく質(=高単価直予約客の獲得)のために活用することを考えてみたい。

前述の通り、最もやりやすい施策は自社サイトを経由した予約客獲得の比率を上げること、そして自社サイト予約ならではの特典を設定した「ちょっと上プラン」に力を入れることで、利用されるお客様の数は維持したまま、売上や利益率を改善していく、という施策ということになる。


ではどう「ちょっと上」の商品を構築するか。

最も手軽なのが「モノ」に頼ること。当然客室単位での導入が前提となるが、ベッドやマット、寝具をよりグレード感のあるものに変更する、客室のテレビを大型でネット・コンテンツも楽しめるスマートタイプのものに変更する、冷蔵庫の飲み物をインクルーシブする、手軽においしいコーヒーが客室内で楽しめるマシンの導入といった部分。

そうした「手入れした客室」をしっかりと自信を持って販売できる客室として自社サイト販売プラン対応客室として優先的にお客様に提供する。自社サイトにおいても、そうした「ちょっとした特別感を味わえる客室にお泊り頂けること」はしっかりプラン説明ページに盛り込みたい。

商品づくりだけでなく導線の見直し・改善も重要な対策のひとつ。ある程度パソコンやスマホを使って予約慣れされているお客様や、そうした方法に馴染んでおられる世代の方には問題ないが、どうしても馴染めない、といったお客様の声も聞く。

そうであれば時間は限っても構わないので、予約ページに「画面を見ながらお気軽にお電話ください」「Webプランの電話予約もOK」等の表示を加え、最終的な予約部分は電話でお受けする体制と、それをしっかり明記することでも、そうした「不安」や「滞り」は改善していくことが可能と思われる。

おそらく多くのホテル・旅館の皆さんはご経験されておられると思うが「数」で動くお客様は「増える」も「減る」も大きい。「質」を評価いただき、ファンとなって頂いた「質の良い」お客様は浮気されることも少なく、また口コミのアンテナになって頂けることも多い。

自社サイト経由の直予約の見直し、特に「質(高単価化)」を具体的な目標に、ぜひ自館の「デジタル・マーケティング策」として取り組んでみては如何だろうか。


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